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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [10] 早坂 宏香さん

こんにちは。未来の住職塾の松﨑香織です。

この連載では、お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にある、お寺に暮らす女性のお声をお届けしています。第10回目のゲストは曹洞宗・正壽寺(愛知県名古屋市)の早坂宏香さん。

写真:早坂宏香さん提供。ご自坊・正壽寺のご本堂にて。

ゲストプロフィール:早坂宏香(Hiroka Hayasaka)
1976年生まれ神戸の一般家庭出身。ご縁あって禅宗のお寺で暮らす人・寺族に。 短大美術科卒、会社員の傍ら版画制作に没頭し、番画廊(大阪)ほかで個展開催。 お寺暮らしコラム「寺嫁のひとりごと」や自坊の坐禅会でふるまう四季を感じる精進粥で、暮らしにある禅の発見を伝えています。
 「寺嫁のひとりごと」「きせつのお粥」「地域寺院・墓地ぼち閑話挿絵」「お寺のじかん 寺嫁日記」ほか
インスタグラム https://www.instagram.com/thezen_shoujuji/
「正壽寺」公式サイト http://shoujuji.com/

◉ 戸惑いの中、手探りの日々

ー宏香さんは一般家庭のご出身ですが、結婚を機にお寺へ入られたのですか。

宏香 はい。何もお寺のことを知らずに嫁ぎまして、毎日戸惑いながら、自分の立ち位置や役割を探していました。僧侶ではない、外から来た自分は、何にどういう塩梅で関わったら良いものか分からず、ずっと模索していましたね。
 そんな手探りの感覚を誰かと共有したくて、色んなところに顔を出していた時期がありました。女性起業家の勉強会にも参加したりして。分野は違えど同じように手探りで頑張っている女性たちとの出会いは心強かったです。
 数々の失敗を重ねてきましたし、恥ずかしい思いもたくさんしました。そうやって少しずつ経験を積んで、最近ようやく自分の役割が腹落ちしてきた感があります。今、毎日がとても楽しいですよ。

◉ 絵で表現する仏教

ーご自分の立ち位置が居心地よく感じられるようになるまでの間に、転換期はありましたか。

宏香 結婚して2ヶ月目に義父が急に亡くなりまして、私が絵を描くことが好きなのを知ってくれていた義母が、義父の似顔絵をそえて皆さんにご挨拶のお手紙を書いてほしいと言ってくれて。それが、自分の役目を見つける旅の始まりでした。義母から「毎月、絵を描いて出してみたら」と言ってもらったことから、寺報の付録みたいな感じで、絵に文字をそえた「寺嫁のひとりごと」という別紙コラムを描き始めました。仏教を伝えたいと思うものの、素養がなかったので毎回のテーマを見つけることがハードルでした。自分の中で腹落ちしたものでないと表現できませんものね。夫に相談して良いお題をもらっても理解ができず…。宗派の勉強会も当時の自分にはまだ難しかったので、カルチャー講座を受講したり、大学の仏教講座を聴講したりしながら学びました。そして、自分の中に響いてくるものを一つずつ表現し始めました。

早坂宏香さん_「お寺の女性の今」イラスト

◉「お寺のひと」と認識されるまで

宏香 お寺に嫁いでこられる女性って、宗派にもよるかもしれませんが、お寺の人だと認識される機会があまりなくないですか?行事のたびに「嫁です」と紹介するわけでもありませんしね。ご法事の時などは、仕出し屋さんの一人と思われたりして(笑)特に最初の頃は「誰だろう?」という感じだったと思います。

ーお檀家さんからお寺の人と認識していただけるようになったのは、いつ頃からですか。

宏香 お檀家の皆さんはどんな方なのだろう、とずっと興味があって、ある時、住職の夫が入院することになった折、月参りをどうしようかという時に、私がお伺いしたいとお願いしてお宅を回らせていただいたことがありました。最初は皆さん、「なんでお嫁さんが?」と、ぽかんとされていましたけど、それをきっかけに、ちょっとずつ存在を認識していただけたように思います。

ー宏香さんは準教師を取得されていますが、僧侶になられるご予定は?

宏香 いずれ出家したいと考えていたのですが、お寺に来て10年が経ち、その間に一般目線から離れ始めてきている自分を感じます。僧侶になったら尚更だろうなと思うと、私は出家せずに、僧侶とお施主さんをつなぐお役目を大切にしようと考えるようになりました。皆さんが安心しておとむらいに集中できるよう、場を整えるお手伝いができる立場でいたいなと思っています。

◉ これから形にしたい「自宅葬」

ー地道に、でも時には大きな一歩も踏み出しながら進んで来られたのですね。今後お寺でやってみたいことはありますか?

宏香 祖母が亡くなったとき、「家から焼き場に行きたい」という願いを叶えるために自宅で葬儀をしたのですが、とても良い記憶として残っています。同じようにご自宅でされたい方があれば、選択肢としてご用意したいと思っています。
 また、最近お世話になった方が亡くなられて、ご自宅へ夫の枕経について行きました。お葬儀は場所を移して執り行いましたが、もしあのままご自宅から送る選択肢があったら、ご本人はそちらを選ばれたかもしれないな、と思ったことも「自宅葬」について本格的に考え始めるきっかけとなりました。知り合いの葬儀社さんとお寺さんとで、仕組みづくりに取り組み始めています。

ー形になるのがとても楽しみなご活動ですね。今日はすてきなお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院60号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー プロフィール

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松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。

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