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法学入門(概論)などの基本書について

 特定社会保険労務士試験は、法律を使って事例問題の解答を紙に手書きする試験です。社会保険労務士試験では出題範囲になっていない、憲法、民法、刑法、民訴法などの法律の運用能力が問われます。そこで、(一部の法解釈学の既習者を除いて)法律の勉強を基礎からやらないと、最終的に、試験本番で答案を手書きするところまで行き着きません。換言すれば、この受験勉強では基本書による法律の勉強と書く訓練が欠かせません。ただし、この勉強が十分には出来ていないだろうと推測される受験生が、時々、合格したりするのを見ていると、一体、どのように採点がなされているのだろう?と疑問に思うことがあります。
 本年度の私のブログでは、次に紹介する基本書を受験生が手元に置いて、いつでも読める状態にあるという前提で記事を書いていきますので、私のブログを使って受験勉強をしたいと考えている方は、これらの基本書を入手して、読みながら勉強を進めてください。私は、各科目について何冊かの候補となる基本書を読み比べて、私流の説明に適すると考えた本を推薦していますが、もちろん、他にも高名な学者や弁護士が書かれた優れた書籍は多数存在しますので、それらを探して別の手順や対策で受験勉強を進められることを否定するものではありません。一方、アマチュアの書いた上っ面を撫でただけの法律の解説書は、危険ですから使わないことをお薦めします。

1.富永晃一他著『ケースで学ぶ 実践への法学入門 考え方を身につける』(中央経済社 2022年4月25日 第2版第1刷発行)(以下「実践法学入門」と略します。)
(注)既に頭出しで書きましたが、再度書きます。大学の法学部の新入生用に書かれた教科書だと思いますが、今まで法律の勉強をしたことのない特定社会保険労務士試験の受験生にとって、勉強を始めるにあったって必要な情報がすべて書かれた本だと思います。六法や法律学小辞典がなくても読めるように書かれていますし、時々現れる事例が労働法をテーマにしているので、社会保険労務士にとっても馴染みのある内容になっています。まあ、法律の勉強の基礎部分の知識を習得することは、相当骨が折れると実感していただける1冊だと思います。

2.潮見佳男著『民法(全)第2版』(有斐閣 2020年11月20日 第2版第7刷発行)(以下「潮見民法」と略します。)
(注)2022年に改訂されていますが、この試験とは関係のない箇所なので、私は買い替えていません。新しい本とパージが合わなかったらごめんなさい。

3.森戸秀幸著「プレップ労働法[第7版]」(弘文堂2023(令和5)年1月30日第7版第1刷発行)
(注)これも、先に少し書きました。タイトルと本の小ささに惹かれて、「最初から最後まで何度も読み返す労働法の教科書にならないかな?」と期待して、第6版を某図書館で借りてきて読みました。期待以上の本でした。実際に書店で手にとって見て欲しいのですが、コンパクトな大きさでありながら、300ページ強に、特定社会保険労務士試験に必要十分な労働法の情報が記載されています。しかも文章が砕けていて読み易く、判例紹介も枝葉の裁判例を思い切り切り捨てていて大筋を理解するのに適しています。菅野教授の本や水町教授の本のように、参考書として、時々、部分的に読むのではなく、最初から最後まで何度も読み返す労働法の教科書として最適と判断しました。第20回(令和6年)の塾の教科書はこれにしようと(現時点で)考えています。

4.菅野和夫著『法律学講座双書 労働法 第十二版』(弘文堂 2020年11月15日 第12版4刷発行)(以下「菅野労働法」と略します。)
(注)2022年に改訂されていますが、この試験とは関係のない箇所なので、私は買い替えていません。新しい本とパージが合わなかったらごめんなさい。近々、また改定されるとの情報を得ています。買うなら、改訂版が出てからですね。

5.前田欣也著『個別労働紛争あっせん代理 実務マニュアル 3訂版』日本法令 令和3年4月20日 3訂初版(以下「前田マニュアル」と略します。
(注)第1問(紛争事例問題)の解き方のときに、よく引用します。

6.「ポケット六法」有斐閣、「判例六法」有斐閣、「模範六法」三省堂などの令和6年版の法令集
(注)新しい条文に出会ったら、必ず直接条文に当たるようにしてください。ご自分の紙の六法の該当箇所に赤鉛筆で(ラインマーカーでも)線を引いておけば、何法の第何条を勉強したかの印になりますし、繰り返し現れる条文は探しやすくなります。少なくともポケット六法には社会保険労務士法が載っていないので、この試験に関係する同法等の条文は以前書きました。ググれば、e-Govの法令検索にすべての法律の条文が載っているので、本を買わずにすますという方法もあります。その場合、本の六法と違って、改正前後の民法の比較が載っていないので、別途調べておく必要があります。

7.高橋和之他編集代表『法律学小辞典 第5版』(有斐閣 2016年3月20日 第5版第1刷発行)(以下「法律学小辞典5」と略します。)
(注)上述の六法と同様に、新しい法律用語や法概念に出会ったら、必ず直接当たってその定義や意味を調べるようにしてください。書き写して覚えなくても、疑問が湧いたら都度調べるようにすれば、徐々に理解して記憶が定着するものと思われます。ググって出てくる解説は、不適切な内容であることがあるので、ご注意ください。

8.河野順一編著『特定社会保険労務士試験過去問集 第〇〇回(令和☓年度試験対応版)』日本評論社(毎年夏頃発行されます。以下「河野過去問集」と略します。)
(注)ブログの記事で参照することはほとんどありませんが、過去問全ての模範解答と解説が書かれているので、過去問を自習で勉強する際に便利です(2/3は添付のCDに収録されています。)。この試験は独特の世界観で作られているので、記述式対策として、過去問の研究と書く訓練は欠かせません。

 特定社会保険労務士の機能と同試験の射程範囲と攻略法を解説する記事を「最近の過去問の構造の分析と攻略方法」6月に公開します。

追伸

 特定社会保険労務士試験と日常の仕事の両方に役立つ本を2冊紹介しておきます。

弁護士安西愈著「管理監督者のための採用から退職までの法律実務[改訂第17版]」一般社団法人埼玉県経営者協会令和4年4月28日発行、小さい字がぎっしり詰まった本です。内容的には、かなりの量と質があって、試験対策と仕事の両方に役立つと思います。

 島村暁代著「プレップ社会保障法」弘文堂2021(令和3)年8月30日初版1刷発行、立教大学法学部准教授が書かれています。巻頭の「はしがき」から一部引用します。
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 また、編集者の高岡さんをご紹介下さった森戸英幸先生(慶応義塾大学教授)。わかりやすくておもしろい、しかも重要な点はすべて網羅される『プレップ労働法』はこの本の大きな目標です。他愛もない会話から法律に関する重要なご指導まで、いつもありがとうございます。
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 30数年前に社会保険労務士試験に合格して、サラリーマン時代は、全然違う仕事をしていたので、ほとんど労働社会保険に関する知識は失くしてしまっているのと、その後の法の制定・改正を受けて浦島太郎状態になっているので、オーバーホールのために最近この本を読んだのですが、まさか、「プレップ労働法」とつながっていたとは、後で気づいた次第です。

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