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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [3] -甘蔗理愛さん

お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にあるお寺の女性のお声を共有する連載です。第3回目のゲストは、曹洞宗・龍国寺(福岡県糸島市)の甘蔗理愛さん。夫で副住職の健仁さんもご一緒です。お話をうかがうホスト役は、一般社団法人未来の住職塾の松﨑香織がつとめます。

ゲストプロフィール
甘蔗理愛(かんしゃ・りえ)
1973年生まれ、京都精華大学卒業後から実家の龍国寺を手伝う。2006年に結婚。二人の子供の母。三世代家族の六人暮らし。

◉ 村とお寺のつながり

松﨑
理愛さんは龍国寺に生まれ育ち、夫で副住職の健仁さんと共にお寺で生活されています。

理愛
私の兄がお寺を継がないことがはっきりしたのち、自分で良いのかなという気持ちがありながらも、「私が結婚して継ぎます」と宣言しました。結婚は好きな人としたいと思っていた折、在家出家した健仁さんと知り合いました。どんなお寺に入っても間違いのない人だな、と思ううちに好きになって、結婚しました。

松﨑
五十世帯ほどの集落は山と海に囲まれ、美しい景色が広がっています。

理愛
以前はお寺に留守番もいなかったですし、両親である住職夫婦が村の行事に出向くことはありませんでしたが、二世帯になってからは、健仁さんと私の二人でよく参加しています。

健仁
私は外から村に来たこともあり、割と気軽にお宮のことから林道の溝さらいまで、様々な行事に参加させていただいています。そうして村の人との関わりを深めてきました。一方の理愛さんは、小さい頃から村の人たちを知っていますし、皆さんが生涯の中で元気に働いている時から、歳を取り病気になって、静かに歩くようになるまでを見ています。

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◉ 熱い想いと、静かな行動力

理愛
村の人のことはいつも考えます。母の始めた、おばあちゃんたちのお茶サロンがあったのですが、皆さん高齢で集まれなくなり、ついにやめることになりました。おばあちゃんたちには聞いておきたいことがたくさんありますし、これからは私から訪ねて行きたいと思います。

健仁
理愛さんはいつも、村のみんなを喜ばせることを考えているね。ある時は、村の人たちの「結婚式の写真展」を思いつき、お寺で開きました。最初はみんな写真を見せるのをためらっていて、私なんかはハラハラして「理愛さん、もうやめとき…」と思いましたが、理愛さんは粘り強く訪ねて行って写真を貸してもらっていました。

理愛
無理強いはしないけど、もしかしたら恥ずかしいだけなのかもしれないし、と思いながら、私もためらいつつも、お断りになられた後にも何度か訪ねてみました。私にだけ見せてくれる人があったり、開催直前に気が変わって持ってこられる方もいらしたり。皆さんの一番いい時の写真を、でも、もう誰からも見られることなく消えていくような写真を、見てみたい、と思ったのが「結婚式の写真展」を始めたきっかけでした。

松﨑
地域の方々とのコミュニケーションの過程や、一人一人の心の動きに出会うことをとても大切にされていますね。

◉ それぞれの思いに、長く地道に向き合い続ける

健仁
私が結婚してお寺に入る前の話ですが、村に工場誘致の話が上がった時も一軒一軒「どう思っていますか?」と訪ねて回ったそうで。理愛さんは、村の人たち一人一人の思いを聞いている。「あの人は本当はこう思っているよ」って。

理愛
私は、自分に何かはっきりした意見があるわけでも、コミュニケーションが上手というわけでもないですが、訪ねて行って知ることだけはできますからね。

約七十年前の村の様子を撮った写真を寄贈して下さった方があります。それを百枚ほどパネルにした写真展もお寺で三回ほど開きました。檀家の方にも地域の方にも大変好評で、みなさん昔の暮らしを懐かしんだり、何世代か前の方々の思い出を話したりしていました。

健仁
そういうことができるのが、つまるところはお寺なのだと思います。お寺で生まれ育ち、村の人たちに知られている存在だからこそいただいている信頼を感じます。お檀家さん一軒ずつの歴史をお預かりしているという大きな責任も。

松﨑
村の皆さんとの関係も、お寺の家族関係も、とても円満な印象です。時には困難もあろうかと思いますが、その秘訣はなんでしょうか?

理愛
お寺だけでなく地域全体を良くしたいという目標が家族にあるので、お寺の中のことだけをやっている時よりも気持ちが外に向いてポジティブになれるのだと思います。お寺に住む家族が健全でないとお寺も良くならない。その意味でもなるべく視野を広く持って、家族も大事にしたいと思っています。

・・・・・

感染症の影響で社会が困難な状況にある今、理愛さんのように、宗教者が地域の一人一人と向き合い、その思いを丁寧に聞いてくださることのありがたさに改めて気づかされました。
皆さま、どうぞご自身のことも大切に、健やかに過ごされますよう願っています。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院49号』に掲載されました。
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