アニメによる「聖地巡礼」の先駆けとなった作品
ウィーダ 『フランダースの犬』他3作品収録 新版 1873年 ロンドン刊
Ouida (Marie Louise de la Ramée), 1839-1908, A Dog Flanders and other Stories. London, Chapman and Hall, 1873 <R18-90>
New edition. 8vo, 293p., original boards.
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『フランダースの犬』はイギリスの作家ウィーダ(Ouida)、本名ルイーズ・ド・ラ・メール(Marie Louise de la Ramée)により1872年に発表されたベルギーのフランドル地方を舞台にした児童文学で、少年ネロと忠犬パトラッシュの悲劇を通して苦難に満ちた人間社会の過酷さや非情さを書きだそうとしたと言われています。もともと著者がイギリス出身で英語の作品であったことに加えて、子供が非業の死を遂げること、ベルギーに対して批判的な内容であったこともあり、物語の舞台の地ベルギーでは全く無名の作品でした。
この無名であった『フランダースの犬』の日本語への翻訳は1908年に日高柿軒によって初めて行われましたが、当時の読者に受入易いように登場人物の名前が日本風に改められていました。登場人物が原作通りに翻訳される完訳版は1919年の加藤朝鳥による『黒馬物語・フランダアズの犬』の二作品掲載という形で発行されました。戦後の1952年に村岡花子によっても翻訳が行われるなど、『フランダースの犬』は日本においては比較的知られた翻訳児童文学でしたが、日本人なら誰でも知っている作品となりえたのは1975年に「世界名作劇場」としてアニメ放映されたことが大きいと言えます。
しかし、『フランダースの犬』という作品の真骨頂は、物語の舞台で無名であった名作を再発見した以上に、日本とベルギーの観光産業に与えた影響ではないかと思います。作品人気のため、日本人観光客が作中舞台であるアントワープの聖母大聖堂に殺到したことから、1985年についにネロとパトラッシュのブロンズ像がアントワープ市内に建設されることになりなりました。
2016年に日本とベルギーの友好150周年を記念する行事が行われましたが、やはりそこで選ばれたテーマも『フランダースの犬』であり、アントワープ聖母大聖堂の前にネロとパトラッシュの像が設置されるなど、観光資源としていまだに衰えぬ人気を示しています。
近年、映画、漫画、アニメなどの舞台となった土地や町に思い入れを抱き、ファンが実際に訪れる所謂「聖地巡礼」が行われ、それが地域の町おこしのための観光資源に生かされるという事例がみられます。『フランダースの犬』はまさにその「聖地巡礼」の国境を越えた先駆けとなった作品として、単なる名作の枠を超えた興味深い作品であると言えます。
本書は初版の刊行された翌年1873年に刊行された新版ですが、同じ版元で、初版の刊行時期に近い『フランダースの犬』を古書市場において見つけることは困難であり、これ自体も貴重なものと言えます。
参考文献:井上英明「日本人の『フランダースの犬』」、明星大学研究紀要・日本文学科・言語文化科学、第13号、2005年
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