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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [5] -三宅千空さん

お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にあるお寺の女性のお声を共有する連載です。第5回目のゲストは浄土真宗本願寺派・教西寺(愛知県名古屋市)の三宅千空さん。お話をうかがうホスト役は、一般社団法人未来の住職塾の松﨑香織がつとめます。

ゲストプロフィール
三宅 千空(みやけ・ちひろ)
浄土真宗本願寺派 教西寺坊守/僧侶。 グリーフケア〜たいせつなものを失ったことを抱えながら過ごしてもいい、嬉しいときも 困った時もお寺はあなたと一緒だよというこ とを、近所に住む子どもや親が気軽に寄 れることを通して伝えたいと思っています。

◉ たくさんの人同士が出会い、 気軽につながり合う場

松﨑
千空さんは、近所の子どもたちとのつながりや、死別や喪失を体験される方のグリーフケアなど、地域の皆さんとの交流に力を注がれていますね。

千空
お寺に入ったばかりの頃は、周りに知り合いもいなくて、わからないことばかりでした。そんな私に、義母が「どんどんお寺の外へ出て、地域の人とのつながりを持ちなさい。」と背中を押してくれて。新しいところは緊張もするけれど好きなので、PTAや子ども会、幼稚園・小学校の読み聞かせなどに関わっていくようになりました。

そうしてつながる方々が、次第に教西寺の「影絵劇」に参加してくださるようになり、やがて「教西寺さんで子どもの勉強を見てもらえたら嬉しいな」、なんて声をかけていただいたりするようになりました。

松﨑
地域の皆さんと関わり合っていくところから、少しずつ始まったのですね。

千空
お寺で人がつながっていくのを体感しました。お寺はなくなった人を送り、弔う、ご門徒さんのための場です。でもそれだけでなく、「お寺はたくさんの人たち同士が出会い、つながる、楽しいところ」でもあるということを、改めて実感しています。

◉ 子どもが大人と出会えるお寺

松﨑
教西寺では、寺子屋やお泊まり会も開いているのですよね。子どもたちとの交流を通して、どんなことを感じますか?

千空
普段、学校でそれぞれに過ごしている子たちが、お寺では学年や学区を超えて仲良くなり、こちらがお膳立てをしなくても、どんどんつながりの輪が広がっています。

月イチのおてら開放日「よっ寺ぁ」には、大人だけでなく子どもたちも学校が終わるとお寺へ来てくれます。階段をすごい笑顔でタタターッと駆け上がってくる様子が本堂から見えるんですよ。宿題を急いで終わらせたあとは、鬼ごっこをして走り回ったり、ゴロンと寝転がったりして。家や学校とは異なる空間で自由に過ごせる時間です。お寺に来ている大人から編み物や切り絵を教わっている子もいますね。いつの間にか「〇〇さん」と名前で呼んでいる子もいたり。ここに来る大人とは、子どもたちもフラットに接することができているようです。

松﨑
身内や先生以外の大人と出会う機会は、子どもたちにとって大切なことですね。

千空
これからの人生を生きていく上で、たくさんの頼れる先に人生の早い段階で出会い、原体験をつくってもらいたい、との思いがあります。お寺もその一つにしてね、といつも願っています。

◉ 法要の場でも、それぞれの過ごし方を大切に

千空
私自身が子どもの頃は、「あるべき姿」を教えられて育ちました。その通りにやれていないことを叱られたりもして。自分を認めてもらえない悔しさのようなものが常にあり、「自分には何かが足りないんだ」と感じていました。自分は叱られて成長するタイプだったのかもしれないですが、次の世代の人たちに対しては、「そのままでいいんだよ」ということこそを伝えたいと思っています。

地域の子どもと接するときも、「こうしなさい」というのは最低限にして、好きに過ごしていいんだよ、と話しています。マナーや思いやりの部分については、大人がそういう姿を見せていれば自然と覚えてくれるのではないかな、と思いますね。

松﨑
千空さんは、お通夜やお葬儀も住職と一緒に出向かれるそうですね。

千空
はい。そこで出会う子どもたちは、いつもと違う雰囲気にかえってはしゃいでみたり、それで叱られて泣いちゃったりすることもあります。そんなとき私からは、お子さんが賑やかにしていても、泣いていても、ちょっと外に出たりしても、どんなふうでもいいんですよ、とお伝えするようにしています。そうすると、場がすこし和らぎますね。どなたにも、それぞれそのままの気持ちで過ごしてほしい。子どもたちにとっても、アメや折り紙をもらったり、「よく最後までいられたね」と褒められたりした思い出が、お寺は過ごしやすかったという原体験になったら、と思います。いつか困ったことがあったときに思い出して、全国どこのお寺にも気軽に訪ねられるように、と願っています。

◉ グリーフケアとの出会い
  −「こうあるべき」から「ままに」へ

松﨑
千空さんは、僧侶同士でグリーフケアについて学び深めながら、日々の中で実践していらっしゃいますね。

千空
喪失や死別を経験される方をお寺でお迎えするとき、ご一緒にどう過ごしたら良いのだろう、との思いから学び始めました。「ごく身近な人を亡くすという経験が自分にはなくても、相手のことがわからない、と不安にならなくていい。私には何かが足りない、と思わなくてもいい。そしてまずは自分のことを大事にして、ねぎらってあげてもいいんだ。」ということを知って、私自身の気持ちが癒されました。

「あなたも私も、ままに。」と心から思えるようになってからは、「こうあるべき」を自分だけでなく子どもたちにも向けていたことに気づくことができ、家の中も穏やかになったと思います。

松﨑
檀信徒さんのお通夜や葬儀の際は、千空さんも住職と一緒にお参りされていますね。

千空
グリーフケアを学んでからは、お寺へ来られる方をお迎えするだけでなく、臨終勤行(枕経)もできるかぎり同行しています。
住職が儀式をお勤めして、私は臨終勤行について「故人に代わって読経するお勤めですよ。」とお伝えしたり、取るものも取り敢えず駆けつけた方々に、「お寺からお数珠を持ってきていますから大丈夫ですよ。」とお声がけをしたり、しています。

◉ 檀信徒おひとりおひとりと共にある、ということ

松﨑
そのような関わりを通して、檀信徒さんとのつながりや、千空さんご自身のお気持ちにはどのような変化がありましたでしょうか。

千空
檀信徒さんご一家との関わりが多面的になり、前よりもつながりに深みが増したように感じています。うちは名古屋市内のお寺ということもあって初縁の方が多いです。以前はどうしても大勢の中のおひとり、と捉えざるを得ない部分があったと思うのですが、臨終勤行からご一緒するようになってからは、大勢の中のおひとり、ではなく、○○さん、とお名前をお呼びすることができるようになりました。ご法事の際には「あれからどう過ごされていたかな。」と思いを馳せながら準備もできますし、のちのちまで通夜葬儀の思い出を共有できるようにもなりました。

うちは先代が二人とも元気ですし、子供たちもそこそこ大きくなったので、住職と揃って外へ出ることができています。ですが、なかなか留守にできない環境にある時期やお留守番することが多い方でも、お寺へのお迎えの仕方など、工夫できることもありそうです。たとえばうちでは、来客には住職と一緒にお迎えし、お聞きしたお話を二人で共有しています。

◉ あなたも私も、

千空
四十九日が過ぎ、「どうしても気が晴れなくて、お寺へお話をしに行ってもいいですか。」とのご連絡をいただくこともあります。「お寺では、話しても話さなくてもいいし、いつまでも故人を思い出していいし、ご自身のままにあっていいですよ。」とお伝えしながら、お話を聞かせていただいています。そうしていると、その方の人生を分けていただいているような有り難い感覚があって、いつの間にか私自身の生きる力にもなっている気がしますね。

以前は、お寺へみえる方に何とお声をかけたらいいのか、どう接したらいいのかが分からなくて、自分の居場所がないような感じがしていました。ですが最近は、「ただただお話になられることを聞かせてもらおう。お寺で過ごす皆さんも私も、ままにいられる場になればいいな。」という気持ちになって接しています。それもグリーフケアを通して自分自身に生まれた変化のように思います。

お寺のご法事でも、以前は始まると裏へひっこんでいたのですが、今は私も後方で一緒にお経を読んだり、お焼香のご案内をするなどして、共にあることを大事にしています。

◉ 自分をいたわりながら日々を過ごす

松﨑
ご自身へのセルフケアやエンパワーも大切にされていますね。日々どのようなことを心がけながら過ごしていらっしゃるのでしょう?

千空
つらいなあ、しんどいなあ、と思う時は特に、心身の状態を俯瞰して観察してみることを思い出しています。

そしてまた、周りから認められなかったり、思い通りにならなかったり、すぐには実を結ばなかったりすることはたくさんあります。だけど、一生懸命やったことは自分の実になり、やがて巡り巡って、自分の支えになって返ってきていることを感じるんです。なるべく焦らずに、いろんなことを長い時間軸で捉えていこうと思っています。

あとは、そうですね。コンビニのアイスとかプリンなどささやかなご褒美で自分自身をねぎらい、子どもたちから「お母さんよくやった!」と言ってもらって、ちょっと満足しています。

・・・・・

ご自身がケアされることを通して、檀信徒の皆さまや千空さんご自身のご家族を含め、全体が癒されてゆくさまを感じるインタビューでした。読者の皆さまも、ぜひご自身のことも大切に、いたわりながらお過ごしくださいますことを願っています。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院49号』に掲載されました。
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