Case06|現代の人々の生活に、お寺がとけこむために「行い」が導く仕掛けをつくる(長崎県 大村市 真宗大谷派 正法寺 長野文さん)
※ まちに開く まちを拓く『地域寺院』2023年10月号より転載(文・写真/遠藤卓也)
プロフィール|長野文さん
1978年福岡県生まれ。長崎県大村市、真宗大谷派正法寺坊守。国立音楽大学リトミック専修及び、東京学芸大学 特殊教育特別専攻科卒。中学校や特別支援学校に数年勤めた後現職。お寺や仏教のことを、「今」生きる方に伝えるべくさまざまな方法で発信中。
月替わりでワークを実施
長崎県大村市、歴史のある街道沿いに一際大きな銅板屋根を持つお寺が真宗大谷派 正法寺だ。7月28日に「行いがわたしを導く時間」という風変わりなタイトルのイベントが開催され、約20名が本堂に集まった。会の企画者は坊守の長野文さん(45)。メインコンセプトとして「月一報恩講」を掲げる。
報恩講といえば親鸞聖人の祥月命日の前後に阿弥陀様と親鸞聖人の遺徳を讃え報恩に感謝する、浄土真宗としては最も大切とされる行事である。正法寺では12月5日〜8日にかけて行うが、その日に向けて3月から11月まで(8月を除く)毎月28日に開催しているのが「行いがわたしを導く時間」というイベント。親鸞聖人の月命日の28日に行うため「月一報恩講」とも名乗っている。
実施内容は月替わり。4月は紙できれいな蓮を作る「ハスワーク」、5月は「腕輪念珠作り」、11月は「いけばな」など、手や体を動かすような身体性を意識したワークショップ的な内容が目立つ。7月はお盆を前に仏具を磨く「お磨き」だ。
開始時間が迫ると、参加者たちが次々とお寺にやってくる。受付ではカードにスタンプを押してもらう。カードは双六のようになっており、年間全ての会に参加できると記念品のオリジナルトートバッグが授与される仕組みだ。あらかじめ年間の開催予定が見通せると参加しやすくなるし、これまで自分がどの会に出たかも一目瞭然となる。
参加者は60〜80代の女性が中心だが、男性も数名見える。伴侶を亡くしたことがきっかけで参加するようになった男性もいるそうだ。
毎回、お勤めから始まり「念仏の練習」と言って南無阿弥陀仏を5回おとなえする。繰り返すことで習慣化してほしいという願いを込めている。
続いて住職の長野道英さん(49)から仏具についての説明。動画を見ながらお磨きのやり方講習を経て、いよいよ仏具磨きに取り掛かる。
お盆に備えて「お磨き」を
こまめに水分補給をしつつ、和気藹々とおしゃべりしながら仏具を磨いていく。母と一緒に来るつもりが入院してしまったという女性が、家の仏具を持ち込んで磨いた。あまりにも綺麗になったので、母が退院したら「新品を買ってきたのか」と怒られてしまうのではないかと笑う。お寺の仏具を磨くだけではなく、家の仏具も持参可能なのだ。
実は事前に初盆の人を目掛けて「お磨きしましょう」と案内を送っている。元々は2月に実施していた「仏具磨き講習会」を、7月に変更して「月一報恩講」のプログラムの一つとして組み込んだ。提案したのは坊守の文さんだ。嫁いできて以降「2月にやるもの」と思ってやってきた講習会だが、寒くてどうも人が集まらない。なぜ2月にやっているのかと聞くと、2月は他に行事がないからということだった。それならば、仏事への意識が高まるお盆前にやった方がいい。特に初盆の方はやり方を知りたいと思うだろう。そう考えて変更した結果、今まで来てくれなかった人が来てくれるようになった。お寺とは40年のお付き合いでも、仏具磨きの機会を知らなかったという方も来てくれた。
既存の会をリニューアル
28日に行なっているのは親鸞聖人の月命日ということ以外にも意味がある。そもそも正法寺では28日に「学習会」を行なっていたのだ。高齢化などで参加者が減ってきており継続を悩んでいたが、50年以上も続いているのでやめるのも勿体無い。そこで28日の勉強会を、ワークショップ中心の「行いがわたしを導く時間」にリニューアルし「月一報恩講」と称した。
忙しいお寺によくある話として、新しいイベントを増やすことが難しい。既存の催しのみで手一杯だし、お寺との繋がりが弱いと意味合いを見出せずに廃れてしまう。正法寺では毎月実施していた学習会をリニューアルしたので、新たに増えたわけではない。また「月一報恩講」なのだからお寺との繋がりも強い。
そもそも長崎は日蓮宗のお寺が多く、報恩講自体を知らない方も多い。「月一報恩講」と言っていれば、報恩講という言葉が残る。それを毎月繰り返すことで本番の報恩講法要の時にも、意味が伝わりやすくなるだろう。
帰敬式も流れの中に組み込む
もう一つお寺との大きな繋がりとしては、12月の報恩講法要の際に事前申込みをしておくと帰敬式を受けることができる。帰敬式とは生前に法名を授かる、浄土真宗での生前戒名の儀式。正法寺では2022年の報恩講法要より、そこで帰敬式を行うことにした。これまでは大きな行事の時しかしていなかったが、毎年機会があると喜ばれると考えた。
門信徒の家庭にパンフレットを送ると問い合わせの電話がかかってくる。これまでは希望者のために、帰敬式に向けた講習会を開いていたが、それも「月一報恩講」の中に組み込んだ。1年間毎月お寺に通って、12月に帰敬式を受けられるのは達成感もあるだろう。会の中では自然にお経やお念仏もおとなえする。このように、お寺の中でやっている様々な催しを「月一報恩講」を軸に組み直しているような形だ。その年に何をやるかは毎年検討しているという。検討した結果、新しいことを始めるのではなく、これまでやってきたことの見せ方を変える。年々改善を繰り返しながら、一つのレールを作っているような形だ。いつかそのレールに乗ってもいいなと思ってくれる人を、どれだけ増やせるかだと文さんは語る。
お寺が生活にとけこむためには
最近、奥さまを亡くされた男性が来てくれるようになった。お寺に接したいと思っている人に、相手もお寺も接しやすいタイミングで関わりを持てるのも良さだという。お寺側としてはいつでも関わって欲しいと思っていても、その機会というのはなかなか見出しにくいものだ
文さん曰く「今、生きているその人の生活の中にとけこんでいないと、お寺に行こうとはならない」唐突にお寺に呼ばれて、歎異抄を勉強しましょうと言われても仏教に興味がなければ頭に入ってこないだろう。特に女性は難しいと感じるそうだ。まずは身体性のあることで、仏事的な要素のある入り口から入ってもらう。そこでたまたま住職の話も聞けるくらいがちょうどよい。まさに「行いがわたしを導く時間」というタイトルがあらわしている。
最近ようやくお寺という存在が、この街にとけこんでいると感じるようになったという。高齢者介護施設から出張してほしいという要望も出ている。「月一報恩講」が街に出ていく未来を想像すると、正法寺のこれからの展開が楽しみでならない。
【教訓】
ターゲットを想定して企画をつくる
イベントは、お寺との太い繋がりを意識する
既存の行事の意味合いを見直し年間のリズムを整える
あとがき
長野文さんのお話をヒントに「自坊のお寺のリズムを見直そう!」という個人ワークを思いつきました。1月〜12月までのリストにお寺での行事やイベントごとを書き出して、それぞれの月の忙しさを%であらわして書き入れます。すると、何かと詰め込んでしまっている月がわかるので、その月にやっていることの中に、他の月に移動できそうなものがないか発見することができます。ご自身で書き出してみた後に、ご寺族にも共有することで、お寺の年間のリズムをみんなで改善する糸口になります。私は、研修講師をさせていただく際に、参加者の皆さんに実施してもらっておりますが、寺院ごとに特徴が出るのも面白いです。(遠藤卓也/未来の住職塾講師)
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