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【AOE2:DE】歴史話: ベルベル

 ゲーム的な強さを考察するものではなく、ボーナスの由来やユニークユニットの歴史等を調べてみようというページです。
 単に趣味の領域ではありますが、雰囲気を楽しむのにはもちろん、ボーナスの一つの根拠を見るのは有意義なのではないかと思っています。

 ゲーム内テキスト、日英独ウィキ、英文サイトなどを参照しています。もし間違ったことを発見した方は、お知らせください。

注意
・大昔に動画作成にあたって調べたものです。
・過去に投稿した記事を再編集したものです。
・全37文明やろうという企画ではありません。

1.文明ボーナス

ベルベル 軍事属性: 騎馬 海軍
・町の人の移動速度 +10%
・騎兵育成所ユニットのコスト 城主-15% 帝王-20%
・船の移動速度 +10%
チーム ボーナス:
・射手育成所でジェニトゥールを作成可能

固有のユニット:
・ラクダ弓騎兵 (弓騎兵)
・ジェニトゥール(騎乗散兵)

固有のテクノロジー:
・カスバ (チームの城の作業速度 +25%)
・マグレブらくだ (らくだ騎兵が体力を回復する)

2.ベルベルの歴史

・ベルベル人
 アフリカ北部一帯に紀元前から住んでいる民族。元は遊牧民族であり、いくつかの部族に分かれて生活していました。数々の強力な勢力に支配されてきたため、様々な人種、言語、文化が混ざり合っています。北欧、アラビア、果てはインドから、様々な人が移り住んできました。
 ベルベル人はイベリア半島、アフリカ北部、ニジェール川のあたりまで広くに居住しています。
 現代、フランスから独立した後は、独自の文化を守ろうという運動があるようです。

・マグレブ
 北アフリカ一帯を指す言葉。語源はアラビア語で「日が没するところ」で、西方を意味する言葉だといいます。
 地中海に面しており、南はサハラ砂漠が広がっています。ジブラルタル海峡を挟んでイベリア半島、地中海の対岸にイタリア半島、東にはエジプト、アラビア半島があります。
 一面砂漠かと思いきや、ベルベル人が主に居住していたモロッコにはアトラス山脈があり、3000m級、4000級mの山々が連なっています。フランス侵攻の際にも、ベルベル人にとってピレネー山脈越えは苦にはならなかったことでしょう。
 ベルベル人は海に山、荒野、砂漠とあらゆる土地に高い適応能力を持っていたのです。

 現代では欧州に習い経済を促進する目的でマグレブ連合というものを組もうとしていますが、どうやら上手くいっていないようです。

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・ヌミディア
 カルタゴの西にある、ベルベル人が住む地域。半遊牧生活を営む小都市を指す言葉に由来します。古代、ヌミディア騎兵は強力な騎馬軍団であり、ハンニバルがローマに進軍した際には、これを使って何度もローマ軍を破りました。ここで生まれる気性の荒い馬は他地域の馬を怯えさせました。

・イスラム帝国期
 海を越えてやって来たヴァンダル族、そして東ローマ帝国と支配が続き、700年ころになると史上最大のイスラム帝国、ウマイヤ朝が北アフリカまで勢力を伸ばしてきます。マグレブ征服によってマグレブは東ローマ帝国からウマイヤ朝のものになると、マグレブにアラブ系が流入し、イスラム教化が急激に進みます。

 その後、イスラムの将軍指揮の下イベリア半島に乗り込みますが、これがAOAKのベルベルキャンペーンの3話までの話です。将軍配下のベルベル人指揮官、タ―リク・イブン・ズィヤードはイベリア半島に残っていた西ゴート王国を滅ぼしました。
 4話5話では勢いそのままにピレネー山脈を越え、フランク王国内部に入り込みましたが、カール・マルテルがこれを撃破、イスラム教徒はそれ以上ヨーロッパに進出することはできなかったのです。この戦いをフランク視点で描いたのがAOCのフランクキャンペーン、トゥール決戦です。

・後ウマイヤ朝期
 ウマイヤ朝がアッバース革命によってアッバース朝になった時、ウマイヤ朝の末裔がベルベル人が統治するモロッコに逃げ込み、再度イベリア半島に進軍、後ウマイヤ朝を打ち立てます。これ以降、マグレブには違うイスラム指導者の下、いくつかの王朝ができます。

 後ウマイヤ朝の首都、コルドバは10世紀頃には世界有数の大都市となり、また、高い技術力を持ったイスラム文化の都市だったため、元より住んでいたスペイン人も進んで受け入れ、安定した社会を築きました。
 しかし1000年頃に指導者が死ぬと、後継者争い、アラブ系やベルベル系の豪族たちによる指導者擁立合戦が起こり衰退、タイファ期に突入します。

・タイファ期
 タイファとはイベリア半島に後ウマイヤ朝の行政区分を引き継ぐ形できた数々の小王国のことです。十数個に分裂、群雄割拠の状態になってしまいました。タイファにはイスラム系キリスト系があり、両者は争うことになります。

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 各タイファの指導者はよく傭兵に頼り、これがエルシッドであったり、アフリカからベルベル人を引き入れたりします。逆にそれぞれの統治下に入ってしまうことがしばしばでした。

 後ウマイヤ朝が衰退すると、マグレブ側ではベルベル人の数少ない王朝であるムラービト朝やムワビット朝が興ります。因みに南にあるガーナ王国を滅ぼし、マリ帝国ができる一因になったのはムラービト朝でした。

 後ウマイヤ朝、ムラービト朝、ムワビット朝が崩壊するごとにタイファ期は訪れ、徐々にキリスト系タイファが勢力を増していきます。これがレコンキスタです。

 その後もいくつかマグレブにベルベルの王朝はできましたが、ポルトガルが力をつけると諸都市は占領されてしまい、オスマン帝国が力をつければオスマンに、フランスが力をつければフランスの植民地となり、世界大戦が終わると独立、現代にいたります。

3.文明ボーナスの出所

・町の人の移動速度 +10%
 部族意識が強かった彼等は、連携ができるように道やコミュニティを整備し、敵に対して機動力で常に優位に立っていたようです。迅速に移動し拠点を築くことで、敵の体勢が整う前により多くの軍隊で襲撃を仕掛けられたことでしょう。
 険しい山々や砂漠など、様々な地形に適応して遊牧や交易を営んできた民族らしいボーナスと言えます。

・騎兵育成所ユニットのコスト削減
 遊牧民出身であり、古代ヌミディア騎兵、700年ころの騎馬部隊、後述しますがスペインではヒネーテが近世まで多く配備されました。ベルベル人は馬に乗って敵地に侵攻していきました。当然繁殖技術も優れた物があったことでしょう。
 一説では欧州に騎士が誕生するきっかけとなったのが、ベルベル人がトゥールに攻め込んだことであったとも言います。

・船の移動速度 +10%
 マグレブは大部分が海と接しており、多くは沿岸都市であったため、紀元前から地中海に面した都市同士の交易も盛んでした。湾港は古代から大きく発達し、ベルベル人は高い操船技術を持っていたことと思われます。

 ベルベル人はなんどもジブラルタル海峡を渡ってイベリア半島に侵攻しましたが、それをキリスト教系諸国が撃退できなかったところをみると、やはり素早く上陸していたのでしょう。
 余談ですが、ターリク・イブン・ズィヤードはイベリア半島に上陸した際に船を焼き払って不退転の意志を示したとあります。ベルベル人にとって、馬と船は侵略の象徴でもあったことでしょう。

・チーム ボーナス:ジェニトゥール作成可能
 ベルベル人は様々な勢力に傭兵として雇われた歴史があるため、彼等は様々な絵画や記録に軍隊として登場します。ムラービト朝やムワビット朝などが支配していた際には、タイファでもその戦闘技術が伝えられたことでしょう。ジェニトゥールについては後述します。

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ユニークの出所

・ラクダ弓騎兵
 ベルベル人はサハラ交易に長い間携わっており、またムラービト朝時代にはサハラ砂漠を南下して征服事業を起こしていました。
 砂地でも素早く移動できるラクダに乗り、遠くから弓を射かけるのは、遮蔽物のない砂漠では非常に強力な兵科だったと思われます。護衛者として、襲撃者として、彼等は活躍したことでしょう。
 マリのキャンペーンにもラクダ弓騎兵は交易所の守備兵として登場していますし、近代になっても火砲を搭載したらくだ砲兵部隊がインドでは組織されました。

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・ジェニトゥール (騎乗散兵)
 ジェニトゥール (Genitour) の語源はスペイン語で騎乗する者を意味するヒネーテ (jinete) であり、さらにその語源はベルベル語のゼネーテ(zenete)に由来します。
 ヒネーテは中世スペインの軍隊を代表する兵科で、ムーア人(イベリア半島のイスラム教徒、要するにベルベル人)の軽騎兵に対抗するために、中世初期に編成され、その後フランスのスイス長槍兵に敗北するまでの長い間、しばしば主力として戦場に投入されました。
 彼等は丸い盾と剣で武装した軽騎兵であり、投げ矢で攻撃したり、機動力を活かした戦術を得意としました。

 AOE3ではポルトガル固有の強化版竜騎兵として登場します。因みにポルトガル語では (zinete) というようです。
 竜騎兵とは散兵戦術をする軽騎兵で、銃で歩兵の槍衾を崩し抜刀突撃を仕掛ける戦い方をしました。
 
 これらの散兵である、騎乗兵であるというのが合わさり、ユニークな騎乗散兵ユニットとして登場しているようです。
 槍を投げる根拠については不明ですが、ターバンを巻いた黒い肌をした騎馬兵が短く軽そうな槍(ランスではない)を持っている絵画はいくつか見ることができます。もしくはダーツ的な解釈なのかもしれません。

 これは蛇足となりますが、もともとジェニトゥールはAOCが開発される際にスペインのユニークユニットとして予定されていたようで、バージョン5.0ではシナリオエディタでその姿を見ることができました。確か槍を投げる民兵のようなグラフィックだったと思います。
 今ではエディタの項目からは削除されてしまいましたが、ゲーム内データに収録されているようです。

・カスバ(チームの城の作業速度 +25%)
 ここでいうカスバとは、街や城砦の中心部を指しており、意味としては城や天守閣、見張り台、城門等の防御機構のことを言うマグレブ地方の言葉のようです。スペイン語で城砦のことをアルカサバといい、インドではカッサバというムスリム階級を指す言葉があるらしく、それぞれ影響を伺えます。
 カスバは地域の指導者が住む場所であり、丘の上や港のすぐ近くに建てられました。都市にカスバを建てることは富の象徴でした。

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 城に行政機関としての能力を与え、作業速度を上げるという事なのでしょう。ベルベル人が建てた建造物をスペイン人が使って現代に残る、というケースはよくあります。例えばスペインの象徴、黄金の塔はベルベル人が建てた物ですが、今でもセビリアに建っています。
 ベルベルの歴史的性質上、やはり同盟勢力にこの概念は共有され影響があると解釈できそうです。恐らくバランス調整でしょうが。

・マグレブらくだ(ラクダユニットの体力が自動回復)
 部族内連係を強め道路やコミュニティを整備し、戦いを有利に進めるという事は、補給という概念を登場させることでしょう。マグレブの勢力が持つラクダはサハラ砂漠で敵と戦う際、数々の支援を同族から受け取れたのかもしれません。
 バイキングやサラセンでもそうですが、AOE2では強力で狂暴であるということを示す場合、体力関連のボーナスが付くようです。

最後に

 いくつかのキャンペーンに出てくるムーア人、ベルベル人は、このような歴史をもっていました。

 ベルベルはこれと言って大きな帝国がなく、文明としてゲームに落とし込む際には、ベルベル人が持つ歴史という非常に長い時間、広義な解釈がなされているようです。

 マグレブ、イベリアやベルベル人が持つ特質的な歴史地理を、上手くボーナスで表現しているのではないかと思いますが、唯一、パルティアン戦術がないのはバランス調整のために無理矢理取り入れた要素ではないかと思われます。ヒネーテは偽装退却や攪乱など、ステップ騎兵に見られる作戦を取っていた様子があるからです。
 ラクダ弓騎兵は度重なる調整をくらい、今ではかなり弱体化してしまったので、もしかしたら今後パルティアン戦術を受け取る可能性もあるかもしれません。

 それでは。

参考ページ
日英独wiki: 諸ページ
African Knowledge.com (非常に詳しく書かれすぎていたので流し読み)
http://realhistoryww.com/world_history/ancient/Misc/North_Africa/North_African_History.htm


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