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【2020.05.06】「自分たちの水準が上がった」ではなく「世界の水準が下がった」と思い込んでしまう

地震に、雷にと続き、火元と父親に気をつけねばと思う今日このごろ。

昨日の夜中の緊急地震速報は本当に怖かった。掛け布団を薄いものに変え、寝心地が変わってただでさえ寝付けなかった(重い布団に押しつぶされていたほうがよく眠れる)ところに追い打ち。おかげで昨晩はうまく睡眠がとれなかった。


けれど、昨晩は楽しかったことも。

友人と二人で、前から計画していたオンライン読書会を実施してみた。「計画していた」といっても、課題図書と日時だけしか決めていない。ゆる~い取り組み内容は以下のとおり。

・課題図書は『21世紀の啓蒙──理性、科学、ヒューマニズム、進歩』(スティーブン・ピンカー著、草思社)
・事前準備は「上巻の、それぞれ読めるところまで読んでくる」のみ
・着目するテーマや進行方法は決めない
・お互いに面白いと感じたところをシェアし、そこから派生する対話を楽しむ。いくら脱線してもOK
・飲食(アルコール含む)あり
・だいたい2時間くらい

このゆるさが、なんというかちょうど良かった。

ただでさえ分厚くて読み始めるのに躊躇する本なので、この気軽さは手に取るまでのハードルを下げてくれる。そして本と直接関係ない脱線もOKとすることで、より本人と紐づいたエピソードが出てきやすくなり、直接会ってゆっくり話しづらいこの状況のなかでは、コミュニケーションを補ってくれる良い機会になる。そして、脱線とはいえ本の内容から派生してきたものなので、本のテーマをより広く、複合的に捉えられるという作用も。

個人的に面白かったことを、自分用のメモの意味も込めて箇条書きにしておく(※注:脱線のなかで出た話も多いので、必ずしも本の内容ではない)。

●人間の意識が進歩・成熟し、人道に配慮するようになればなるほど、これまでは問題としてこなかった小さなことも課題として見えるようになる。そのせいで、いつまでたっても世界には問題が溢れているように見え、本当は進歩している世界が「変わっていない」「悪化している」と勘違いしてしまう恐れがある(「自分たちの水準が上がった」ではなく「世界の水準が下がった」と思い込んでしまう)。世界の負の側面はポピュリズムに利用されがちだから、これではいつまで経ってもポピュリズムは生まれ続けるのではないか。

●悪いことのほうがニュースになりやすいため、これは「世界が悪化している」という感覚を生む大きな要因になっている。平和研究者のヨハン・ガルトゥングの次の言葉が面白い。「新聞が半世紀ごとにしか発行されないとしたら、有名人のゴシップだの政治スキャンダルだのではなく、平均寿命の延びといった、もっと重要で地球規模の変化を報じるだろう(p.89)」。

●過去の感染症予防の費用対効果がすごい。ある研究結果によると、たった100人の科学者(もちろんその周りには多くのサポートがあったにせよ)の功績によって50億人以上の命が助かっている。また、天然痘封じ込めのための10年間の計画でかかった総費用は約3億1200万ドルで、これは「ハリウッドヒット作5本分の制作費」「B-2ステルス爆撃機の片翼分」「ボストン道路整備計画『ビッグ・ディグ』の総コストの1/10」「感染国の国民一人当たりに換算すると32セント」に過ぎないそう。マスク配布に466億円(4.4億ドルくらい?)を思うと、いろいろ考えさせられる。

●「組織内の多様性」という言葉を勘違いして捉えている場合が多いのでは。年齢・性別・国籍・所属......これらの属性を多様にしたところで、もしもその人たちの考え方が似たり寄ったりだったり、すぐに組織文化に染まっていってしまうようであれば、何も生産的な多様性は生まれていないのではないか(友人の会社にいる南米出身のある方が、日本人よりも敬語が上手で時間もしっかりしているらしい。「もっとラテンっぽさを出してほしい」という話が面白かった)。逆に、たとえ属性が同じ人たちであっても、考え方が多様であれば生産的な多様性と言えるのではないか。

●「多様性」を考えるときに二つの側面がある。ひとつは上記のように「生産性や創造性を上げるための多様性」。もうひとつは「仲間外れをなくすための多様性」。これをごっちゃに考えると、「これまでいなかった人を入れてあげたけれど、むしろやりづらくて創造性につながらない」ということになり得る。

●「創造のための多様性」を考えるうえでは、対話の知恵が求められそう。たとえばこれまではA・B・Cの三人で話し合い、結果優秀なAの意見が採用されていたとする。ここにDが入って多様性が増したとしても、結局Aの意見が最優秀で採用されていたならば意味がないかもしれない。だからこそ、A・B・C・Dで語り合いの効果のなかでEというプランが生まれてくるようなコミュニケーションを育んでいく必要があるのでは。そこに、自分たちのような文系人間でもイノベーションを生み出せる余地があるのでは。

次回は来週。同じように「思っている以上に世界は良くなっている」という論調が続くのだと思うけれど、事例が面白いので期待。上巻読み切れるといいな。


今日はほぼ一日中ボランティアの原稿編集作業。二度目の修正原稿なので、方向性がととのい始めている。ここを乗り切れば山場を越えられそう。

今日の残りの時間は、連休らしくゆったり読書をしようと思う。

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