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#1 欲望に自由に生きていいんじゃない?

俺はN。周りの人にもほとんど知られていないが、いわゆるお金持ちである。世界の大富豪のように一生遊んでも使い切れないお金を持っている訳ではないが、今の生活を続けている限りお金が尽きることは考えられない。という程度の小金持ちだ。

俺には弟子が数名いる。お金持ちになりたいから弟子にして欲しいと頼まれて、LINEのやり取りなどで生き方の指導をしている。そんな弟子たちとの会話をここに綴る。


「Nさんのようになるには何から始めたら良いでしょうか?」

弟子になった人たちから決まって聞かれる質問だ。俺のようになりたいと言うのはおそらく”お金持ちになりたい”ということだろうが、その答えは決まっている。

「空き時間はアルバイトをして、極力お金を使わないようにすればいいだけだよ。」

しかし、ほとんどの弟子はその答えでは納得しない。お金持ちになるための裏技でもあるかのように期待しているのだ。俺がお金持ちになった経緯は、このNOTEで少しずつ明らかになってくると思うが、ものすごく単純で”収入を増やして節約しただけ”だから、それ以外に言うことは何もない。

「もっと収入を増やす方法はないですか?収入を増やすためには何を頑張ればいいですか?」

そうやってしつこく聞いてくる弟子もいる。

「収入を増やすためには、自分の価値を高めるしかないよ。自分の会社で求められる人材になれば自ずと給料はあがるでしょ?」

「自分の会社では高収入は見込めません。起業した方がいいのでしょうか。」

お金持ちになりたいという人たちのほどんどは、すぐに”起業”という言葉を使う。自己啓発やSNSの受け売りだろうか。

「じゃあ君にしかできない技術があったり、起業して上手くいくような能力が君にあるの?」

「それはありませんが。」

「なら、起業なんかすべきじゃないよ。起業はそれ以外の選択肢がない時に選ぶものだと思うよ。たとえば君に求められる能力がある。それを今の会社にいてはできない。だったら副業で始めるのもいいし、安定した収入が見込めると踏んだ時に初めて企業をするもんだよ。今の君は、起業した結果誰かの役に立つということが先にあるんじゃなくて、起業したいから起業するという目的も目標もない起業な気がするなぁ」

これで納得する弟子ならいいが、たまにこのアドバイスを聞いて怒り出す弟子もいる。

「それなら、Nさんに教えてもらうことはありません」

そう言って去っていく。俺は別に金持ちにしてあげますよと弟子を募集したわけではなく、自分から「Nさんのようになりたい」と言って弟子になったにも関わらず、この始末だ。

そもそも俺は起業家ではない。会社員と個人事業主の兼業といった感じで、会社員としての給料も普通のサラリーマンよりも少し高いくらいで、超高級取りということもない。普通に稼いで、稼いだよりも少なく使い続けた結果に過ぎない。



また、俺の弟子になりたいという人から、こんな相談も少なくない。

「自分の人生で何を成し遂げるべきでしょうか」

「そんなのは知らないよ、君の好きなように生きればいいじゃないか」

「でも、やりたいこともないんです。」

「君たちは、どう生きるか。どう生きるのが正しいかということに囚われすぎじゃないかな。自由に生きていいんじゃない?」

「自由に生きるといっても、別にしたいことがわからないんです」

「したいことが分からない?うーん、それなら君の好きなアイドルは?」

「〇〇とか好きです。」

「じゃあ、その〇〇に会いにいけばいいんじゃないの?」

「え?」

「コンサートに行くとか、イベントに行くとか。それは君がやりたいことじゃないの?」

「え、確かに。そう言われてみれば、そうかもしれませんが。アイドルを追いかけるだけの人生って何のためにあるんでしょう」

「好きなものを追い続けた人生。別にそれでいいと思うけどなぁ。」

「もっと大きな、使命みたいなものはないのでしょうか。Nさんは何のために生きているか聞いてもいいですか?」

「俺が何のために生きてるか。あんまり考えたことないけど、お腹が空けば食べるし、眠くなれば寝るし、人肌恋しくなれば誰かとセックスをする。3大欲求を満たすためかな」

「僕は真面目に聞いているんです!」

「俺だって真面目に答えているよ。世界を変えるようなビジネスをしたいとか、後世に名前を残したいとか、そんな欲求は俺にはないからね。もちろん昔からそんな欲求がなかったわけじゃない。しかし、お金持ちになって色々試した結果気づいたんだよ。所詮、人間もただの動物だってね。」

「それで虚しくならないんですか?」

「なぜ虚しくなるんだ?その辺の墓地に行ってごらんよ、知らない名前だらけだ。ずっと名前が残り続ける人なんてかなりの少数だし、別に名前が残っているから幸せではないでしょ?だって死んでるんだから」

「そ、それはそうですが」

「君たちは人生を難しく考えすぎだよ。何かを成し遂げなければならないと思い込まされている。いい学校に入って、いい会社に就職して、結婚して、家を建てて、子どもを作って。仕事で誰かの役に立つ。それが正しい道だと思い込まされているだけじゃないか?
死んで忘れられていく。そんな人たちが99.9%の世の中だよ。だったらその0.1%という狭い可能性を目指さなくても、他大勢の人たちと同じように死んで忘れられていく、それでいいじゃないか。
そもそもさ、自分が死んでいるのに後世の人が自分を思い出したからって何になるんだい?それだったら、生きているうちに単純に自分の欲求を満たしていって、その都度、おいしい!とか、気持ちいい!っていう経験をたくさん積めばいいだけだと思わない?」

「確かに、そう言われればそうかもしれません」

「もっと人生を簡単に考えて、欲求に正直に生きればいいだけ。それは成功じゃない、生きた証を残さなきゃいけないっていうのであれば君は99.9%負ける勝負に挑まなきゃならない。それって無謀な勝負でしょ?勝てるだけの才能、資本、コネクション、努力する能力があれば話は別だけど、そんなのもってないじゃないか。」

「何だかNさんの言う通りだと思えてきました。」

「俺が言っている事が100%正しい訳じゃないよ。有名になるのが夢だと言う人もいるかもしれないし、人によっての優先順位は全く違う。だからネットに溢れてる“こう生きるべき”とか“これが成功だ”という情報を鵜呑みにせずに、自分の人生を生きていけばいいんだよ。」

「確かにそうかもしれません。少し心が楽になりました。」

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