スパイダーバースが最高だったって話

 先日『スパイダーマン/スパイダーバース』を観た。先日っていう表現は微妙に正しくないかもしれない。公開直後には劇場に足を運んでいた。本当は鑑賞後すぐ抑えきれない衝動を書きなぐってやろうと思っていたのだが、1週間後に『キャプテン・マーベル』の公開を控えていたのでこちらの感想もまとめてひとつの記事にしてしまおうと先延ばしにしてしまった。結局記事を分けることになろうとは。


この記事には映画「スパイダーマン/スパイダーバース」のネタバレがあります。ご注意ください。


 さて改めて。『スパイダーマン/スパイダーバース』を観た。最初に字幕版を、日を改めて日本語吹き替え版を観た。日本語吹き替え版の感想は世に氾濫しているので、今回はあえて字幕版の話を中心にしていきたい。スパイダーバースとはなんぞや?という問いについては書かない。あくまでもその辺の前知識はある前提で話を進めていく。

 そもそも何故最初に字幕版を選んだのか。スパイダーバースの予告映像が公開された日、モニターの前の私は驚愕した。

Cast:
Shameik Moore
Hailee Steinfeld
Mahershala Ali
Jake Johnson
Liev Schreiber
Brian Tyree Henry
Luna Lauren Velez
Lily Tomlin
Nicolas Cage

John Mulaney
Kimiko Glenn

 『ジュラシック・ワールド』のオタクオペレーターのロウリー役が記憶に新しいジェイク・ジョンソンがピーターB役、近日公開のトランスフォーマー最新作『バンブルビー』で主役を射止めたヘイリー・スタインフェルドがグウェン役、説明不要の大俳優、MARVEL映画ではゴーストライダーで主演を張ったニコラス・ケイジがスパイダーマンノワール役、他にもアカデミー俳優マハーシャラ・アリや『X-MEN ZERO』でセイバートゥースを演じたリーヴ・シュレイバーもいる。

なにこれすごい

後に日本語吹き替え版も本職の声優さんたちが起用されると分かり期待が膨らんだが、やはり本国の声優さんの演技で観たい欲はとどまるところを知らなかった。
 そして何よりペニー・パーカーが可愛い。先ほどの予告の1:36あたりからを観てほしい。

「Hello!」

悩殺である。
字幕版を観た方はお気づきであろうが、ここのシーン、本編では日本語を喋っていた。

「コンニチワー!ハジメマシテ、ヨロシュー」

こっちも可愛い。

はっきり言ってこのペニちゃんの声を聴きたくて真っ先に字幕版を観にいったと言っても過言ではない。だってこの声だぜ。ジャパニーズアニメ声じゃん。やっぱ海の向こうのヤツらもアニメ声を理解してたんだって確信したね。

 そして公開日を向かえ、劇場から出てきた私は足が震えていた。なんなんだ。今私が観たものはなんだったんだ。
圧倒的映像体験。アニメなんだけど、最早アニメじゃない。3DCGでありながら手書きアニメの良さもしっかり残している。ジャパニメーションへのリスペクトすら感じられ、マイルズが、ピーターが、キングピンがそこにいるかのような躍動感。随所に見られるサム・ライミ版スパイダーマンやアメイジング・スパイダーマン、MCU版スパイダーマンのパロディ。実写映画よりちょっとだけ長いスタン・リーのカメオ出演シーン、そしてポストクレジットのイースターエッグとサプライズキャスト。
 まさに120分どこを切り取っても絵になる、傑作だった。

 ここまで読んでる方はほとんど観た方だと思うので、細かい内容は割愛するが、ペニーちゃんがSP//drに乗り込む際の演出が東映女児向けアニメの変身バンクみたいだったのには笑った。元々日本アニメのパロディネタの多いペニー・パーカー周りだけど、この映画ではより日本色が強くなっていた。(ペニちゃんは「NY生まれ」って自己紹介してるんだけどね!)
あとマイルス君がクモに噛まれたシーン、ライミ版を彷彿とさせるDNAが書き換えられる描写が始まったと思ったら速攻でクモを潰しちゃうマイルス君も良かった。分かる、わかるよ。元ネタのそこのシーンちょっと長かったよね。

 サプライズキャストも凄かった。マイルス君のいるアースのピーター・パーカー役に『スター・トレック』や『ワンダー・ウーマン』のクリス・パイン、ポストクレジットに登場した未来のスパイダーマン役に『スター・ウォーズ新三部作『や『X-MEN アポカリプス』のオスカー・アイザック。クリス・パインに至っては「クリスマスがやってくる」の替え歌まで歌ってるし、エンドロールで流れるしもう無茶苦茶。


 スタン・リーのカメオ出演シーンも印象的だった。そもそもスパイダーマンはスタン・リーとスティーブ・ディッコが共同で生み出した。その「生みの親」であるスタンが営むコスチューム屋でスパイダーマンの衣装を買うマイルス。「サイズが合わなかったら?」と不安を口にするマイルスに向かって店主スタンは優しく声をかける。「誰でもサイズは合うようになる。いつかね」
 恐らくスタンは、「誰でもヒーローになれる」と言いたかったのだと思う。スパイダーマンのコスチュームを身にまとったら、いつかそのスーツが(肉体も心も)ぴったり合う日が来たら、誰でもスパイダーマンだ。
そういえば配給会社こそ違えど『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』でホークアイことクリント・バートンも言ってたじゃないか。「戦うならとことん戦え。君が何をやったとか関係ない。一歩外に出たら、君もアベンジャーズだ」


 ところで「配給会社こそ違えど」と前述したが、いかにもこの映画はアベンジャーズやX-MENとなんら関わりが無い。ざっくり説明すると『アイアンマン』や『アベンジャーズ』を作っているのはウォルト・ディズニー社傘下のMARVEL STUDIOS。『X-MEN』や『ファンタスティック・フォー』を作っているのは20世紀FOX。この2社はつい先日事業統合が完了し、近いうちにアベンジャーズとX-MENの競演も観られるようになる。
さて、一方スパイダーマンはというとソニー・ピクチャーズ配給。マーベルはスパイダーマンの映像化権をソニーに売った過去がある。以来、サム・ライミ版スパイダーマンやアメイジング・スパイダーマンも皆ソニー・ピクチャーズ配給作品なのだ。これはスパイダーマン関連エピソード初出のキャラクターも含まれているので、グリーンゴブリンやヴェノム、MJ、メイおばさん、マイルス・モラレス、J・ジョナ・ジェイムソン編集長なども含まれる。(『ヴェノム』もソニー配給。)「でも『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『スパイダーマン/ホームカミング』はMARVEL STUDIOSの作品じゃん」と言う声もあるだろう。『アメイジング・スパイダーマン』が興行不振に終わり、他に計画されていたスパイダーマン関連作品が軒並み凍結された際、マーベルスタジオはソニーに業務提携を持ちかけた。それに乗ったソニー。かくしてスパイダーマンはアベンジャーズ入りを果たすことになる。つまり『シビル・ウォー』や『ホームカミング』、『インフィニティ・ウォー』は奇跡の産物で、マーベルスタジオとソニー両者が折衷案を呑んで誕生した作品になる。ちなみに『シビル・ウォー』や『インフィニティ・ウォー』、『エンドゲーム』はディズニー配給だが、『ホームカミング』や今年夏公開の『ファー・フロム・ホーム』はソニー配給作品だ。同じMCU内で配給会社が違うのはまだMARVEL STUDIOSがディズニー傘下ではなかった『アイアンマン』~『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の初期5作品を除くと初めてである。

 実はスパイダーバース、この複雑なスパイダーマン映画も統合させちゃおうみたいな計画があったことが判明している。

『スパイダーマン:スパイダーバース』、全実写キャストのトビー・マグワイア、ガーフィールド、トム・ホランドが集結するシーンが検討されていた

まあ全員集合したからって映画そのものを統合するわけじゃない、とむりくり考えることもできるが、世界観を統一させる目的だったと考えるほうが自然だと思う。
 もしこのシーンが実現していたら。ライミ版スパイダーマン、アメイジング・スパイダーマン、そしてMCU版スパイダーマン。全て「別アース」であり、「次元移動さえ可能なら同じ空間に存在できる共通の世界観を持つ作品」となる。これはおおごとだ。なにせ『ヴェノム』のポストクレジットで「一方別の宇宙では・・・」とクレジットが表示されスパイダーバースの予告が流れることを考えると、上記3つのスパイダーマンとヴェノムの世界もまた次元移動可能な繋がりを持つことになる。そしてMCUスパイダーマンが統合されると言うことはアイアンマンやハルクもまた、次元移動さえできればヴェノムやライミ版スパイダーマンと競演可能ということになる。(配給会社とかいう大人の事情は無視することになるが。)多元宇宙についてはドクター・ストレンジやアントマンで言及があるので、冗談抜きで大人の事情さえ無視すれば全員競演が可能となる。そのくらいヤバいシーンになるところだった。


 さて、「ペニちゃんの声が可愛い」と前述したが、5カ国の予告編のペニちゃん部分だけを比較した動画を見つけたので見てほしい。

英語版最高に可愛くない?本編はもっと舌ったらずでマシマシに可愛い。

ちなみに私イチオシのVtuberストリーマンさんがペニちゃんに限らずグウェン、ノワール、ハム、そしてマイルズなどスパイダーバースのメインキャラを紹介しているのでそっちも是非。


 そういえばこの映画の主人公マイルズ・モラレス君。MCU時空でも存在が確認されているので紹介したい。
『スパイダーマン:ホームカミング』でメインヴィランのエイドリアン・ドゥームスと取引をしていた武器商人が(意図する形ではないが)ピーターに命を救われる。糸で車に拘束されながらもピーターと気さくに話をする武器商人が「クイーンズに甥が住んでいてね」と身内の話をはじめる。この武器商人こそ、『スパイダーバース』にも登場したマイルズの叔父、アーロン・デイビス。そして「クイーンズに住んでる甥」はマイルズのことなのだ。MCU時空のアーロンはプロウラーでもないし、恐らくマイルズもスパイダーマンじゃないだろう。キングピンはデアデビルと死闘を繰り広げているし、グリーンゴブリンやドック・オックなんで存在すら怪しい。それでも、もしかしたら、いつか実写マイルズを見られる日が訪れるかもしれない。


 さて、長々と書いてしまったがスパイダーバースが素晴らしい映画なのは疑いようが無い。(とはいえスパイダーマン至上最高だったか、と問われるとやや疑問が残る。私はやっぱりライミ版スパイダーマン1が好き。)
字幕吹き替え問わず一度観た方向けに書いたのでわざわざ映像の出来等に関しては触れなかったがもしこれから観ようと思っている方がいたら「アニメ映画のひとつの到達点」だと思って鑑賞してほしい。ラストのバトルシーンなんかは息をも付かせぬ演出で没入感が凄まじい。
 そしてこの夏にはMCUスパイダーマン最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が公開される。『アベンジャーズ/エンドゲーム』後、フェイズ4の幕開けとなる記念すべき作品がスパイダーマンなことはファンとしてたまらなく嬉しい。今回のヴィランは「エレメンタルズ」と呼ばれる3人の巨人。一部報道では「サンドマン」「ハイドロマン」「モルテンマン」だと言われているが・・・?そして気になるのはジェイク・ギレンホール演じる「ミステリオ」。原作ではたびたび登場しスパイダーマンと戦ってきたヴィランで、バルチャーやドック・オックと共に「シニスター・シックス」というヴィランチームを立ち上げます。そんな超有名人気ヴィランがまさかの味方!?そして噂ではグウェン・ステイシーも登場するとか・・・?
 数ヶ月先の『ファー・フロム・ホーム』に思いを馳せつつ、今はもう一度スパイダーバースを観にいけるようスケジューリングしよう。

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