見出し画像

Case03|「お寺は地域・心の拠り所」を合言葉に、小さな声にも耳を傾け、寺を出て交流する(福岡県北九州市・浄土真宗本願寺派・西法寺・西村さん)

毎朝、門信徒と共に勤めるお朝事を大切にしてきた、アットホームなお寺が、これまで以上に地域に目を向けはじめる。住職・若院・坊守がそれぞれの強みを活かし“三人寄れば文殊の知恵”で、地域との関わりを深めていく

※ まちに開く まちを拓く『地域寺院』2023年4月号より転載(文・写真/遠藤卓也)

西村聡子さん・達也さん・海さん

達也さんは1962年、北九州市生まれ。龍谷大学文学部仏教学科を卒業。西法寺 第十三世住職。社会福祉法人慈恵会 理事長。
聡子さんは1966年、佐賀県 専念寺に生まれる。中村学園短期大学幼児教育科を卒業。'91年に得度、'93年西法寺に嫁ぐ。
海さんは1994年北九州市生まれ。京都大学総合人間学部、中央仏教学院 卒業。

二十五年間、門信徒と共に

福岡県北九州市の工業都市、黒崎の郊外にある浄土真宗本願寺派西法寺。およそ三百有余年前、仏縁深き人々が念仏の道場を創建したことに始まったという。現在は住宅街に位置し、近隣に住まう多くの門信徒とのご縁を大切に活動している。

住職は十三世 西村達也さん(60)。平成九年の継職を機に、毎朝のお勤めを門信徒にも公開した。以来約二十五年、門信徒と共に勤めるお朝事を大切にしてきたが、コロナウイルスによる緊急事態宣言が出ていた期間は、寺族のみで勤めざるを得なかった。せめてご自宅でもお参りしていただけるようにと、Youtubeによる生配信を始めた。今は感染者数を見ながらではあるが、やはり本堂で一緒に読経できる喜びは格別のものだ。

お朝事という大切な習慣

二月中旬、まだ暗い参道を歩いて西法寺の門信徒が本堂に集まってくる。住職、若院の西村海さん(28)、先代住職の西村賢了さん(92)という親子三代によるお勤めに毎朝参加できるというのは、門信徒にとって嬉しいことだろう。時刻が六時半をまわり、達也さんを調声人として西法寺のお朝事がはじまる。続いて堂内の全員が声を発すると、その声の大きさ、読経の美しさに驚かされる。毎朝欠かさずに共にお勤めすることで整えられた調和なのだろう。

読経が続く中、七時になろうとする頃に参加者の一人が立ち上がり本堂を出て行くと、すぐあとに境内の鐘がゴーンと鳴った。毎朝の打鐘を門信徒に任せていることに、信頼で結ばれた絆が見える。達也さん曰く、お朝事についてはお寺側が特にお膳立てをせず、なるべく門信徒たちにおまかせしているのだそう。

お寺から1〜2キロ圏内に住む人たちが毎朝歩いてくる。雨の日は車を出してくれる人があり、各家をまわって乗り合わせてお寺までやってくる。常連メンバーはだいたい十名前後。それ以外にも様々なタイミングで時折参られる方がいるが、きっかけは祥月命日など様々だという。きっとそれぞれ大切な習慣になっているのだろう。

この日の「妙好人の言葉」

読経のあと「妙好人の言葉」を紹介し、達也さんが向き直り「おはようございます!」の一言で、いつものお朝事が終わる。参加者たちは本堂を出ていくが、外で一度横並びに整列して本堂に向かって「ありがとうございました」と挨拶をする。そのまま参道を歩き、門のところで振り返りもう一度挨拶。この並んであるく姿を寺族たちは本堂から見送るが、海さんは「TVドラマ『HERO』のオープニングみたいでかっこいいんです」と話してくれた。季節によってはその瞬間に朝日が差すこともあるらしく、達也さんは『Gメン'75』のエンディングのよう、と表現する。親子間の世代差が面白い。

「もう一度挨拶」の位置より

お朝事に参加させてもらい、人々の習慣として「お寺のお朝事」が存在し続けていることの大切さを実感した。西法寺のみならず、全国のお寺で毎朝お勤めがなされている尊さに思い馳せる朝を過ごした。

それぞれの役割で地域に関わる

本堂では「お寺は地域・心の拠り所 - 聞けます。話せます。手を合わせるとすぐそこに私たちのお寺が、阿弥陀様が。」という言葉をタペストリーにして掲げている。この言葉は門都会会員に募集して選ばれたものだ。西法寺としては改めて「地域」という言葉を意識するようになった。地域のコミュニティが成り立たなくなっている時代に「今こそお寺を活用せん手はない」と、達也さん意気込む。お寺を「地域資源」であると捉え、地域の人々の拠り所にしていくべきだと考えている。

坊守の西村聡子さん(56)は、数年前に町内会長の役を引き受け、そこから積極的に地域と関わり始めた。今年は海さんが会計を担当する。自分が地域とのハブとなり地域をもっと知ることで、お寺としても何かできるのではないかという期待をもって役に望む形だ。達也さんは、公民館に呼ばれて近隣の高齢者にむけて話をしたり、人権研修の講師等も担当してきた。三人がそれぞれの強みを活かして積極的に関わる姿勢が見える。

ありのままを聞き、受け入れること

納骨堂の休憩所

「聞けます。話せます。」という言葉に対応する活動として、毎月一回『あなたのおはなしきかせて会 - 傾聴のいちにち』を行なっている。始めたきっかけは聡子さんだ。グリーフケア(喪失の悲嘆へのケア)の講座で経験したとあるロールプレイングでのこと。誰かに悩みや苦しみを打ち明けた際に、相手の反応の仕方によってかなり感じ方が違うという気づきがあった。例えば、家族が病で重篤な症状だが何とか一命をとりとめたと、苦しそうに話す人がいるとする。それを聞いた友人が悪気なく「でも、命が助かってよかったね」と声をかけるが、当事者としては決して「よかった」とは言えない状況で、心中は複雑になる。終いには「もっとつらい人もいるのよ」と言われ、なんとも言えない表情をされている。「つらい気持ちが置き去りにされている」と、心配になることがよくあるそうだ。

誰かが悲しみを感じている出来事に対して、周りが主観でジャッジしてしまうのはよくない。苦しさや悩みを持つ人に「そうなんですね」と、そのまま聴かせてもらうことが大事である。お寺なら阿弥陀様が一緒に聴いてくださる。お寺での傾聴活動をはじめた。

傾聴の日は、お寺のメンバー全員がなるべく他の予定を入れずに、いつ誰が来ても一対一でお話しを聴ける体制にしておく。本堂と会館に椅子とテーブルを用意して花を置き、安心して話してもらえる環境を準備する。
普段は忙しいばかりで、来訪者への対応が十分に行き届かないことを、申し訳ないと反省する日々だ。それでもお寺として「聞けます。話せます。」という姿勢を示すために、この取り組みが重要だと達也さんは語る。それでこそ西法寺が「地域・心の拠り所」になれるのだ。

まちへ出て、法施をほどこしていく

鐘楼堂

一方で、もっと外に出て地域と関わっていきたいという気持ちも芽生えている。達也さんと海さんが、近隣で行われている神事「どんど焼き」に初めて参加した時のこと。地域の方々とお酒を交わし楽しんだ。すると、そこで仲良くなった方からお墓の相談を受けたという。「お寺で待っているだけではなくて、自分たちが行くことで相談が生まれるんだ。」と、海さんは強く実感した。それを聞いた達也さんは「寺に来てください」とばかり言ってきた自分に気付かされたという。

お布施とは門信徒が施すものとして、お寺は受ける立場ばかりと勘違いしてしまっている。だが、法施はお寺が施すもの。そして法施はお説教に限らない。法施を広く捉えれば、住職・寺族がお寺を出ていって、相談にのったり一緒に語り合うことも仏法に基づいた施し、法施につながるかもしれない。仏教の書物を配ることや、お寺に防災時の避難設備を整えることも考えているという。達也さんの頭の中には、門信徒や地域に対する様々な法施がいくつも浮かんでいる様子だ。あれこれと改善点や新しいアイデアを出し合う三人がとても楽しそうに見える。お寺の内でも外でも、このあたたかな人柄や雰囲気が伝わり、まるで家族のような関係性がいくつも生まれ、よりよい地域になっていくことが想像できる。

【教訓】

  • 継続から生まれる信頼ほど強いものはない。

  • 悩みや苦しみはジャッジせず、そのままを聞かせていただく。

  • 地域への法施という視点を大切にする。

あとがき

ご家族一体となり、門徒のため・地域のために良きお寺にしていこうという姿勢を素晴らしく感じました。その気持ちは本堂内にも掲げている「お寺は地域・心の拠り所 - 聞けます。話せます。」という言葉としてあらわされています。お寺として姿勢をあらわす言葉を掲げていることは重要で、お参りに来られた方に伝わるのは勿論のこと、ご寺族内にて確認しあい忘れぬようにいられる工夫となるのです。(遠藤卓也/未来の住職塾講師)


PR

(1) 本記事は、大正大学BSR 推進センターが発行する月刊誌『地域寺院』のご協力をいただき、2023年4月号に掲載された記事を転載させていただきました。
『地域寺院』は、地域寺院倶楽部会員向けに発行する月刊誌です。 寺院が行う地域活動の実践例、インタビューを通じた仏教界の展望、座談会を通じた寺院を取り巻く現状などを紹介し、これからの社会に必要とされる寺院の在り方を探る媒体です。
地域寺院倶楽部は年会費5,000円で入会が可能となっています。詳細は下記のリンク先ページをご確認ください。

(2) 未来の住職塾NEXTの受講にご興味のある方は、来年度の事前エントリーを受け付けています。こちらに登録しておいていただきますと、願書受付開始のお知らせをメールさせていただきますので、是非ご活用ください。

Link|未来の住職塾NEXT R-6(2024年度)事前エントリーフォーム


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?