見出し画像

バーチャル空間でイベントを開催するには

5月28日:clusterの上限人数に関して追記

こんにちは,ふぁるこです.昨今コロナウィルスの影響により様々なカンファレンスやイベントが中止になりバーチャル学会や電脳空間でのイベント開催がにわかに話題となっています.

そこで具体的に電脳空間でのイベントを開催するためにはどうすればよいかバーチャル学会2019を運営した経験と各種遠隔会議や発表に参加した知見に基づいて紹介します.本記事が少しでもイベント運営者の方々や参加者の皆様のお役に立てれば幸いです.

電脳空間とは

前提として本記事における電脳空間の定義とその概説を行います.従来の遠隔コミュニケーションシステムとしてSkypeやzoomといったビデオチャットツールの存在は共通認識としてあると思われます.電脳空間でのコミュニケーションとは計算機上で作られた3次元空間(≒3DCG領域,以後電脳空間と呼びます)にユーザーの分身となるアバター(avatar)を配置し,物理現実世界におけるコミュニケーションと同等のコミュニケーションを行います.具体的に言えば話している人の方向を左右の耳で聞こえる音の減衰の違いから判断できたり,電脳空間にて移動,方向転換したことがその空間にいる人達で共有されたりします.

このような電脳世界へのアクセスはHMD(Head Mounted Display)の低価格化に伴い爆発的に普及しています.HMDは左右の目に微妙に異なる映像を提示することで両眼視差を用いて電脳空間における奥行き感を提示します.これにより電脳空間への没入感は前述のビデオチャットツールとは比較にならないほど高まり,それ故に電脳空間でイベント等を開催することで物理現実空間でのイベントを代替しようという発想に繋がります.

遠隔でイベントを行うメリットは様々ですが喫緊の現状を鑑みると

・コロナウィルス等の集団感染を心配しなくて良い
(物理的な接触がないので当然ですね)

・移動のコストがかからない
(自宅からインターネット経由で接続するためかかるのは電気代くらいです)

・会場を押さえるコストがかからない
(運営側からすると現実では日時を決めて会場を予約しリハーサルなどを行うために追加で日数を確保し現場のスタッフも雇い周辺の交通状況やアクセス方法,宿泊先の確保など考えることが多いですね.電脳空間なら必要ありません)

・参加者がイベントに拘束されない
(自分に合わなかった場合はすぐに離脱することができます)

などが挙げられます.

VRSNS

ここで電脳世界のもう一つの側面であるVRSNSという言葉についてもお話しておきます.現在電脳世界へのアクセス方法として利用されているVRアプリケーションの中には日常的なコミュニケーションの場として活用されているものがあります.それらをTwitterやFacebookといったSNSと対比しVRSNSと呼ぶことがあります.VRSNSでは前述のアバターを用いたコミュニケーションを普段から行っており,現実の肉体よりも緊張せずにコミュニケーションを行えるといった利点もあります(余談ですがバーチャルアバターの人格を尊重し現実に紐付いた情報ではなくアバターを一つの個としたコミュニケーションも生まれています.アイデンティティの新しい形です).このように電脳世界は私達の身近なものになる可能性を十分に秘めています.

電脳空間でイベントを開催する方法

本題に入ります.なおこれからお話する方法はあくまで執筆時の情報かつ筆者独自の経験に基づくものですのでよりよい運営方法を皆で模索していきましょう.

初めに,ソーシャルVRプラットフォームのclusterもしくはVRChatを用いることを強くおすすめします.

まず両者に共通する点として自作のアバターを用いてコミュニケーションを取ることができます.これによりイベントのゲストや運営スタッフが誰かひと目で判断することができます.また自作のワールドを作ることも可能であるので公式から提供されたワールドだけでは出せないイベントの独自性を強調することができますし,ワールド制作に精通した技術者がいれば物理現実ではまず実現できないであろう演出や仕組みを作ることができます.

次に共通する点としてHMDを用いたVRモードとHMDを用いないデスクトップモード,両方に対応していることが挙げられます.HMDが安価になっているとはいえ人口比で見ると普及率は微々たるものですのでHMDを持ってないユーザーも参加できることは重要です.

次に両者の違いと特徴を説明します.

cluster

clusterロゴ

clusterはcluster.inc(日本)が運営するサービスです.VRイベントプラットフォームとして多くのイベントを実施してきた実績があり,ユーザー,企業ともに利用されています.特徴として数百〜千人が同時接続可能という点が大きく,他のVRプラットフォームではこれだけの人数を収容できるものはありません(注:2020年5月28日追記,今後clusterは「同時接続人数について、法人による無許可での営利活動を制限するため上限を設けることにしました。1イベントの最大同時接続数を、公開イベントで「500」、限定公開イベント「50」まで」としています.).ただしその分ユーザー同士のコミュニケーションは最低限でボイスチャット可能な人数は制限されており基本的に発表者→聴講者という構図になっています.ボイスチャット以外では用意されたリアクション(♡や!といったアクション)を出すことができます.活用事例としてVtuberの音楽ライブリアルイベントの実施があります.アバターの使用はVRMが使えます.またUnitySDKが配布されており自作ワールドの開発とアップロードが可能です.

そしてpdf,動画データの表示と再生を標準で実装しています.これにより一般的なプレゼンであれば複雑なことを考えずに実施可能です(パワーポイントファイルは使用できないためpdfに変換し,動画は別データを再生します).

cluster概説図

clusterでの発表の様子

バーチャル学会2019での発表をclusterで行った際の写真

すなわち自作のアバターやワールドは使えなくていいからとにかくイベントを電脳世界で行いたい!という場合はcluster一択です.デフォルトの会場を選択しデフォルトのアバターで発表してください.clusterの具体的な使い方は日々アップデートされているため公式のガイドを御覧ください.

VRChat

VRChatロゴ

基本的な発表イベントや講演であればclusterで事足りますが,参加者同士の自由なディスカッションができないという点がclusterでは解決できません.参加者同士のコミュニケーションがメインの場合はVRChatを用いることを勧めます.

VRChatは参加者全員がボイスチャットを使用できます.これにより発表者だけでなく参加者間での会話や質疑応答などを自然に行うことができます.例えばポスターセッション小規模な勉強会ミーティングビジネスマッチングなどの場合はVRChatが良いかと思われます.

VRChat概要図

画像5

バーチャル学会2019でのポスターセッションをVRChatにて行った際の写真

ただしVRChatを用いる注意点としてVRChatではpdfデータや動画をアップロードする仕組みはありません.そのため公式より開発SDKをダウンロードし,イベントごとにワールドを制作する必要があります.VRChatを初めて聞いた方,ワールド制作をしたことがない方,Unityを触ったことがない方はclsuterを使用するかVRChatに詳しい方(ワールド制作経験のある方)を運営メンバーに入れ議論しなおすことを強く推奨します.もしそういった方が周りにいらっしゃらない場合は筆者までご相談いただいてかまいません,

注釈:clusterを使用しながら参加者間でのボイスチャットを行った例もあります.こちらのイベントでは参加者全員がDiscord(ボイスチャット用の外部サービス)に参加し,cluster会場の運営スタッフアカウントからボイスチャット音声を流すことで会場に声を届けていました.参加人数次第ではこのような工夫も考えられます.

本格的にVRChatを始める場合は有志が作成しているVRChat日本wikiを活用しましょう.基本操作からアバターアップロード,ワールド制作まで一通り書かれています.しかしまずは実際に入ってみて雰囲気を掴むことが重要だと思います.デスクトップモードであればノートPCでも入ることができます.

VRChatでプレゼンを行うためのシステムを公開されてる方もいますので,参考にしてください.

運営Tips

これより細かな気づきと知見を列挙していきます.

動画配信サービスを活用しよう
YoutubeLiveなどの配信サービスをぜひ活用しましょう.電脳空間へのアクセスが用意になったとはいえ参加にハードルを感じる人は多いです.配信があればそちらからイベントに参加いただけます.またclusterはYoutubeLive連携をすることができるためcluster会場でYoutubeLive側のコメントを読むことができます.配信する映像は配信用のスタッフを会場に配備し,その視点を配信しましょう.動画配信にはOBSなどの配信ツールを使用することを推奨します.また可能であれば配信を監視するスタッフを用意し,正しく配信されているか確認すると良いでしょう.

YoutubeLiveロゴ

参加者管理サービスを活用しよう
一般的なイベントでも用いられていると思いますがconnpassPeatixといった管理ツールを使用することを強く推奨します.すでに独自の管理ツールを導入している場合は問題ありませんが電脳空間でのイベントでは参加人数の管理が重要です.特に参加費を集める場合はPeatixがおすすめです.

イベント管理ツール

URLの発行
clusterとVRChatを使って制作したイベント会場に人を呼ぶためにはその会場へアクセスするためのURLを発行して渡すのが有効です.clusterでは公式イベントページよりURLを取得できます.VRChatの場合は少々特殊で公式HP(ログインが必要です)より目的のワールドを検索しLunchを押しURLを入手してください.具体的な手順はwikiを参照ください.

音声トラブルの回避
電脳空間での音声トラブルは本人は一生気づけないので周りから指摘する必要があります.また音声トラブルが発覚してもすぐに改善しないことが多いので事前のリハーサルが必須です.たとえ相手がどんなに偉いゲストであってもかならずリハーサルをお願いしましょう.リハーサルで確認する点は主にマイクシステムボリュームネットワークです.マイクシステムでは使用しているマイクの音質を確認し,ノイズが乗っていたり声が小さい場合はマイクのレベルを調整する,マイクそのものを変更などの対策が必要です.ボリュームに関しては声の大きさとマイクの位置で改善することがほとんどです.ネットワークに関しては一朝一夕でどうにかなる問題ではありませんが例えば携帯用のネットワーク帯を使用するなどの対策を取ることがあるかもしれません(例えば音声だけビデオチャットサービスを利用するなどは十分考えられます).

また私のおすすめのマイクはサンワサプライのUSBヘッドセットです.これは1500円(Amazon調べ)と安価ながら非常に安定しており,有線接続であるため遅延もありません.何より安いのでどうしてもマイク環境が改善しない場合に購入していただくのはアリだと思います(将来的に発表会場でHDMIケーブルの変換端子を用意しておくレベルの認識でマイク環境を用意しておくことがスタンダードになると良いなと感じております).

ヘッドセット

サンワサプライのヘッドセット.とにかく不具合がないため筆者も愛用しています.物理ミュートスイッチが手元にある点もグッドです.

電脳空間でイベントを開催するデメリット,注意点

ユーザーの環境構築コストが高い
こればかりは仕方ないですが,運営としてはいかに参加コストを下げるかを考える必要があります.手法としては前述の通りデスクトップモードを活用する,YoutubeLiveなどの配信を見てもらう,などがあります.またVRChatに関してはOculusQuestでのみ入れるワールドなどもあるため,PCHMDとQuest両方に対応したワールド制作なども意識に入れる必要があります.

突発的なトラブルに弱い
すべての運営を主催者側で管理できれば(物理管理室で管理できれば)崩壊は少ないですが,運営スタッフも遠隔地であると運営内部のコミュニケーションにラグが生じ,突発的なトラブルへの対処が困難になります.対策として事前に当日発生するであろうトラブルを列挙し,その対策を考えておきます.もちろんこれだけで対処できるはずもありませんので当日の連絡ツールを決めておくことも重要です(特定の連絡網はかならず確認するなど).またHMDをかぶり運営をしている場合連絡ツールに気づかないことも十分考えられるので運営スタッフと実行スタッフを分ける,VaNiiGlassなどのHMD内部へのポップアップツールを導入するなどの対策が有効です.

遠隔地のトラブルに対応できない
運営として難しい点ですが,参加された方の安全管理は遠隔地である以上保証することができません.基本的には何があっても自己責任である旨をご承知いただいた上での参加としてください.極端な話でいえばイベント中に災害が発生しHMDを使用していたため避難できず怪我を負う可能性もあります.

まとめ

比較

バーチャルイベントの開催には現状clusterが最もおすすめです.ただしイベントの内容によってはVRChatも検討すると良いです.VRChatを利用する場合はVRChatに詳しいスタッフを運営に入れることが最低条件です.まずはclusterのデフォルトワールドでイベントを開催すると感触がつかめるでしょう.

最後に,ここまで読んでいただきありがとうございました.今後電脳空間での様々なイベントが開催されることを期待し,私もそれに少しでも貢献できればと願っております.

ふぁるこ

関連記事,関連スライド
Zoomが便利すぎて生きるのが楽しい
バーチャル学会の裏話
バーチャル学会2019オープニングスライド

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?