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『オランピアソワレ』/人に信仰は難しい

【白】の少女が舞うと夜が遠離る。

自らを「オランピア」と名乗り、
人形のように微笑むこともなく、
人形のように舞い續ける彼女を
人々は敬い、恐れていた。

命よりも色を重んじる天供島で、
彼女はたった一人しか存在しない色を持つ。

稀少な【白】を途絶えさせないために
ここで18歳を迎えた彼女は交配相手を捜さねばならない。

『天女島で産まれた貴女は特別なのです』
『この島のどんな色の男でも自由に選ぶことができます』

過去の出来事から外界との交流を拒んでいた彼女は
亡き母の言葉を信じて一歩を踏み出す。

本当の自分を愛してくれる者を見つけるために。
自分が求める魂の半身と出逢うために――――

(*公式サイトより)

 今回はわたしの中で『恋の花咲く百花園』以来の完全新作である『オランピアソワレ』の感想文になります。話の筋としては、『緋色の欠片』シリーズを彷彿とさせるようなものだったと個人的には思いましたが(想像以上に和物でした)、以下から各キャラクターに踏み込んだ内容になるためネタバレ全開です。

朱砂(CV:松岡禎丞)
「業/愛」

「夜毎、この手で女を斬り殺す」
「眠りに就く度に、この刀で女を殺す。俺も彼女も血まみれになり、最後は闇だけが残る」

 ガチガチの攻略制限を乗り越え、絶対に最後に攻略することになる男、即ちメインヒーローです。パッケージイラストは言うまでもなく、死に水に潜り迎えにやって来るシーンだと思うのですが、意味がわかるといいパッケージイラスト、『Code:Realize 〜創世の姫君〜』などをはじめとし物凄い好きな演出なので今後もあらゆるゲームでやってほしいですね。もちろん、すべての攻略キャラクターたちが揃っているパッケージイラストも好きなのですが……。

 そんなわけで、最も早くオランピアに求婚した男を一番最後に攻略したわけですが、ヒムカルートで種を撒いたものが見事に発芽しとんでもないことになったルートでした。これまでのルートで月黄泉の血から【黄】を、 ヒルコの血から【青】と語られていたその最後、【赤】の話を中心にこれまであくまでも観測者、傍観者のような立ち位置を崩さなかった月黄泉が大暴走します。

 ルート序盤から、アンチ朱砂の立ち位置を表明した理由もすべて【赤】の成り立ちに原因があることがわかります。天女島の女たちが死ぬ原因となった赤禍の災を招いた【黄】は憎まないんだな……と若干思ったりもしましたが、朱砂の容姿がアマテラスの死を招いたスサノオの容姿に瓜二つだ、という理由付けで確かにと納得。つまり、朱砂ルートはアマテラスに瓜二つのオランピアとスサノオに瓜二つの朱砂は歴史を繰り返してしまうのか、という話型になるわけですが、最後の最後で歴史は繰り返すとならなかったのが、イザナミが得ることの出来なかった姿形によらない愛だったのが、人間から神々への答えだったのかもしれないですね。

 それにしても朱砂、お前、共通ルート惚れ(実質デフォ惚れ……?)だったんだな、と手記を読んで思わずツッコみました。

玄葉(CV:杉田智和)
「未開/未来」

「こんな俺のために……あんたが汚れる必要なんてないんだよ……っ」

 事前にオランピアが最下層と言われている黒に堕ちてしまうルートやエンドがあるんだろうな……と思っていたのですが、蓋を開けたら攻略キャラクターたち全員の色を得たので、想像とは違いましたが、黒に堕ち(てはいない)た記念すべきルートです。

 声優でキャラクターの善し悪しを判定することはあまりないんですが、『NORN9 ノルン+ノネット』の室星ロン然り、『三国恋戦記〜オトメの兵法!〜』の孔明然り、『ときめきメモリアル Girl's Side 3rd Story』の桜井琉夏然り、乙女ゲームにおけるCV:杉田智和はこの感情がすごい! だと思っている節があったので密かに期待していたキャラクターだったのですが彼の感情、やはり凄かったです。

 例に挙げたキャラクターたちはヒロインへの感情がダイレクトに強い種類のこの感情がすごい! だったのですが、彼の場合はオランピアの髪色が自身の色を得ているのを悪い方に解釈して拗れていくところが物凄くよかった流れでした。なんとかオランピアを遠ざけようとあることないこと述べる過程で、そうとは知らないオランピアが「裸になってその診察台に寝てあげるのよ」「髪を数本と言わず、血を抜くなり解剖するなり何なりすればいい」「その後はああして美しい標本にしてくれる?」などの啖呵をきるシーンがとりわけ気に入っています。啖呵、相手の傷を抉れば抉るほど好きなので……。啖呵をきっている張本人も、まさかそんな深いところにまで傷が達していると気がついていないとこも、物凄く好きなポイントなので……。

 プレイ後に感想をまとめている際に気がついてしまったのですが、玄葉がもともと【黄】の生まれでかつ前長の葉金の息子=オランピアにとっては母親の仇であることに思い至った瞬間、さらに身悶えたので想像以上にしっかりと楽しんでしまったルートになりました。道摩が挨拶に出向いた玄葉に対し「愛する娘を手に入れるために手を汚せないような、意気地の無い男か?」と口にしたのもそっくりそのまま、恐らくは白亜を死に追いやった葉金に死に水を飲ませた自身の所業と比較しての言葉だったのだなと思い……。

璃空(CV:島﨑信長)
「戒/絆」

「俺は……どんどん……お前に相応しくない男になってゆく」

 ザ・血縁ルートその1。

 後述する縁がその2に当たるのですが、このふたりはセットで攻略するのがいいなと感じる程に違いのルートを補完しあうような立ち位置にあったと思います。璃空BADの珠藍大姉が口にした言葉の意味のさらに深いところにある業が縁ルートをプレイしなければならないところなど、璃空ルートのみに留まらない根の張り方がよかったです。

 璃空個人に関しても、「忌み嫌うものに自分がなる/なっている」話が好きなので、繰り返しオランピアが黄泉に下ることを止める言葉を口にするシーンも意味がわかれば情緒をくちゃくちゃにされる話(洒落怖的なニュアンスです)だなと思い、一塩でした。

 BADに関しても、霊殺を現在行っている人物がいることを示唆しており攻略制限ありのふたりへの導入もバッチリでしたね。

天草四郎時貞(CV:上村祐翔)
「瑕瑾/発芽」


「この美しい島は……パライソではないのですか? 私に安寧を授けてくれる楽園ではないのですか?」
「私はここで……再び惨たらしく死ぬのですか?」


 天草四郎時貞という名が与えられている以上神の話を期待せずにはいられないのですが、過去には名前でミスリードを誘う作品もあったので(『Fate/Apocrypha』におけるシロウ・コトミネなど)本当は本人ではないのかもしれないな……ととりあえず予防線を張ってプレイしていたのですが、本当に本人でちゃんと神の話をしてくれたので万歳三唱したルートになりました。

 天草四郎時貞その人の史実を解くことは今更不要なことだとは思うのですが、原城で処刑される「前」ではなく「後」の彼として天供島にやってきて、はじめからその記憶を持っているところがなんとも絶妙でした。本人だった場合のシナリオ予想はいくつかしていたのですが(島を変えたいと願い史実の通り「旗持ち」になり島民を先導し処刑される、記憶になくとも根底は変わらない歴史は繰り返すエンドなど)、【白】の女として闇を払う力を確かに持つオランピアと、神の声など一度たりとも聞いたことのないマレビトとして不出来な己の対比で苦しむことになるルートとは予想もしていなかったので、海に還ろうと慟哭するシーンでは胸を掴まれました。

 あのシーンのオランピアが 「それとも時貞、貴方は私の側からいなくなりたいの? 本当に波に消えたいの?」「なら私を愛して」「それが貴方の役目では不安?」「この島にいて」「貴方はもう波に呑まれてはならない」と語りかけるシーンでは、ああきっと時貞という人はこんな風に優しい言葉で導いてくれる神の声をかつても望んだのだろうな……と思わされました。
 時貞ルートでは後述のキャラクターに関しても感情が大きく揺れたので、そちらで別途感想を述べたいと思います。

縁(CV:内田雄馬)
「断罪/救済」

「だから、この世界で誰よりも眩しい君を、地の底深く引き摺り落としたいだけかも知れない」
「そんな醜い感情が、果たして愛だろうか?」

 ザ・血縁ルートその2。

 血の呪いや家族の話が好きな人間なので、はじめに攻略した縁ルートで「勝ち」を確信しました。過去【紫】の男が【白】の女に殺された話など、出てきた瞬間にそっちで責めて来たか~と思い個人的に嬉しかったです。月黄泉の手を介して貝殻をキーアイテムにして繋がっており、それを今でも大切にしていることが語られた時は、それってメインヒーローがやることなのでは……!? と思ったりもしたのですが、メインヒーローである朱砂はそれよりも強い(と言うと縁sageのようで嫌な言い方ですが)ものを引っ提げていたので、確かにキーアイテムは他のキャラに分散させておいた方がバランスいいよなとメタ的な意味でも納得しました。

 また、珠藍大姉と叉梗の関係性が名言されたのも縁ルートだったのですが、わたしは真っ先に縁ルートに特攻したため璃空BADの珠藍の意味深な発言からの縁ルートではなかったので、逆の意味で驚かされました。前長との望まない婚姻の話は縁ルートでも語られていましたが、まさかそこにさらなる味付けがされるとは思わず……。確かに、【青】という色層に属する人間は親しい血同士で交配しているため出生率が低いなどのエピソードもあるので、近親同士でそういった感情が芽生えることも不思議ではないなと。

 BADに関しては【紫】の男と【白】の女の因習を引き継ぐ歴史は繰り返すエンドがしっかり配備されていたのもいい采配でした。縁生存BAD(あれってほんとに生存しているんですかね……?)に関しては突然『蝶の毒 華の鎖』のおかしなお姫様エンドになっていて驚きましたが、それこそ島民たちが描く【白】の女らしい姿なのかな……とも思い、一興でした。
(クリア後叉梗の手記が解放され、璃空と半身になったと書いてあって物凄く驚きましたが……)

ヒムカ(CV:堀江瞬)
「死/生」

「お前なんて呪われた血のくせに、一番彼女に近付いてはならない男のくせに」

 ヒムカと朱砂に攻略制限がかかっているのは前述の通りなのですが、ヒムカルートはその中でもアマテラス、イザナミ、ヒルコの前説のような立ち位置でしょうか? もちろん、カメリアにイザナミが憑依(?)しているので、前説のような気安い文脈ではなく選択肢によっては大事件ですが……。ヒムカルートでははじめて「二つ目の世界」について語られますが、共通ルートで張っておいた伏線をかなりの時間を経て回収しにかかります。

 共通ルートにあるワンシーンですが、日本の東京から流れ着いたメッセージボトルに記載のあった日付は『オランピアソワレ』の発売日でもある「2020年4月16日」でしたが、このメッセージボトルが「一つ目の世界」=アマテラスの死と共に滅びた世界=恐らくはプレイヤーたるわたしたちが存在する世界である……という物凄く規模の大きな事実がここに来てわかります。これは辿り着いていたかもしれないもう一つの神話の物語と謳われていた理由が、ここに来てハッキリするという大掛かりな舞台仕掛けですね。

 また、卑流呼がどうして色層制度を用いたのか語られるのもこのルートでしたね。「アマテラスは虹をよく眺めていた」「だから綺麗な虹のような世界を創ったら喜ぶかなって……思ったんだ」と語られていましたが、その本質を知らない島民たちにより階級として歪められてしまったの、大衆……の一言です。

柑南(CV:柴崎哲志)

「白鼠は……やはり僕の元には来てくれないらしい」

 曰く、「僕は彼女の花婿にはなれない」「だから憎んでもいいでしょう?」「愛すように憎んでもいいでしょう?」「僕はこの世界で一番価値のない男なのですから」

 彼の手記で語られることは、時貞ルートでは明確に語られることはないことへの肯定です。兄である刈稲をどうして「使う」ことになったのかへの肯定に当たるわけですが、どうして兄を使うことになったのかはそのままそっくり、柑南が口にしている「貴女の運命はどちらでしょうね。ここで【橙】の子を妊むか、その前に……―――狂うか」だと思っています。それこそ、ただの棒代わりでいいのであればわざわざ兄を黄泉から引き上げずに薙草を使えばよかったと思うのですが、柑南が欲しているのはあくまでも【橙】の子が生まれる可能性であり、それを満たすのは僕とは似ても似つかない兄さんなんですよね。

 時貞BADでとんでもない核弾頭を打ち込んできたな……と恐怖することになったのですが、柑南の口から語らせると僕とは似ても似つかない兄さんで、刈稲の口から語らせると「俺が欲しいものは柑南が持っててさ、多分……柑南が欲しいものは俺が持って産まれちゃった気がするんだよね」になってしまう儘ならなさがよかったです。

 攻略制限のかかっているヒムカルートで、オランピアが道摩の腕を使い物にならなくした場面に居合わせたことが彼の口から語られますが、それを知ってなお、オランピアという人間を求めた彼の心情を考えると、思わずと唸ります。柑南の中にある、誰にも気付かれることのなかった血の呪いのような、正しく【橙】の血を継いだ天女島の女への執着が誰にも気付かれぬままであることを切に願います。

総評(ざっくばらんに)

 想像以上に神話。想像以上にサブキャラクターたちが強い。想像以上に、古き良きオトメイト。

 マレビト卑流呼=卑弥呼のミスリードを誘う目的があったのかもしれないな……と思いつつ、想像以上に神話神話しており(というか隠す気は元々なかったのかもしれませんが)大いに楽しめました。アマテラスとスサノオの歴史を繰り返してしまうのか、という物語の作り方も乙女ゲームをしている人間はそういう話型が大好きだからな……と考えつつ素直に楽しめました。ただ一点、スサノオの言い訳手記は必要だったのかと思うところもなくはないのですが……それをやるならスサノオにもスチルに出演してほしかったな、と思ったり。これは完全に余談です。

 サブキャラクターに関しては個別の項目も設けてしまっている通り、柑南が物凄くよかったです。【黄】に産まれた双子の兄がなにからなにまで(【橙】の才覚であるはずの能力、愛する者と結ばれるための生殖能力、あるいは【黄】という稀有な色)持っている、しかし自分はなにも持っていないという対比が……。わたし個人、対比で物語を読み解きがちなんですが、性懲りもなく対比で感情を乱しました。双子という位置付けのキャラクター、制作サイドも意図的に対比してください! とアピールしているのだと勝手に信じているので。柑南の思いが少しでもオランピアに伝われ、などとは欠片も思わないので、今後も柑南の思いはオランピアにとっては「分からない」ものであればいいなと思います。「分かられ」てしまったら、それこそあんまりにも惨めじゃないですか? 知られていないからこそ、なんの衒いもなくオランピアに報酬として口付けを、などと軽口を叩けると思うので……知られてしまったら、それこそ惨めでそんなこと言えないですよね……。

 最後の最後まで柑南の話で締めてしまうのはあまりにもなので閑話休題。冒頭でも書いた通り『緋色の欠片』世代には刺さる物語構成だったな、というのが『オランピアソワレ』の総評でした。朱砂ルートのオランピア、突然玉依姫になってましたからね。

 それでは。


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