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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [21] 小林雅美さん

こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。

この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第21回目のゲストは、本門佛立宗・光薫寺(福岡県福岡市)の小林雅美さんです。

取材・文 ● 松﨑香織

ゲストプロフィール:
小林雅美  Masami Kobayashi
東京都出身。大学卒業後、横浜市保健所で精神保健福祉相談員として勤務。2002年結婚を機に入寺。心の育ちに大きく影響を与えるご信心に、親子で触れる場づくりを模索。現在は、敷地内にある保育園副園長として、一人一人を大切する園づくりにも奮闘中。

福祉の仕事からお寺へ

――雅美さんは、光薫寺へ来られる前に福祉のお仕事をされていたのですよね。

雅美 精神保健福祉相談員として横浜市保健所に勤めていました。中学生の頃からそういう仕事がしたいと決めていて、学校へ行けない子供たちの相談に乗りたかったんですね。自分が不登校だったわけではないのですが、集団生活や学校があまり得意ではなかったので、つらい気持ちでいる子のお手伝いができればいいな、とずっと思っていました。
精神科でアルバイトをしたときにその奥の深さに興味が芽生えて、精神疾患のある方の社会支援をする配属先のあった横浜市の社会福祉職へ進みました。

――どのようなお仕事でしたか?

雅美 精神疾患によって生活が困難な方のお宅を訪問して社会復帰のお手伝いや病院への付き添いをしたり、生活を整える援助や、困っているご家族に医療受診のアドバイスをしたりします。公的支援は、生活保護や障害者手帳の申請をしないと受けられないので、実際はその一歩手前の状況がとっても苦しいんですね。また、病院の診断を受けることで世間からのレッテルと共に生きなければならないというジレンマを抱える人もあったりと、さまざまな現状を知りました。福祉って、行政がしてくれるものと思われがちですが、実際の福祉の目的は社会全体で助け合って実現していくというものなんですよね。

――ご住職(夫)とは職場で出会われたそうですね。

雅美 はい。院生アルバイトとして入って来まして。実家のお寺が、精神疾患によってご家族とうまく生活できない方々を一定期間お預かりしている、という話を聞き、行政の支えも必要だけど、お寺のようなどこにも所属しない居場所も大切だな、と感じました。「そういう形で人と関わる人生もいいかもしれない」とも。再就職にも似た結婚でした(笑)。

お寺に滞在する方々との日常

――お寺で過ごしていただく間はどのようなことを?

雅美 段階を踏んで復帰を目指すようなことは特になく、毎日ご本堂にお参りできればそれで良い、という感じです。最初は、支援プログラムを作るなど、もっとできることがあるのではと思っていて。でも、僧侶方は、まずは仏様の近くでお題目口唱をして過ごす。お寺はそういう居場所であることが大切、と言われていました。特に大きな変化があることもなく滞在を終えられることもあります。それもご利益のあり方であり、即顕かになるご利益から、後になってわかるご利益など、4つの現れ方があると教わりました。その後もお参りされる中で、何年か経ってご自身で職業支援を受けていたり、縁に恵まれ社会に出て行かれたりする様子を見てきました。お寺の空間に触れる中で、その人自身がだんだんと自分の中に支えを作っていくんだ、ということがわかってきました。

 毎日お寺へ来られる方々のお話を聞くと、かつてお寺に寝泊まりしたことや、行(ぎょう)や活動の思い出を楽しそうに懐かしんで話されます。そこには必ず人に支えられ、人のために祈った体験がありました。行に力を注いだからこそ芽生えたお寺への愛着が自身の支えとなる……。そのご信心から得度されたり、お寺運営の中核を担ってくださる方も多くいます。

 静かに見守るのと同時に、お寺に居場所としての愛着を感じるくらい、行を通して一生懸命になれる環境や、その人なりの信心の高まりが起こるような機会をこれからも整えていけたら、と思っています。そうすることが、その方にとってより良い生き方に繋がり、お寺が道場としてあり続けることにも繋がっている気がします。

ご信心について

雅美 お寺に来る前は仏教をよく知りませんでした。本門佛立宗もその時は聞いたことがなかったので、調べたりして(笑)。修行色の強い宗派なので、結婚するからにはお寺を手伝おうと決めていましたが、信仰できるかどうかはまだわからないし、もし生涯かかっても心から信仰することができなかった場合はつらい生活になるかもしれないから、過去からの生活習慣を優先させてほしい、なんてことを夫には伝えていました。

 ご信者の皆さんはなぜここにいらしていて、どんな思いからご奉公なさるのだろう、ということを、行やお掃除、朝ごはん作りなどをご一緒に重ねていくうちになんとなくわかるようになって。起きること全てに意味があり、人のための祈りもいつか自身に返るものとして生きることで、日々の生活を前に進めていける、それが信心なのだろうな、ということを受け取れるようになってきました。

居場所をつくり、信心を深める大切な時間

――その他にはどのような活動を?

雅美
 「薫化(くんげ)会」という親子で参加する子ども会をやっています。また、地域の小学生を対象とした寺子屋も年に一度やっていますが、年々スタッフ数が減っていたんですね。そこで、幼児のいるお母さん方に、託児でお預かりするのでお手伝いしませんか、とお声がけしてみました。子供と離れて少し自分の時間が欲しい方もいるし、自分の子が小学生になったらどんな感じになるのか体験してみたいという方もいますしね。おかげさまで寺子屋のスタッフは安定して、今では薫化会のお役となり、運営をしてくれている方もいます。

 イベントはお寺に来るきっかけにはなっても、それだけでご信心を得るのはなかなか難しいです。イベントごとはむしろ、ご信者がスタッフとしてご奉公することでお寺に居場所をつくり、信心を高める機会として大切に捉えています。頼まれて始めたご奉公が、いつしか生きる糧になり、お寺がかけがえのない存在になっている、そんなご信者さん達に支えられて日々を過ごしています。

――とても深いお話に感銘を受けました。
  本日はどうもありがとうございました。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院68号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール

松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に10年間携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。

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日時:2/8(水)13:30-16:30
参加費:無料
会場:東京・光明寺 または、オンライン(Zoom)
講師:木村共宏、遠藤卓也
内容(予定)
・未来の住職塾 模擬講義(木村講師)
・修了生の活動事例紹介(遠藤講師)
・未来の住職塾NEXT プログラム紹介
・質疑応答
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参加ご希望の方は、以下リンク先のPeatixページよりお申し込みください。


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