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父、"山笑う"

実家に帰省中の初夏、父の運転する車に乗っていると父がぽつりとつぶやいた。
"山笑うだな。"
山笑う!!言葉を目にしたことはあれど実際にその言葉を日常生活に於いて使う人物がいたとは…しかも私のDNAの半分を担っている他でもない父である。


父は変わり者である。研究者という職がそうしたのか変わり者であるから研究者として我が家の大黒柱として勤めあげたのかはわからないが、何せ変わっている。一見わからない。静かな昭和のおじさんだ。元素記号の羅列が一番美しく、自分がもし死んでも宇宙の質量は変わらないのだから自分の一部が何かになると思うと死が興味深いという。
ある日父が狸の亡骸を持って帰ってきた。路上で死んでいたらしい。その数日後、狸はファーマフラーになって冬の間、母の首元を温めることとなった。
またある日は塩水を作り飲み干すと体を揺らし出した。どうしたのと尋ねると"胃の洗浄。"と答えた。果たして頭のてっぺんから爪先まで理系の父が塩水に胃の洗浄効果があると信じていたのか元気なうちに問いただしてみたい。
そんな父が発した山笑う、はいまだにこの季節になると思い出す言葉だ。そんな言葉を自然と使える変わり者の父を私は好きである。
余談ではあるが私は自分が変わり者とは思ったことはなかった。ある日付き合っている男性に"あなたの周りは変わった人ばっかりね。"と言ったら"だからお前も変わり者なんだな。"と言われた。ぐうの音も出なかった。

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