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ザックリとした話(その2)

 ザックッリとした話の続きを書きます。
 第20回(令和5年度)に能力担保研修を受けて受験する方が、効率的に勉強のスケジュールを立てるために、私が第16回(令和2年度)のスケジュルール等を記しておきます(過去3年の塾生に聞いた情報も大差ありません。)。その後、私の経験とその時の反省に基づいて、受講する際の注意点を書きます。
<スケジュール等>
①    月刊社労士で、特定社労士試験の案内の記事を見つけて資料請求し、特別研修の申込を
しました。再受験の方は、研修は不要ですが、出願手続きの情報も月間社労士に載るので、気を付けておいてください。
② 特別研修(受講料85,000円)、申込受付期間 6月15日(月)~6月29日(月)当日消印有効でした。内容は、中央発信講義(e-learning) 計30.5時間8科目、9月4日(金)~10月2日(金)で、8月下旬に教材等が発送されてきました。
② グループ研修(集合研修)計18時間3日、10月10日(土)10:00-17:00、11日(日)10:00-17:00、 17日(土)10:00-17:00 天満研修センター(大阪市)約10名で12グループ(計約120名)、チューターは特定社労士でした。
③ ゼミナール(集合研修)計15時間2.5日、11月20日(金)10:00-17:00(申請書・小問3.4.5)、21日(土)10:00-17:00(答弁書・小問1.2)、28日(土)10:00-13:00(倫理) 天満研修センター 1クラス約40名3クラス、教官は弁護士でした。
④ 紛争解決手続代理業務試験(受験料15,000円)、11月28日(土)14:30-16:30(集合14:00) 天満研修センター、再受験組も参加して講堂で実施されました。大阪会場の合格者数が100名なので、合格率61.9%から逆算すると、全部で160名前後の受験者数だったのかと推測されます。とすると再受験者が40名前後かなとは思われますが、正確には分りません。
<受講する際の注意点>
 まず、A4で約530ページの「特別研修 中央発信講義 教材」(以下「本テキスト」という。)が8科目30.5時間のビデオの教材になるのですが、各科目のビデオを見る前に、必ず、先に本テキストを読んでおいてください。(予習せずに)ビデオを流しながら本テキストを読んでも、ほとんど理解できないと思います。何故なら、憲法や民法などの馴染みのない科目はもちろん、労働基準法や労働契約法に関する科目も、弁護士講師による条文や判例の解釈論などの説明が多くて、じっくり考えないと理解できないからです。本テキストだけでは、(内容に偏りがあって)情報・知識の質・量が不足すると思われますが、事前に「実践法学入門」と「プレップ労働法」を読んでおくと、ビデオ授業の理解が容易になると思います。
 グループ研修では、A4で約160ページの「特別研修 グループ研修・ゼミナール教材」(以下「本教材」という。)を使います。第3日(最終日)には、本教材の設例1(あっせんの申請書)と設例2(あっせんの答弁書)をグループ全員で協力して作成し、チューターのサインをいただいて、ペーパーで事務局に提出します。私(たち)は、この話を第1日の朝、チューターから聞かされて、誰もそんなつもりで予習(答案のたたき台を作ってくるどころか、読んでもいない)をしていなかったので、グループ研修中で大枠の話をして、後は、分担して書いて、毎夜、メールやLINEやZoomで意見交換しながら、なんとか一週間で仕上げて提出しました。まじめに論点を整理して、要件事実を一つ一つ拾い上げて主張や反論をしていくと、1つの答案が10ページぐらいになるので、ワープロを打つだけでも大変です。是非、事前の準備を怠らないでください。併せて、本教材のグループ研修検討用課題が第1から第5まであって、これについてもグループ研修中に議論をすることになるので、予習をしてください。私のときは、このような親切な予告がまったくなかったので、慌てふためいた記憶があります。しかし、研修の二日前に嫌な予感がして、急遽、検討用課題5問について、一応回答案を書いていきました。グループのメンバーは、答案作成に追われていたので、初日の夜、私の手書きの回答案をワープロ打ちして、メンバーに回して、検討(議論)はことなきを得ました。ちなみに、昨年と一昨年の塾生には、集合研修の前に、申請書と答弁書の書き方と集合研修の準備の仕方をアドバイスしましたので、原稿を入れたPCを研修に持参した塾生がいました。
私は、完全にこの試験を甘く見ていました。合格率50%-60%の試験だから、ビデオを観てグループ(集合)研修に出席しさえすれば、能力担保は楽勝で、試験に合格するところまで、チューターや教官が引っ張って行ってくれるだろうと高を括っていました。本年、研修を受けられる方は、くれぐれも事前の準備を怠らないでください。
 申請書と答弁書の答案の書き方についても、答案の求められる姿に関する情報提供が不十分で(自分で調べて考えなさいということみたいです)、最初の時点では、答案の完成形がまったく想像できず、グループのメンバーで相談して、とにかく論点と要件と要件事実を全部書けるだけ書いて、後で削って体裁を整えるという作戦で臨みました。私は、申請書や答弁書を読む仕事をしてきましたし、現在もそのような仕事をしているので、一週間でもなんとかゴール出来るだろうと冷静に受け止めていましたが、申請書や答弁書を見たことのない人は、面食らったと思います。
 本教材の後半には、倫理の設例と関連する法令や倫理規範の条文が載っていますが、こちらは、ゼミナールの最終日の午前中にやりますので、集合研修の時点では予習する必要はありませんでした(私は、これも予習していきましたが。)。ただし、この倫理の部分は本番で30点の配転と10点の足切りがあるので、試験対策としては、早く勉強を始める必要があります(この勉強の仕方については後日述べます。)。
 私は、10月10日のグループ研修の初日まで、過去問も見たことがなく(完全に甘く見ていましたから)、当日、グループのメンバーに、8月5日に発行された河野順一さんの「特定社会保険労務士試験過去問集 第16回(令和2年度)対応版」日本評論社を紹介してもらって、やっと過去問に触れることが出来ました。最も易しいはずの、第1回を解いてみて、「今のままでは答案が書けない」と自覚し、その過去問集を解きながら、徐々に勉強用の教材を整理していきました。直接の試験対策としてお金を出して買った教材は、この本1冊でした。恥ずかしながら、試験の合格発表があった社会保険労務士連合会のWebsiteに、全部の過去問とそれぞれの出題の趣旨が載っているのを、合格発表の後に、初めて知りました。皆さんは、できるだけ早く、社会保険労務士連合会のWebsiteをチェックして、併せて、回答の解説が詳細な河野順一さんの本を買うのを忘れないでください。ただし、その本に書かれていることがすべて正しいとは限りませんので、そこはご自分の学力を上げて、ちょっと斜めから解説を読めるようになってください。
本テキスト(A4で約530ページの「特別研修 中央発信講義 教材」)等に、「参考図書のご案内」というA4両面の書類が同封されてきました。本来なら、この書類に書かれた図書をビデオを見るまえにチェック(使えるかどうか比較検討)すべきでしたが、私は、まったく無視していました。ただし、ポケット六法だけは、グループ研修の直前に購入しました。      
それは毎年9月に翌年版が出版されるので、そのタイミングで同六法を買い換えたにすぎません(グループ研修の仲間がどうだったかは分りません。)。
 その書面に掲載されていた参考図書は、次のとおりです(本年は、変わっているかもしれません。)。
①    労働法<第12版> 菅野和夫 著 2019年11月刊 弘文堂
②    労働紛争処理法 山川隆一 著 2012年刊 弘文堂
③ 最新重要判例200[労働法]<第6版> 大内伸哉 著 2020年3月刊 弘文堂
④ 労働法<第4版> 荒木尚志 著 2020年6月刊 有斐閣
⑤ 労働関係訴訟の実務<第2版> 白石 哲 著 2018年5月刊 商事法務
⑤ ポケット六法(令和2年版 )佐伯仁志・大村敦志編集代表 2019年9月刊 有斐閣
(注)上記①は13版が刊行予定です。②は第2版が刊行されています(私も買いました。)。

 何か足りない?そう憲法と民法の本がありません。ビデオには、憲法(基本的人権)3時間と民法(契約・不法行為)6時間、併せて9時間、9時間/30.5時間=約30%のウエイトがあるにもかかわらず。ならば、憲法と民法は、ビデオだけで十分理解できる楽勝な科目なのでしょうか?どうも、社会保険労務士は憲法と民法の基礎知識があるという妄想というか、虚構があるのかなと思います。
 例えば、第11回特定社労士試験の第1問(労働紛争事例)では、上司によるパワハラがテーマですが、この問題を解くには、不法行為、使用者責任といった民法の基本概念の理解が必要ですし、第14回特定社労士試験の第1問(労働紛争事例)では、上司の圧迫と本人の解雇不可避との誤解によって書いてしまった辞職願の有効性がテーマですが、この問題を解くには、これも瑕疵ある意思表示(錯誤、詐欺、強迫等)という民法の基本概念の理解が必要です(第19回は錯誤取消しでした。)。
 実際、前述の河野順一さんの過去問集の第11回過去問の解説には、「労働法だけではトラブルは解決できない、労働法の知識だけではなく、憲法、民法、刑法の基本三法、さらには民訴法・刑訴法の知識まで必要である」と書かれています。私も同感です。
 余談ですが、第11回から徐々に問題文が長くなって試験の難易度が上がってきたな、と感じていました。第16回を受験したとき、第15回より問題文が長くて難易度が上がったかな?と思いましたが、第16回はこれらの民法の基本概念そのものを問うものではなかったので、論点の難しさという意味では、第15回より下がった、その結果、合格率が上がったのではないか?と推測しています。
 これからも、民法の基本概念そのものを問う問題が出題されると、きちんと民法を勉強してない受験生にとっては厳しいことになると思うので(2021年4月1日に改正民放が施行されました。)、しっかり民法の勉強をしておくことをお薦めします。昨年のブログの記事で、そろそろ民法が出題されそうだから第11回と第14回を復習しておくようにと書いたら、そのとおり民法の錯誤が出題されて、驚きました。
 六法を開いて民法の目次をみてください。特定社労士試験に関係のありそうな箇所は、次のとおりです。
第1編 総則
第3編 債権 第1章 総則(第1節 第2節) 第2章 契約 第4章 不当利得 第5章 不法行為
 これらを効率良く勉強するための教材(基本書)として何が良いか?ということになります。余りコンパクトなものは理解するのに必要な説明が不足しますし、余り分厚い(何冊も分冊がある)と読むのが大変になるので、読みやすくてちょうど良い長さ(分厚さ)の教材はないのか?という声が聞こえてきそうですね。答えは、「そんなもん、あれへんやろう!」では話にならないので、お答えします。
 それは、以前の記事で紹介した「実践法学入門」と「プレップ労働法」です。これら以外にも、是非、買って読んで置いて欲しい本は、4月20日の記事で紹介する予定です。情報量が多すぎて、しかもあっちこっちに分散していると受験勉強の効率がおちるので、最小限の本を、目的を決めて読み、必要な箇所を理解して、さらには暗記するという手法をお勧めします。本を買い集めて、本棚に並べるのが趣味のコレクターの方は、止めはしませんが・・・。
 だいたい、民法+労働法の勉強も終わっていないのに、労働判例百選とか民事訴訟法の本を読んで、理解できる訳がない(勉強は基礎から応用へ)と考えています。実践法学入門をマスターすれば、この考え方に共感されると思います。

追伸―1
 ジョン・ダワー著「増補版 敗北を抱きしめて(上)」岩波書店2004年発行を読んでいて、社会保険労務士なら知っていて損はない(というより、知っておいた方が良い)箇所を見つけましたので、少し紹介します。

 現在は「ハローワーク」と呼ばれている「職業安定所」という旧名称は誰がつけたかご存じでしょうか?また、戦前・戦時中は何と呼ばれていたかご存じでしょうか?(私も知りませんでしたから)同書第7章P312中から一部引用します。
『(略)第一ホテルのバーの女性従業員でさえ、「職業安定所」という名称を提案して、日本の労働慣行史上にその足跡を残すことになったのである。彼女は、戦時中に「労働奨励事務所」として知られていた労働者採用のための役所の呼び名を、終戦後に「職業安定所」へと変更してはどうかと提案して、GHQに採用され、それ以降、この名称が使われることになったのである。(略)』
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 戦後制定された労働法の根幹となる「労働基準法」は、誰が草稿を書いて、制定に尽力したかご存じですか?(私も知りませんでしたから)同書第7章P312-313中から一部引用します。
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『(略)その制定過程は、かつて思想警察のメンバーだった寺元広作という人物による。(略)1946年の夏に寺本は、事前に通告もせず、しかも自らの正体も明らかにしないで(GHQ労働課長のセオドア・)コーエンの事務所を訪れた。この時、寺本は、労働者を保護するための法案の膨大な草稿を持ち込んだ。後になって分ったことだが、当時、寺本は厚生労働省基準化の課長で、部下とともに数カ月間このプロジェクトに取り組んできたのである。(略)
 実は、寺本は終戦後の混乱した状況を利用して、GHQが労働条件について強力な規制を行うよう要求をしているということを、産業界をはじめ官僚、政治家などさまざまな分野の人々に説得したのである。このような隠れ蓑を使って、寺本と彼の数名の部下たちは、ほとんど独力で、戦前に軍部によって失効させられていた労働法規の条項だけでなく、国際労働機関(ILO)の協定の詳しい分析にも基づいて、労働者を保護するための包括的な基準を起草したのである。(略)新たに制定された労働基準法の第1条は、個人の価値に対する感覚をもつことの大切さを雄弁に教えている。これは、今日ではあらゆる民主主義革命の基礎をなすものとして認められている者である。(略)』
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(注)下線部分は私が加えました。

 毎日新聞の書評を読んで、太平洋戦争の終戦後のGHQによる占領下の日本の状況をよく表わした本だということで、興味が湧いて読みました。戦中、終戦後、高度成長期、バブル(崩壊)、失われた30年、聖域なき構造改革(新自由主義)などの歴史があって、今日の労働環境が形作られているので、将来のあるべき姿を想像した上で、今の問題をどう解決するか?を考えるきっかけになると思います。時間があれば読んでみてください(受験勉強に必須ではありません。)。

追伸―2
 先で触れる予定の「民事訴訟と行政や社労士会のADRの違い」について、裁判所が行う労働審判の視点から書かれた書物を紹介します。日本弁護士連合会ADRセンター編「労働紛争解決とADR」弘文堂平成24年11月30日初版1刷発行のP13-16「Ⅴ 労働審判手続運用の特色」の一部を次に引用します。
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1 事案の解決に適切な調停案・労働審判を提示
 次に、労働審判手続運用の特色についてお話します。
 非訟事件なので、基本的には当事者の主張には拘束されず、処分権主義も弁論主義も適用はないという説明をしています。たとえば、具体的に私が担当した事件で、労働者側から、「使用者との間で労働契約が締結された。それなのに使用者は、全然私を労働者として受け入れないで、雇用を拒否するんだ。だから、民法536条の危険負担に基づいて賃金支払い請求をする。地位を確認して賃金支払請求する」という申立てがなされたことがあります。話を聞いてみると、どうも労働契約の締結自体にかなり無理があるようでした。けれども、労働審判委員会で合議をして、たとえば契約締結上の過失という理論によって使用者に対する損害賠償はある程度認められるかもしれないなと、そういう心証をもって、会社側の弁護士の方にご説明したわけです。すると、その弁護士は、顔を真っ赤にして、「裁判官、何を言っているんだ。この申立書のどこにそんなことが書いてある?契約締結上の過失がどこに書いてあるんだ?」というようなことを言われました。そのような対応をされてもこちらは全然動じないで、「何を言っているんですか、先生。これは労働審判であって非訟事件なんですから、処分権主義の適用はないんですよ。弁論主義の適用もないんですから、早く損害賠償を支払いなさい」と応じました。こういう言い方は品がなくて誠に恐縮ですが、そういうふうに話し合いによる解決をお勧めしたことがあります。
 また、解雇が無効であると主張する事件での申立ての趣旨は、労働者たる地位を確認して、未払賃金を支払いなさいとなるわけですが、そのような事件でも、まず99%の事件はいわゆる地位解消型の調停になります。つまり、退職をする代わりに解決金を払うというパターンの解決です。心証の度合いがかなり使用者側に不利で、労働者が勝ちそうだという事件は、解決金が高額になります。一方、とても労働者が勝てそうにないという事件は、かなり低額になります。調停が成立しないで労働審判を出す場合でも、主文は地位解消型となる労働審判を出しています。
 厳密にいうと、会社への復帰を求める申立てであるにもかかわらず、地位解消型の調停をしていいのかということは、議論としてあります。しかし実際に聞いてみると、当事者の90%以上の方は、「今さら復帰は難しいですね。人生を再出発するために地位解消型で行きます」というお考えのようです。おそらく処分権主義といった観点では問題がなく、そういう意味では極めて柔軟な解決を求めて労働審判を出している、事案の解決の適切な解決という観点からみて、極めて柔軟に手続を行っているといえると思います。
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 この部分は、東京地裁の裁判官が書かれています。民訴法の弁論主義と処分権主義の排除という点と職場復帰型の解決案が妥当な場合でも労働者が地位解消型を望む場合が多く、実際にそのように処理されることが多いとの点について書かれています。特定社会保険労務士試験第1問小問(1)と小問(5)についての考え方の基準になる(民訴法に詳しい受験生にとっては、モヤモヤする部分でもあります。)部分だと考えて、記しておきます。先で、小問(1)と(5)の解き方の解説のときに、思い出して見直してください。


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