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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [6] -玉置真依さん

お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声を共有する連載です。第6回目のゲストは高野山真言宗・仁玄寺(北海道余市郡)の玉置真依さん。お話をうかがうホスト役は、一般社団法人未来の住職塾の松﨑香織がつとめます。

写真: 玉置真依さん提供。ご自坊・仁玄寺の境内にて。

ゲストプロフィール
玉置 真依(たまき・しんえ)
1988年生まれ、京都大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科修士修了。2016年より実家である仁玄寺に戻る。宗派を超えた僧侶同士の、また他業種の方との連携を探る会「てらつな」代表。

北海道のお寺に生まれ、「たまちゃん」の愛称で親しまれる真依さんは、副住職となって今年で5年目。檀務に勤しむ一方で、お寺の外とも積極的に繋がることを大事にしながら様々な活動に取り組まれています。

◉ 外の世界と繋がりながら、深める密教

真依
子供の頃から、「女の子しかいなくて仁玄寺は跡継ぎどうするの?」と周囲に言われながら育ちました。でも学校の先生は、私が跡を継ぐ可能性を見据えて「広い世界を見ておきなさい」と言ってくださっていて。お寺の外の人たちとたくさん繋がりたい、という思いはその頃から持ち続けていました。

自坊を継ぐと決めたことは、自分の中ではごく自然な流れだったように思います。仏教やお寺のことはほとんど知らずに大学を卒業して、大学院で学び始める前に、高野山大学の道場「大菩提院」で四度加行を終えました。そこで初めて本格的にお寺や仏教に触れ、「自分がこれまで生きてきた世界と全然違うんだ!」と、新鮮な驚きを味わったことを覚えています。密教の行法の入り口を教わるなどして、修行は私にとってすごく楽しさと発見に満ちた時間でした。修行を終えて帰ったら、「明るくなったね。」と言われたくらいです(笑)

松﨑
真依さんは、真言密教がすごく好きですよね。私にも、その素晴らしさを折りに触れて教えてくださいます。

真依
何をどこまで押さえたら「仏教を知っている」と言っていいのか、今もまだ分からないんですよね。いろんな人がいろんな形で体現しているから、総体を掴む必要はないのかな、とか、俯瞰して見つめられるものでもないのかな、と思ってみたり。生涯そんなふうに問い続けることが、仏教なのかもしれないです。「一通りのことを学んで、やっと自分は何も知らないことに気づけるんだよ」と言っていただいたことがあって、その言葉はとても心に響きました。いつか私も、そう言える僧侶になりたいです。

松﨑
ご自坊では、法要以外にも気軽に地域の方がお寺へ来られるようにと、写経会をされているそうですね。

真依
3年前から始めました。60代から80代くらいの方々が月に一度、10名ほど集まられます。檀家さんも、そうでない方もいらっしゃって、お友達を連れて来てくれることもありました。写経会って、やはり定番ながら引きつけるものがあるんだな、と感じます。私も一緒に参加して楽しんでいますよ。次は写仏も取り入れたいと思っています。

◉ 「お寺の女性像」に怖気づく!

真依
住職である父からは、後継者としていろいろと教えてもらい、母からは、台所周りのことをあれこれ指導されています。法要の時は僧侶として立ち回りたいところですが、台所のこともやらなければならなくて、他の女性僧侶の皆さんはどうされているんだろう…、と思うことも。僧侶になってから、「やはり家事は女性がしなくてはいけないのかな、留守番はいつも女性の役割なのかな。」ということをよく考えるようになりました。将来的にはお寺の外へ出られなくなってしまうのかな、とか、いろいろ不安に思うところがあります。

松﨑
そんな思いの中で、今から外との良き繋がりを模索されているのですね。

真依さんが代表を務める「てらつな」の活動もその一環ですね。始めたきっかけを教えてください。

◉ 宗派を超えた学びの集い「てらつな」の誕生

真依
あるとき、先輩僧侶が「宗派を超えた人たちと出会い、語り合いたい」とおっしゃるのを聞いて、それなら私が幹事になって飲み会を開けばいいんじゃない?と思ったのがきっかけです。異なる宗派の方たちとは、一般社団法人リヴオンの「僧侶のためのグリーフケア連続講座」や、松﨑さんが運営している「未来の住職塾」の札幌クラスで繋がっていましたし、もともと懇親会の幹事をするのが好きで、自分から発信して集まることが得意なんです。
お坊さんだけで集うと内輪の話で終わってしまうかもしれないと思い、ソーシャルキャピタルやウェルビーイングなど、いろいろ学べる研修会として2019年にスタートさせました。半年に一度の開催で、毎回30人くらいの僧侶が集まります。今後は、寺族女性の方にもリーチして、お誘いしたいです。

◉ 女性同士のエンパワーメント、そしてその先へ

真依
女性僧侶の仲間たちとは、「誰もが弱音をこぼしたいときにこぼせて、やってみたいと思ったことを応援してもらえたり、外と繋がりやすくなるような環境を生み出せたら良いね。」ということを話しています。「女性は家事と育児と留守番!」という状況も、変えることはできないのかな、とも思っています。実は、コロナをきっかけにオンライン文化が進み、私の女性特有のやりにくさに理解ある先輩たちから励ましてもらえる機会が生まれました。自分から言う前に「こういうことがつらいんじゃない?」と気にかけてもらえるのは、本当に力をもらえるし、嬉しいことです。

松﨑
真依さんにとって心地よい環境に整ってゆくことを願っています。今日は有り難うございました。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院54号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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