TRPGの話:小鴨知歌~あらすじ編~
Dead or AliCe「16人の救世主」というシナリオがありましたとさ。
2020年最後のTRPG。……すごかった!
こちらのエントリーの続きとなります。
もし、もしよければこちらも併せて読んでほしい。
文字数がエグく、読むのはとても大変なので、興味があったらで構わない。
だけどとても読みやすくまとまっているので、ぜひ足を運んでチラ見だけでもしてみてもらえると嬉しい。
なぜならこの記事は、この結果を踏まえ……これについて語るから!
さあ、初めていきましょう。
今回は後書きゆえ、すべてのネタバレを含みます。
キャラの話の前にさあ……!
このセッション、こえーーーーーよ!!!!!
TRPG出身じゃなくて、定期出身の人がたくさん。
熱量が、感情が、パワーが、とにかくすごい。圧倒される。
怒涛の勢いで流れるログ。分厚いキャラクターの数々。演出と文章力。アホみたいに多いアイコン差分たち。
そこ!ノベルゲーを作ってくるんじゃない!!
そんな盤外からの殴り、あるか?クローズドの1キャンペーンだぞ!?
おれはここに居ていいのか!?
実は……呼ばれたのは手違いだったのでは!?
顔ぶれ、やべえ大物の集いなのではないか……!?
観戦者にゲームの作者様までいらっしゃるのは、どういうことなのだ!?
うっかりウチが優勝でもしたらどうするんですか!?
わからん。何もわからん。ちなみにノベルゲーの犯人はこの人。
こういう相手たちと戦ってきた。それをまず覚えておいてほしい。
参加しただけでスゴイ。おれは最強。
そう心に言い聞かせている。セッション終わって未だに。
前置き終わり
しかし今回は、今回も自キャラの話です。どこから話す?
前回ヨハン様の話で、割と起こった出来事とか、中身とか含めて話したけど、今回はさすがに……ハショろう!ちょっと、内容が分厚すぎるのでね!
内容ダイジェストと、キャラメイクの話、コンセプト的な方針をエラソーに語っていきます。まずは……
本編、どんなお話?
『オールド・メイド・トーナメント』
16人の救世主を集めて行われる
誰かがこの儀式を発動すると、不足する分の救世主を呼び寄せ、強制的に参加させる
儀式に参加すると、持っている6ペンスコインを10枚を残して、館から投げ捨てさせられる
10枚しかなければ捨てる必要はありません
足りないと参加出来ません
館から捨てたはずなのに、そのコインは消えて無くなってしまいます
2vs2で決闘し、10枚の6ペンスコインを奪い合う
最後の2人になるまで戦いあう
勝ち残ったペアは奇跡の力を手に入れる
敗退者については優勝者が好きにすることができる
死亡せず敗退した救世主は館から突き落とされる。通常は。
ババ抜き(Old Maid)の際に、2枚ずつ捨てられるカードにちなんだ儀式
6ペンスコインを明け渡して戦いを避けることは可能だが、ほとんど死に等しい
6ペンスコインを失って追放されれば、まず死ぬ
なるほど!殺し合いですね!
2対2の8チーム、16人参加のトーナメント戦!
勝てば願いが叶う。負ければ高確率で死。
トーナメントなので、勝ち残れるのは1チームのみ。
PvPなので裁定は限りなく公平。
つまり……ほぼ確実に死ぬ!!
8号室について
8つのペアは、1つずつ客室を割り当てられます。
我々に割り当てられたのは最後の部屋番である8号室。
先の話でも少し触れましたが、組んだ相手はありおりさんのマキナさん。
「ヨハン様はいつも正しくていらっしゃいます♥
マキナはそんなヨハン様をお慕いしておりますとも♥」
ヨハンにつき従う少女。
強い相手に取り入って、媚を売って、機嫌を窺って、ずっとそうして生きてきた。
誰に裏切られたわけでも、傷つけられたわけでもない。
ただ自らの意志でその生き方を選択した。
その生き方は、堕落の国へと呼ばれても変わらない。
この女です。
トーナメント開始時にヨハン様を見捨てたカス。
むかつく事に顔が可愛いが、たぶん不幸な死に方をしそう。
ちなみに救世主は「心の痣」と呼ばれる狂気を宿しています。
彼女の心の疵は、「加虐」と「空疎」。
わが身かわいさに身体も信頼も自尊心も安売りして、どこか空っぽの心。
けれど自ら手を下さずに他人が這いつくばるのを見るのはサイコー!
クズ!!!!!!!
そして小鴨チカはこういう男。
17歳高校生男子。童貞。身長158cm、体重44kg。
友達はいないけど、イラストアカウント(ときどき歌、ときどき自撮り)のフォロワーが500人居る。
趣味はカラオケ、ライブ、ファッション、メイク、漫画、アニメ、ゲーム。
学校では黒髪のウィッグをつけて、耳元を隠してメガネをかけている。
ドラマチックな人生とかは特にない。恐怖に晒されると失禁する。
心の痣は「恐怖心」と「女性恐怖症」。
デスゲームなんて怖いに決まってる!
ひたすらビビり続けてまともな覚悟も決まらない。
その上彼は生粋の童貞で、死ぬほど色仕掛けに弱い。
うーん、ザコ!狂気すらザコ!
狂いというにはいまいち弱く、けれどこの場で仲間にするにおいては限りなく持っててほしくない弱点といった感じ。
マキナ視点からすれば相方は暴走して粛清され、穴埋めに外れクジのような頼りない男が割り当てられる。
チカ視点からすれば、突如異世界に呼ばれ、デスゲームへの参加を拒むと殺されるということを目前で見せしめにされた挙句、相方を見殺しにした女と組まされる。
こうしてクズとザコという、デスゲームで組みたくない奴ら同士が組むことになってしまったのです。
その後の試合の流れについて
ここからはログを読まない人むけのダイジェスト。
成り行き上仕方なくデスゲームを組むことになったチカとマキナ。
お互いパートナーに関しては大いに不満がありつつも、生き残るために他に選択肢があるわけでもなく、手を組んで相手を倒すことに。
二人とも、故郷は現代の日本。既にこの堕落の国に滞在していたマキナは、チカとは違って、殺しが身近にあるこの世界のことをその身を以てよく知っている。一方でこの世界に来たばかりのチカはといえば、救世主は三十日以内に一人以上の救世主を殺さないと異形化するという堕落の国の仕組みを知り、目の前の仲間もまた殺人を犯したものであると気付き、大いに動揺する。
殺すか、殺されるか。喧嘩すらしたことのない小さな少年は、突如そんな選択を突き付けられた。死にたくない。その一心で少年は戦いを決意。胸中は未だに「殺したくない」という気持ちでいっぱいになりながらも、目の前の相手と向き合うこととなった。
「あとでご褒美あげます」本気かウソかもわからない、マキナからの一言に、チカは動揺した。
最初の相手は4号室、鏖田ネイル(右)と網倉霞(左)。
鏖田ネイル
刀のような目つきの女。
身体から燃える血が出る。
杭と火炎で戦っていた、元ヴァンパイアハンター。
そして半吸血鬼。
網倉霞
中性的な見た目の男。
身体から毒が出る。
元の世界では吸血鬼を狩っていた。
注射器と罠を使って戦う。いずれも毒が仕込まれている。
二人もまた、日本という国から来た人。同じ世界か、それとも似て非なる異世界か、ともあれ彼らは元の世界に居た時から戦いと共に生きてきた人たち。そして、この堕落の国でもまた、多くの救世主たちを殺してきた人たち。覚悟が違う。経験が違う。油断も情けもかけるヒマはない。そのためには裁判前の「お茶会」と呼ばれる儀式で相手の心の疵を見つけ、そして抉り、力を弱めて裁判で殺さなければならない。
鏖田ネイルは、最愛の人を失っている。けれどそこから目を背け、チカのことを最愛の人だと思い込んでいる。
救世主は狂っている。だからそこが弱みだと知ったチカは、現実を突きつけることでその狂気を炙り出した。
そこからはひどかった。こちらを敵と確信したネイルによって、仲間のマキナは直接的な暴力へと訴えかけられる。密室での襲撃。執拗な精神攻撃と調教、杭を挿入されての性器破壊。その身を武器としてきたマキナに消えないトラウマを与えた。
やがて裁判が訪れる。
刃物で他人を殺す勇気が出ないチカは、小ぶりのハンマーで参戦。
マキナは心身ともにボロボロ。
未だ殺す覚悟すら決まっていない状態。救世主として得た能力がなんだかすらわかっていない状態。
勝負になるかもわからなかった。
開廷。動く。殴り合う。チカは気付く。
救世主の力はコインの数で決まる。そして、このオールド・メイド・トーナメントは、常に等しい枚数のコインが分け与えられる。勝機は、あるのだ。頭が冴え渡る。
チカには恐怖心という弱点があった。平常心を保てればいいのにと願っていた。その心の疵は、チカに冷静な判断力を与えた。
チカには女性恐怖症という弱点があった。いつも人に弄ばれてばかり。人の考えが読めればいいのになと思った。その心の疵は、チカに先読みの加護を与えた。
相手の動きがわかれば先のことがわかる。流れてくる譜面を押す!音ゲーと同じだ!これは、ゲームだ。チカはゲーマーだ。ゲームならば負けない!ノーツに向かってハンマーを振る。
気付けば、ネイルは倒れていた。
残ったのは霞一人。彼はネイルを守り、人を惑わし、毒を張り、罠を張る狩人だ。直接の殴り合いの喧嘩で戦う術を持っていない。
生き残るために全力を出してきたチカ。しかしここで勝ちを予感した瞬間、別の戸惑いが彼の心を揺さぶる。殺したくないという気持ちが急激に強まる。もう勝負は決まった。諦めないでくれ!殴る。立ち上がる。立ち上がらないでくれ!叫ぶ。相手もまた目的がある。生き残って、勝ち上がって、願いを叶えるためにこのトーナメントに参戦している。それを理解したくない。ただ悪い敵で、脅威であってほしかった。泣きながら殴り続ける。隣のマキナもまた、早く死んでと叫びながらナイフを振り続けた。
やがて狩人たちは倒れる。発狂した元救世主は亡者と呼ばれる異形へ姿を変え、そしてメイドたちに粛清される。
試合は終わった。ふたりは泣き続けた。
ボロボロのマキナと、無傷のチカ。マキナを守れなかった自分は無傷という結果が、また彼には情けなかった。
マキナは、未だ消えない恐怖に震えている。第一印象は、信用ならない悪女だった。けれどその薄皮をめくると、ただ生き残りたいだけの等身大の少女の姿があった。
「マキナに、してほしいこと、あるんじゃないですか」覇気のない声で、チカへと囁くマキナ。それが強がりだということはチカにもわかる。性を交渉道具として使ってきた彼女が、しかしそこにトラウマを押し付けられて、その先の褒美を与える行為が怖くないはずがない。
それは童貞の思い込みだったが、その通りだった。
チカは、マキナという女のことを好いた。小鴨チカは惚れっぽい。けれど、その惚れっぽさが、この状況においては都合がよかった。好きな女を守るためなら、もっと頑張れると思った。
「好きって、言って……」
チカは、かわりに、そんな褒美を求めた。人の死に直面したトラウマは、恐ろしかったが、彼女が寄り添ってくれる間は、悪夢にうなされずにすむ気がした。
初戦が終わり、2号室、4号室、7号室が死亡。5号室は敗退、生存。
寝て起きて、つかのまの休息。マキナは6号室のティモフェイという男と会う。
棄権のような何か、潔く諦めろ的な謎の勧告を受ける。何を考えているかよくわからない男。首をかしげながら戻るマキナ。その後ゲームを探しに出たチカもティモフェイと会う。相手を探るが、よくわからない。なにしろ客席から見た情報は断片的すぎるのだ。相方のトイとは、ひどく複雑そうな関係に見える。関係が険悪なのは間違いなさそうなのだが、なぜそうなのかもよくわからない。
彼らの願いは世界の救済。そして彼らは唯一、相手を生存させたまま試合を終えたペア。その願いが成し遂げられるならば、あるいはチカたちへの救いになるのかもしれない。元より、ポッと出の自分たちが優勝できるかといえば、チカには自信がなかった。
けれど、この相手がわからない。将棋をしたりして、間を持たせる。
思ったより話せる相手だ、という印象を得た。
一方、マキナは初戦進出の1号室・匕首咲と、初戦で6号室に敗退し、記憶を失った5号室のアレクシア、三人で菓子作りをしていた。
もう戦うことのないアレクシアはともかく、敵として立ちはだかるかもしれない咲とも意気投合してしまう。お互いがお互いを好いた。いずれ殺し合う間柄とわかっていて、マキナと咲は友のように振る舞った。
マキナが女子会を終え、チカが将棋を終え、二人は館を散策していた。
そしてこの男と出会う。
トイトロール。6号室のティモフェイのパートナーであり、同じ顔の男。
粗野なふるまいが目立ち、時に無邪気に、時に悍ましく振る舞う、低くしわがれた声の男。
彼は無垢な子供のようにチカとマキナと遊ぶ。楽しくビリヤードをして、負けたチカへと物をねだる。ピアスを受け取り、思い出の品とするのだという。チカは、この男がどういうものなのか、わからなかった。好感は覚えたが、不可解だという気持ちは消えず、胸中に抱えたまま。
やがて二戦目が始まる。
ダークホース、番狂わせ。
最弱と思われていた8号室は、偶然か必然か、ともかく初戦を勝ち抜き二回戦へと進出した。
立ちはだかるのは1号室。
一人は桟敷川映鏡。
明治・大正、昭和にかけて。都市に生まれた暗がりの。
謎が謎呼ぶ怪事件。人の噂に尾ひれがついて。
いついつから呼ばれたか。どこどこ誰が言い出した。
怪人・赤マントとはこの男。
大日本帝󠄁國時代。見世物小屋生まれ見世物小屋育ちの奇術師。
赤マントそのものではないが、都市伝説の一部ではあるかもしれない。
その正体は娼婦を殺しては胎をくり抜く快楽殺人鬼。
母親への愛憎が彼を凶行に走らせたのだが──
そして、匕首咲。
匕首 咲(あいくち さき)は、悪趣味な金持ちが作った奇形専門娼館で生まれた娘だ。
商品として、あるいはオーナーの玩具として”口裂け女”に作り変えられた。
父は、"商品開発部"の医師の一人。彼は水揚げ前の咲を逃し、匿った。
いつか家族3人で暮らそうと話した。
結局、無理だったけれど。
彼らは、こちらを殺す気で立っている。
チカは一戦目、ちゃんとした「お茶会」を成し遂げられなかったのが気になっていた。一戦目にも、お茶会はあった。けれどそれは中断されてしまった。他の戦いを見ても、まともに茶会として成立するケースが稀有であることは分かる。
だから二戦目は、きちんとした儀式に則って、正々堂々、話をしながら相手の心を探り、疵を抉るということをしてみたかった。
と、いうより、一回戦目の一号室は(対戦相手の七号室がその流れを作ったとはいえ)極めて暴力的なお茶会を観客席に見せつけた。なので、その相手に同じ展開をやられたくなかったのだ。
桟敷川に、素朴な疑問を訪ねた。
きっとそこが彼の異常性だと思った。せいぜい、その程度の理由で。
それは彼の心を強く刺激した。
彼は茶会の席を立ち、咲もそれに続いた。
再び彼らと合流した時には──咲は、死んでいた。
チカたちの勝ちは、あまりに呆気なく決定する。
「おめでとうございます」
相棒の死体を目の前に、桟敷川映鏡は穏やかな声で言った。
その表情は笑みのように見えたが、胸中は分からない。
彼らは、心中により戦いを抜けることを選んだ。両想いだけれど、だからこそ、お互いのすべてを差し出し、すべてを受け取る事で終わりとした。
「生きてこそ」そう思っていたチカに、彼らが示した答えは不可解だった。
そんな結末もある。そんな選び方もある。
「……君らの狂気に祝福あれ」
仮面を外した男は、チカたちへ、そう言い残し──。
奇跡の力で起き上がった咲に心臓を貫かれ、咲の心臓を押しつぶし、折り重なって倒れた。
チカは安堵していた。また、生き残れたこと。手を下さずに済んだこと。
目の前で起こった死に対して、確かに安堵したのだ。
「(まだ、壊れてない。
この状況から解き放たれさえすれば、きっと、また普通に戻れる。
人ひとり殺せない人間に戻って、悪夢にもうなされず……ここで自分も犯した罪も「仕方なかった」で許せて、幸せな未来をつかみ取れる。
…………ああ。
『君らの狂気に祝福あれ』って、そういう事か。)」
決勝を勝てば、戦いは終わる。あと一度だけ。絶対に勝てないと思っていた戦いなのに、気付けば勝利は目前に迫っていた。
生存のために、ひたすら足掻いていただけだった。
なのに今、こうして勝利が目の前にある。
願いが叶う。勝ち抜いて願いを叶えることが、現実の目標となる。
自分たちに、未来があるかもしれない。
願いを叶えて、元の世界へ戻りたい。
けれど、自分たちは壊れすぎた。
人を殺した記憶を抱えて、元の世界に戻ったとして、果たして幸せになれるんだろうか。命の危機が去ったあと、自分たちのしたことにそこまで無神経でいられるだろうか。
マキナは、癒しの力がある。勝利して、コインを得て、その力はさらに強まった。なのに初戦でネイルに消えた傷だけが消えない。
二人とも、強いトラウマを抱えすぎた。
「ぼくはね、マキナさん。一人じゃ、たぶん無理。
孤独が怖い。この経験を共有する人に……一緒にいて欲しい」
「……マキナ、と?」
「他に誰が居るのさ。
けどね……本当に辛かったら、幸せになりたかったら。
……奇跡の力で、全部忘れちゃっても……いいと思う」
ここでの出来事。二人の出会いも、全て放り出して。
何も知らなかったあの頃に戻れたら、きっと幸せになれる。
チカはマキナが好きだった。
でも本当は忘れてほしくない。忘れたくない。
だから、マキナが忘れても、小鴨チカは忘れない。
マキナは怖かった。
できることなら忘れてしまいたい。
けれど自分が忘れても、小鴨チカは忘れることを選ばないのではないか。
なぜ、自分はそんなことを気にするのか。
その理由は分かってる。
分かっているが認めるのは怖い。
誰も信じずに生きてきた。人を信じるのは、とても怖い。
「こんなに素顔晒したのは初めて?」
「……そうだよ」
「……ぼくは、そのマキナさんしか知らないよ。
目の前の女がクソだってことは知ってるよ。
そのクソ女のことを好きだって言ってんじゃん」
「……さっきからひどい。
だから、それは、勘違い、でしょ……。
元の世界に戻ったら、クソじゃない女の子がいっぱいいる……。
そしたらもう、私じゃなくていいじゃん……」
「勝ったら、ご褒美くれるんでしょ?」
「……? うん……」
「じゃあ、優勝したら、ぼくと一緒に帰ってよ。
記憶も疵も傷も、全部抱えて、今のまんまのマキナさんで」
あと一度、狂うだけ。
それだけでいい。
装いを新たにするマキナ、変わらないチカ。
トイとティモフェイが、敵として前に立つ。
二人の同じ顔が、生贄と騎士の装いで。
あらすじ・・・
6号室の2人の故郷、『忘却の国』と呼ばれる、記憶をうばう雪に閉ざされた世界。
救世騎士と呼ばれる血族が生贄を選定し、清らかな魂を天に捧げる事でわずかな春をもたらす。
ティモフェイはかつて優秀な救世騎士であった。トイトロールは、ティモフェイに顔が似ていたため人さらいに攫われた。
トイトロール伝説とは、忘却の国の民話だ。故郷の民話を騙り、故郷の雪をひきつれた、男は自分の名前も家族の顔も解らない。
ティモフェイはトイを救うという。トイはティモフェイに世界を救えという。
凍えた世界を救うためには犠牲が必要だった。
清らかな魂を天に捧げ、神に顧みていただく必要があった。
犠牲を捧げる任を請け負うておきながら、騎士はそれを厭うていた。
そうして放り込まれた堕落の国で今、生贄と肩を並べて戦っている。
ただ一人。彼を救わんと願うために。
「私は――救世主ティモフェイは、
飢え、腐敗、苦しみ、亡者、決闘による死。
世界の歪さを、不幸の連鎖を断ち、
奇跡の力で、全ての人を『救済』すると――そう、約束する!」
広々とした中庭に、騎士の宣誓が響く。
トイトロールは、自分の力を制御できない。
館は今、冷気に包まれていた。
冷気と共に、館の記憶が再生される。
消えていった救世主たち。
あるいは先代のトーナメントの参加者たち。
あるいは、もっと古の記憶。
6号室は、8号室にパーティーの参加を持ち掛ける。
春誕祭。それは、元の世界のクリスマスとよく似ていた。
生き残りである5号室を読んで、6号室と8号室、それぞれの部屋のお付きのメイドたちと、食事を楽しんでプレゼント交換を楽しむ。
チカは、6号室のメイドから館のアルバムを貰った。
チカにとっては今なお忌々しい記憶。けれどいつか、これを見る勇気が出るかもしれない。
チカはメイドに見繕ってもらったアグリーセーターをティモフェイに渡した。冗談の通じない真顔の男が、クリスマス柄のナンセンスなセーターを着せられるさまをみて、皆で笑った。
マキナは、5号室のアレクシアからハンカチを受け取った。
マキナのプレゼントは、この世界で手に入れた紅茶。5号室のシャルルへと届いた。
5号室は元救世主。
チカ達が勝ち、元の世界へと帰れば、世界の救済が為されず彼らは死ぬ。
和やかなパーティーもやがて終わり、最後の客が訪れる。
マキナが住んだ館。天宮ありすの館にいた、ペットの兎の末裔たちだった。
見ないふりをして、置いてくるつもりだったものたち。
マキナがチカのために生きて、元の世界に帰ると、死ぬものたち。
マキナが天宮ありすを裏切るさまを、ヨハンを裏切るさまを見てきたものたち。そして今まさに、マキナに裏切られようとしているものたち。
「…恨んでやる…」「お前たちの元の世界も」「終わればいい」「お前たちの家族も死ねばいい」「そう願ってやる。そう願ってやる。」
末裔たちは口々に騒ぎ立てる。奇跡のちからはないから、恨むだけ。
「どうかお前たちが幸せになりませんように」「どうかお前たちにどのような満足もおとずれませんように」「お前が勝手にすがったものが」「お前に一番のむくいになりますように」「おまえのようなやつの」「お前が『信じよう』っておもったものが」「お前が『これだけ』っておもったものが」「お前を苦しめる為にあたえられたものでありますように」
「どうかどうか、」
「お前とその男の子供が、ありす様のように嬲り殺されますように!!」
事情を知ったチカは困惑する。
マキナは泣きながら謝り続ける。
彼らに、生き残るすべはもう、なにもない。
堕落の国の救済しか。
「堕落の国を、すくってください…」「生きられるように……」「おねがいします…」「おねがいします、おねがいします…」
こうして、一日目の茶会は終わった。苦い後味を残して。
翌日、チカはマキナに問う。
「救ってあげたい?」
「……できるなら、そうしてあげたい、って、やっぱり……思うよ。
6号室の人達の言うことは関係ない。世界をどうにかしたいとも、実はそんなに思ってなくて……。
ただ、あの子達のことは……私にも責任があるのは、ほんとだから……」
「ふふ。
元の世界に戻りたい、最初はそれだけだったのに。
疵を治したい、あの子たちを助けたい。三つになっちゃった」
「……うん」
チカは、マキナと共に生きられるなら、それでもいい。
元より、元の世界では失敗と恥だらけの人生だった。
ならば、マキナの疵を治すのも、救済を願うのも、自分のための願いだ。
「一番好きなものが、そのぶん埋めてくれるんでしょ?」
裁判へと挑む。二人の敵が立っていた。
パーティーでの楽しかった記憶も、もはや意味はなかった。
6号室は8号室に棄権を求めた。8号室はそれをはねのけ、チカはトイに渡したピアスを捨てることで拒絶の意思を示した。
最後の殺し合いが始まる。
吹き荒れる吹雪に視界は閉ざされる。
チカは、己の知る最も恐ろしい武器を持ち、滴る毒血を燃やして戦う。
4号室と戦い、勝って奪った力だ。
無視界の白い景色の中、マキナは分断され、ティモフェイに襲われる。
チカは炎を燃やし、毒煙を巻き、時には杭を、時には有刺鉄線を用いてトイを牽制する。
そして隙をついて押し倒し、その棘の生えた鉄の糸でトイの頸を締め上げた。
初めての殺し。明確な殺意を持って、共に遊んだ相手を。
それでも、4号室の時のような躊躇いはない。
ティモフェイが、マキナが、シャルルが、アレクシアが、何かを言う。
聞こえない。無我夢中で殺す。
意識が薄れゆくなか、トイは思う。
『覚えておいてほしい。
──オレの悲鳴を!』
トイは両手でチカを優しく包み、自身の記憶を伝えた。
己がどんな人生だったか。何を感じていたか。どうして強がらなきゃいけなかったか。どうして生きてる人間を怖がるようになったか。どうしてティモフェイと一緒にいるのか。ティモフェイが故郷でどんな存在だったか。忘却の国の人々が、死ぬときに何を感じたか。それを知って、自分がどう思っていたか。
チカは知った。すべて。
トイは、事切れる。
ティモフェイは生贄の元へと近寄り、その心臓を貫いた。
かつて儀式を途中で放棄した救世騎士ティモフェイ。
世界の救済は、この男によって為されてこそ意味がある。
それはティモフェイでなくてはならなかった。
トイは、そう思っていた。
チカはそれを知った。だから問う。
「今度は、最後まで?」
「ああ」
聞きたかったやら、聞きたくなかったやら。
遅いよ、というべきか。
ありがとう、というべきか。
棄権してくれ、というべきか。
その抵抗を、あくまでチカは無意味だと思う。
けれど、そう思わない者の気持ちを、知ってしまった。
「そっか。
……やろうか」
毒煙が彼を包み、ティモフェイを昏倒させる。
彼もまた、狂った者。
亡者へと至り、死ぬさだめ。
救世騎士の装いで、亡者が立ち上がる。
6号室のメイドが、その身を穿つ。
チカとマキナに背を向けたまま、彼女は口を開く。
「刺剣の館。ここは死に場でございます。
こにも辿り着かなくなってしまった、死んだコインの降り積もる場所。いかなる孤独な魂にもここは開かれているのです」
8号室のメイドが続ける。
「オールドメイドゲームという儀式は積もり積もったその全てを焼却し、再び力へと還元する儀式。その際に生まれる限りの無い炎を奇跡とし、勝者であるあなたがたは願いをそれぞれ一つずつ、叶えることが出来ます。
伺いましょう。チカ様、マキナ様。
あなた様の願いは、何でしょうか」
闘いは終わったのだ。
チカが前に出る。
「ひとつめは……マキナさん。マキナさんの疵を……癒したい」
この疵は、マキナのために自分が叶えたい願い。
チカは、自分の口で言いたかった願い。
「……もうひとつも、ぼくが言っていいかな」
二つ目の願いもまた、自分の口で言わなければならない願いだった。
「飢え、腐敗、苦しみ、亡者、決闘による死。
世界の歪さを、不幸の連鎖を断ち、
奇跡の力で、全ての人を『救済』する」
「(この世界を救ったのは、救世騎士じゃなかったけどさ。
忘却の国を知ってる。悲鳴を聞いた。記憶を、引き継いだ。
だからまあ……これが精一杯だ。妥協しておくれよ。
いいだろ。君だって最後に、ひっでぇ事してくれたんだから)」
死んだら終わりと考えるチカだが、
トイは自らの意思を引き継ぐことを願った。
だからって従う義理はないが……記憶を受け継いじゃったから、気持ちはわかってしまう。
だから、この願いは、チカが言うことに意義があるんだ。
空は晴れたり曇ったり。
雨が降ることもあれば雪が降ることもある。
海は青々とした海水となり、無数の魚が波間に泳ぐ。
草木は生い茂り、色とりどりの花が四季に応じて咲き誇ります。
町や集落は点々と存在し、民草は壮大で豊かなこの国で、日々を過ごしています。
何よりの脅威であった亡者の群れもまた儀式の炎によって焼却され、二度と生まれることはないでしょう。
拝啓、アリス。
愛しいアリス。
きみが目を醒ましてから長い月日が流れました。
ぶっちゃけ、この国はもう駄目――というところで、
猟奇と才覚、愛を携えた新たなアリスが、
この世界をどうにかしてくれました。
めでたし、めでたし。
・ ・ ・ ・ ・ ・
思えばぼくは、このゲームに命を救われた。
きっと、この世界に呼ばれても、
ここに巻き込まれなかったら、ぼくは生きてなかったと思う。
マキナさんと出会えた。メイドさんたちと出会えた。
他のみんなとも。
アルバムを見よう。
たぶん、悪い記憶ばかりじゃなかった。
これから幸せに暮らすんだ。
緑の実り初めたこの世界で、新しい春を過ごすんだ。
『オールド・メイド・トーナメント』
ここから、ぼくの第二の人生は始まった。
感謝や恨みや喜びや悲しみ、それと青春。
いろんな気持ちを込めて、この言葉を捧げるよ。
・
・
・
「クソゲーーーーーーーー!!!!!!!!」
最後に
だからハショらなきゃって言ったじゃん!!!!!!!!
いやハショったよ!
ハショったけど、それでも長くなっちゃったんだよ!参ったね!
チカのキャラコンセプトとかの話しようとしたけど、そんな空気じゃなくなっちゃった!
記事の推敲とかすべきでしょうか?
ですよね。でも長すぎてめんどくさいです!
自分の文だけど、一度たりとも読みたくねえ!これで終わり!!!
次回、チカのキャラコンセプトの話に続きます!!!!!!!!!!!!!
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