Case07|星の信仰の聖地で、森を守り、森に眠るサステナブルな葬送を提案(大阪府阪 日蓮宗 能勢妙見山 植田観肇さん)
※ 『地域寺院』2023年11月号「尋坊帖」より転載(文・写真/遠藤卓也)
プロフィール紹介
世界三大荒行堂の一つといわれる日蓮宗大荒行堂にて寒一百日間の結界修行を4度成満。また、北摂で唯一、妙見山にのみ一万年前から残るブナ林を守る「能勢妙見山ブナ守の会」創設メンバーのひとり。日蓮宗の国際体験プログラムでボストンの寺院で修行したのを機に、テキサスでの北米研修の講師を務めるなど米国寺院のサポートも行う。
ブナを抜かないで!
遠藤 妙見山にはブナの原生林があり、保護活動をなさっているそうですね。
植田 以前は森に興味はなくブナがどこにあるのかもわかっていませんでした。完全にインドア派で、パソコンの中に生きているような人間でしたので。
遠藤 なぜ興味を持ったのですか。
植田 兵庫県立大学名誉教授の服部保先生との出会いからです。「妙見山のブナ林を見にいきましょう」と誘われて一緒に林に入っていくと、雑草がたくさん生えていると気付き、抜こうとしたら先生が突然膝をついて「これがブナなんです、抜かないでください」と懇願されました。それまで私はブナの苗や双葉を見たことがなかったのです。立派な先生がそこまでされるなんて余程のことなのだなと、心を動かされました。そして、毎年苗を採取して育てて、鹿から守る柵の中に植え直すという活動が、ブナ林保全に繋がるという方向性が見えてきたので、取り組むことに決めました。
遠藤 ブナを育てることになったと。
植田 服部先生は具体的な育て方まではご存知なかったので、お寺に出入りされている造園業者さんに尋ねてみたところ、京都大学出身の髙田研一先生という方に聞くといいよと電話番号を教えてもらいました。会ったこともないのにいきなり電話をかけて「ブナの育て方を教えてください」と(笑)驚かれていましたが、私がまだ30代だったので可能性を感じていただけたようです。あと妙見山には昔よく虫取りに行ってたからと。
アートで広がったつながり
遠藤 虫のおかげもあり、いよいよブナを育てることになったのですね。
植田 育て方を丁寧に教わった上に、大手メディアの協賛で大規模なプロジェクトも立ち上がりました。そのお金を元に「ブナ守の会」が発足して、そこから国や県の補助金を申請するようになりました。なかなか面倒な書式なのですが、書くことで行政とのつながりができます。行政が説明会や発表会の場を設けてくれて、他のボランティア団体とのつながりができました。すると私が地域で講演をする機会が増えて、地元とのつながりも少しずつ広げていくことができたんですね。
遠藤 地域のアートイベントにも積極的に関わったそうですね。
植田 2015年から能勢電鉄が「アートライン」という芸術祭を始めました。近隣の4市町村も協力して、アートで地域活性を目指しました。行政の関わりによって、横のつながりができたことがよかったです。地元にこんなお店があったのかと知ることもできましたし、農業・伝統産業など様々な分野で地域貢献している方々と知り合えたことで、その後も成し得たことがたくさんあります。
お寺からエシカル消費を啓発
遠藤 海外のカカオ農家での児童労働やアンフェアなトレードの問題を伝えるため、オリジナルチョコレートを開発されていましたね。
植田 私は栄養が取れればサプリでもええやんと思ってたような人間で(笑)食べ物にも興味がなかったのです。でも地域のつながりで知り合った料理研究家の田中愛子先生の話を聞いて、食に対する考えが180度変わりました。例えば当時、カカオ豆などは、児童労働など様々な搾取の上になり立っており、多くは現地を犠牲にして嗜好品を提供していました。ショッキングですが自分の眼差しがパッと変わって、何かやりたいなと。
遠藤 お話しを聞くと、ご自身の興味が原動力になって、結果的に周りに良い影響を与えられたらいいという思いで活動なさってきたのですね。
植田 ただ近くの人を救わずに遠くの人を救おうとするこの活動は偽善的なのかもしれないとは考えました。しかし宮沢賢治は「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言っていましたよね。「世界」の中には自分も含まれていて、自分だけを犠牲にしてみんなが幸せになる世界というのもあり得ないわけです。みんなが幸せで、自分も幸せでないと世界の幸せはやってこない。と考えた時に、精神的にも金銭的にも余裕があるからこそ、他人に施せるという側面もあるのだと気がつきました。私自身、カカオ豆やコーヒー豆を取り巻く問題を初めて知ったんですね。だからこそもっと大勢の方に知っていただくための活動に意味はあるだろうと思い、チョコレートを作って販売をしました。
「森林葬」から「循環葬」へ
遠藤 そして、以前より「森林葬」を検討されていたそうですね。
植田 「ブナ守の会」の髙田先生が、森林整備は継続的にお金がかかるものなので、補助金だけでは足りない。何か森林を活用して資金を生み出せないかとおっしゃっていて「森林葬」という埋葬のあり方を考えました。人智を超えた鎮守の森の良さを分かってもらえるような葬送のあり方。サステナブルな埋葬の仕方。それこそが森林葬であるとコンセプトを決めていました。しかし私が忙しくなりすぎて、体力の限界となり、結局、コロナ期間中はしばらく動けずに休んでいました。
遠藤 当初の「樹木葬」も森林保全の目的がありましたよね。現在は様々な形態に多様化していますが。
植田 2022年の9月に知人僧侶からの紹介で「循環葬」というアイデアを検討している小池友紀さんにお会いしました。その方は自分で入りたいと思えるお墓が世の中にないから作りたいという思いで方法を模索されていました。
遠藤 妙見山なら、それができるかもしれないと、頼ってこられたわけですね。
植田 うちは檀家さんがいないお寺で、境内に檀家墓地がありません。だから葬送まわりのことはほとんど知らなかったのですが、小池さんと話しているうちにまた好奇心が刺激されました。
遠藤 植田さんは好奇心で動き出すタイプですよね(笑)
植田 特に悩んでいた埋葬の場所ですが、当初は山の中の広い場所が必要と考えていました。測量や登記の費用が莫大にかかるなあと。しかし小池さんから「墓標はなくてもいい」と言われて、それならば山奥の広い土地でなくてもできると、昔からの小さな墓地エリアに作ることにしました。
遠藤 そこは元々の墓地だったのですね。デッキがつくられ、チェアでゆったり森林浴ができそうな場所ですね。
植田 以前に一度候補に考えた場所なのですが駐車場から近すぎて、もう少し奥山の方が「森林葬」らしいかなと。でもやはり駐車場に近い方がお参りしやすいですし、蓋を開けてみたらあんなに素敵な場所になったので良かったです。
遠藤 ご高齢の方からすると駐車場が近い方がいいですよね。小池さんと一緒に考えたからこそ、利用しやすい場所になったのだと思います。
植田 葬送や供養について、どういう悩みや問題を抱えているのか、率直に教えてくださるので、すごくありがたいです。基本的に葬儀もないお寺なので。
遠藤 色んな人との出会いで、植田さんの好奇心が刺激され「世界ぜんたいの幸福」に向かって妙見山の活動が進んでいくのでしょうね。楽しみです。
あとがき
ご自身の理想のお墓のあり方を追求されており、さらに僧侶ではなく一般視点を持ち合わせている小池さんの「墓標はなくてもいい」という言葉を聞いた植田さんが、その意見を受け入れたからこそ既成概念を越えられ、多くの人々に喜ばれるお墓の一つのかたちをつくりあげることができたのだと思います。
お寺さんの活動事例を取材し続ける中で、つくづく感じるのは「求められていることをやる」ことで、活路が開けてくるということです。何をすればいいかわからない時、迷った時、お寺に対する求めの声に耳を傾けてみましょう。(遠藤卓也/未来の住職塾講師)
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