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有機農業のはじまりのはなし

農業のはじまり


人の歴史の始まりに人類が農耕を始めたころから始まります。世界でどこで、農耕が始まったのか諸説あります。一般的には石器時代の後半狩猟・採取の後のおよそ1万年1000年前からメソポタミア文明で始まったとされています。

名古屋大学大学院 環境学研究科 地球惑星科学科 地球史学講座門脇研究室 HPより
 

そもそも「農」とは何でしょう。まずは言葉の定義からあらためて調べてみます。
農・・・「1 農業。農作。2 農業に従事する人。農民」

農業・・・「土地を利用して作物を栽培し、また家畜を飼育して衣食住に必   
      要な資材を生産する産業。広義には農産加工・林業も含む。」

農耕・・・「田畑を耕して農作物を作ること。」

栽培・・・「(スル)植物を植えて育てること。魚介類の養殖にもいう。「果  
      樹を—する」「促成—」
                   出典:デジタル大辞泉(小学館)
とあります。たぶん、考古学の世界では、学問なので「採取」と「栽培」では道具や痕跡として立証が難しいので耕す道具と痕跡のある農耕を農業のはじまりとしたのだと思います。人の食の中核を担う植物類を人の管理の下で育てる。と明確に定義しているのだと思います。
農業者特に有機農業では、不耕起栽培も技術としてあるので、農業始まり=農耕のはじまりではなく、農業始まり=栽培始まりがしっくりきますね。

日本の農業のはじまり

では、日本の歴史ではいつから農業が始まったのでしょうか?昭和生まれの私が学校で習った頃は紀元前300年から200年の弥生時代に大陸から稲作がつたったのが始まりでした。でも、最近では縄文時代に農業が始まったとされています。
採取から栽培への変化の時期は痕跡がわかりにくいですが、定住化が始まる13000前から始まったようですね。


文部科学省学術変革領域研究 土器の中のタネ・ムシが描く縄文人

この文献から見るとすでに、縄文時代には驚いたことに品種改良が始まっていていました。また、コクゾウムシの害に悩まされる様子がわかります。また、縄文人が拡散させた害虫の項目にあるように、すでに広域で交流があり物と技術の伝播もあったのでしょうね。
さらに、縄文時代にはすでに稲作も始まっていたようです。
分析技術の進化とともに、歴史概念も大きく変わるのですね。

なぜ、私が農業のはじまりに興味があるかというと、有機農業の定義が、「生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムである。」
コーデックス委員会 「有機農業生産の原則」より
原文は以下の通りです。
Organic agriculture is a holistic production management system which promotes and enhances agroecosystem health, including biodiversity, biological cycles, and soil biological activity.

日本の有機農業の推進に関する法律では、
・化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
・遺伝子組換え技術を利用しない
・農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する
が有機農業の定義です。
そもそも化学的に合成された肥料及び農薬や遺伝子組換え技術が
発明される前の農業はすべて、有機農業でしたし、人類は環境への負荷
をするほどの力もありませんでした。
どちらかというと、人類は農業の発展により技術革新が起こり、文明が発展し、環境が変化するまでの科学技術を手に入れました。

農薬・化学肥料のはじまり

 人類が、採取から栽培がはじまった時から栽培している生物の食害や病気の対策が必要でした。
 紀元前のギリシャやローマでは、植物の煮汁やワインに種子を浸し、害虫防止に努めました。オリーブ油の搾りかすや硫黄も効果的な農薬として利用されていました。1800年代には新たな農薬が見つかり、除虫菊の粉やデリス根が害虫駆除に活用されました。また、硫黄と石灰の混合物がうどんこ病に有効であることもわかり、石灰硫黄合剤が開発されました。さらに、硫酸銅が種子の殺菌剤として、またブドウのべと病防止に効果的なボルドー液の成分として使われるようになりました。
                       農薬工業会 HPより

 化学合成農薬はヨーロッパやアメリカでは1930年代から化学農薬の開発が始まりました。殺虫剤分野では、1938年にスイスで強力な殺虫活性を有するDDTが、1941年から1942年にかけてはフランスとイギリスでBHCが、1944年にはドイツでパラチオンが発見されました。日本では、1921年(大正10年)に貯蔵穀物害虫の駆除剤としてクロルピクリンがはじめて国産化され、ついで種子消毒剤として有機水銀剤が導入されました。日本では、戦後1,000万人が餓死すると言われるほど、深刻な食料不足に陥りましたが、DDTを皮切りに、BHC、パラチオン、2,4-PAなど多くの化学農薬が導入され、食料不足を克服するのに、農薬は化学肥料とともに大きな役割を果たしました。その後も、新しい薬剤が次々に導入され、農薬は食料の安定生産や農作業の省力化に多大な貢献をしてきました。

 欧米諸国では、農業生産性の向上を目的に、農薬は目覚ましく普及し、使用量も著しく増加しました。しかし、1962年(昭和37年)、アメリカの海洋生物学者、レイチェル・カーソンの「Silent Spring(沈黙の春)」が刊行され、農薬による環境汚染問題に警鐘が鳴らされました。それ以後、農薬の毒性、残留性や使用法などについて検討が加えられ、見直しが行なわれました。

 日本でも、DDTやBHCなどの有機塩素系殺虫剤や有機水銀剤といった残留性の高い農薬については、行政による規制あるいは企業側の自主的な対応が行なわれ、製造販売が中止されて姿を消していきました。
                       農薬工業会 HPより
一方、化学肥料は1906年ドイツのフリッツ・ハーバーが発明したハーバー・ボッシュ法(高温・高圧の下、鉄を触媒として窒素ガスと水素ガスからアンモニアを合成する方法)により製造されたアンモニアが化学肥料の始まりです。
                   日本肥料アンモニア協会 HPより

日本の有機農業のはじまり

 1962年アメリカの作家レイチェル・カーソンによって書かれた環境保護に関する「沈黙の春」農薬の使用による環境への影響、特に鳥類の減少や生態系への悪影響に焦点を当てています。農薬の使用による生態系の破壊や生物多様性の喪失についての警鐘を鳴らし、環境問題に対する関心を高めるきっかけとなりました。

 1975年有吉佐和子さんの『複合汚染』毒性物質による環境の汚染と、その人への影響について深く掘り下げ、当時の社会が直面していた生態系の危機を描いています。工業廃液や合成洗剤で河川が汚染され、化学肥料と除草剤で土壌が壊れ、有害物質が人体に蓄積されていく問題を訴えています。

 日本語の「有機農業」という言葉は、日本有機農業研究会の設立の1971年に農協役員の一楽照雄さんが日本で初めて “organic” を「有機」と訳したことに始まります。

 化学肥料や農薬を多投が前提の近代農業に対し、農薬をやめ、堆肥などの有機質肥料で安全な作物を作る「有機農業」を実践する生産者が次々に生まれました。
農薬の使用による環境への影響、特に鳥類の減少や生態系への悪影響に焦点を当てています。この本は、農薬の使用による生態系の破壊や生物多様性の喪失についての警鐘を鳴らし、環境問題に対する関心を高めるきっかけとなりました。

 このような中、化学肥料や農薬を多投が前提の近代農業に対し、化学肥料や農薬をやめ、堆肥などの有機質肥料で安全な作物を作る「有機農業」を実践する生産者が次々に生まれました。作る作物を自分の子どもに食べさせたいと、都市部の母親たちが声を上げ、生産者と消費者が直接つながる「産消提携」という運動が始まります。有機農業は生産者や市民団体の「安全なものを食べたい、作りたい」という思いから始まりました。

一樂照雄の社会経済思想と日本の有機農産物「産消提携」運動

根本 志保子 より

日本の有機農業のこれから


 縄文時代から始まった栽培の歴史で、同じ「沈黙の春」をきっかけに
より化学合成農薬はより安全な物の開発に、一方では化学合成農薬を使わない有機農業の発展に力を注ぎました。
 かつて日本では、化学肥料や農薬が発明されるまでの江戸時代、全ての農業は有機栽培でした。しかし、病害虫の対策として農薬や化学肥料の使用が一般化し、2023年時点での有機栽培の耕地面積の割合はわずか0.6%にまで減少しました。しかし、地球温暖化や環境汚染といった課題に対する解決策の一つとして、有機農業の価値が再認識され、その拡大が目指されています。

農林水産省 みどりの食料システム戦略 HP


 農薬や化学肥料の使用と有機農業は必ずしも対立するものではありません。例えば、私たちが健康を維持するために病院に行ったり薬を利用したりするのと同様に、作物を健康に育てるために農薬や化学肥料を適切に利用することは間違いではありません。ただし、病気でもないのに予定通り農薬を使ったり、化学肥料のみで栽培するのは適切ではないと思います。化学肥料は食事に例えるなら、栄養補助食品です。私たちが化学合成食品と水だけで生きるように言われるのは嫌ですよね。美味しい食事が健康にも寄与します。だから、栽培する際には化学肥料だけでなく、堆肥などの有機肥料も使用することで、より健康な作物が育つと私は考えます。

100%化学合成農薬を使わない有機農業は特異なものかもしれませんが、医学には西洋医学と並んで東洋医学や漢方が存在します。同様に、有機農業も化学合成物質を使用しない新たな技術が今後発見されるかもしれません。そう考えると、有機農業は過去の農業を目指すのではなく、先人たちの知恵を発展させ、次の世代へとつながる重要な産業と言えます。

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