アイドル・田中久美さんのこと①

1984年は、菊池桃子や岡田有希子、荻野目洋子といった有名どころがデビューしている。
そんな1984年デビュー組で、私が一番好きなのが
田中久美
さんである。

ある日、デビュー曲の『スリリング』を歌う彼女にどっぷりハマってしまった。
大きな瞳で、♪stop、stop、stop、stop止めて〜と一生懸命に歌う彼女。
聴けば聴くほどサビのフレーズが耳について離れない。まさに見るたびに、聴くたびに、目と耳でゾクゾクさせてくれる。これこそ『スリリング』だ。

私は後追いではあるが、彼女について一生懸命調べた。
その結果、B級アイドルとして語られるのはあまりにも勿体ない。そう思ったので、ここで自分の考察も踏まえて活躍を書き記しておきたいと思った次第である。

田中久美は聖子フォロワーでもあり、明菜フォロワーでもあり、多様な表現ができるアイドルと私は考えるのだ。


聖子の世界観を受け継いだ久美さん

1st『スリリング』

さて、先程ちらっと書いたデビュー曲『スリリング』。
マイナー調のイントロで、聴くものを不安にさせる。ところが、サビに入ると一転してメジャー調に変わり、爽快感が突き抜けていく。なんとも不思議な曲だ。
作詞・作曲を見て驚いた。なんと、あの松田聖子の『裸足の季節』や『青い珊瑚礁』と同じ、三浦徳子・小田裕一郎コンビなのだ!

2nd『カリッと夏』

2ndシングル『カリッと夏』も、デビュー曲とまったく同じ布陣で挑んでいる。
こちらは、『青い珊瑚礁』や『裸足の季節』を彷彿とさせる、夏の海辺のキラキラさを感じる。
その一方で、太陽の「ジリジリ」、「ハリケーン」といった真夏の灼熱さも感じられる。後ろで響くコーラスとメロディもトロピカルチック。
ここの熱さやトロピカルな部分は松田聖子にはなかった要素であり、“田中久美”という人物を通して見た海のイメージを、三浦・小田コンビが上手くまとめあげている。

アルバム『Kumi〜地中海DOLL〜』

『カリッと夏』発売の1ヶ月後に、久美さんは初となるアルバムも出した。
それが『kumi〜地中海DOLL〜』だ。
(結果的に最初で最後になってしまったが…)

こちらのアルバムは私は未聴なのだが、「久美さんに地中海というコンセプトは似合う!」と思った。
『カリッと夏』からの、夏のイメージをアルバムで踏襲している部分がとても良い。
特別な赤いおしゃれ着で笑う久美さんは、ヨーロッパにバカンスへ行き、嬉しそうにしている女の子のようだ。

そこでふと気づいたのだ。松田聖子のアルバムの世界が、確か「世界中の海辺を旅する」ものであったことを…
久美さんも、アルバムで地中海を旅している。
そしてシングルは松田聖子のアイドル1年目を支えた布陣と同じ…
点と点が繋がった。
【田中久美は、初期松田聖子の音楽面での世界観を目指したのではないか】と私は考えたのだ。
久美さんと松田聖子はレコード会社が違うが、聖子側が描く音楽世界の素晴らしさに感銘を受けたスタッフが、久美さんのそばにいたのだろう。「初期の聖子フォロワーでいこう」と踏んだのではないだろうか。

しかし、久美さんは一見聖子フォロワーとはわかりにくい。それは田中久美本人の魅力が炸裂しているからだろう。
目が大きく、今風の女の子らしく、真夏の太陽のような元気さがあり、カラッとしていて、パンチもあって、無邪気さもある。見ていてドキドキワクワクさせる、そんな少女…

聖子とはまた別の、久美さんのそんな魅力をスタッフは読み取っていたのだ。
そして久美さんも、その意図を汲んで松田聖子をお手本にしながらも、あくまで田中久美の世界として解釈して自分の世界を表現していく力があった。
松田聖子フォロワーとわかりにくいのは、久美さん自身の力量もあったように思う。

②につづく

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