ある日の金曜日の話

騒がしい金曜日の飲み屋、サラリーマンにOL、学生とそこかしこでいろんな話をしてはバカ笑いをし盛り上がっている。
店員も負けじと大きな声で忙しそうに酒と料理を運ぶ、間違いなく大変だろうにその顔は妙に笑顔だ。

香澄が一杯目に緑茶ハイを選んだのは正直意外すぎた、でもよくよく考えれば初めて飲んだのは芋焼酎だったなんて話してたから、気になって飲んでみたら意外と美味しくて気に入ったみたいな感じだろうって少し想像できた。
「好きなの?緑茶ハイ」
これまた意外と早いペースで飲み進め、もう気付けば5杯目だ。
「なんかね、好きなんだよ」
具体的な理由は無いらしい、予想通りである。
それにしたって誰でも良いわけでは無いけれど、酔った女性は少しだけ無防備に見えて、些細な仕草が気になってしまってしょうがない。
表情はそこまで変わらないがほんの少し頬を赤めて答える香澄に少しだけ、ほんの少しだけドギマギしたのは…僕とこれを読んでいるあなただけの秘密にしてもらえると助かる。
旨そうに焼き鳥を頬張る香澄はそれはかわいい、おっともう言わなくてもわかるよな、頼むぞ。

店を出る頃にはすっかり出来上がっていて、これは無事に帰れるのだろうかと心配しながら店を出ると酒と店の熱気に熱った体に12月の乾いた冷気が刺さる。
もはや心地よいと思うぐらいにはすっかり香澄のペースに乗せられて普段はあまり飲まない僕もすっかり指の先まで真っ赤っかになっていた。
駅に向かって歩き出そうとするとコートの袖元を不意に掴まれる、振り向くとおんなじぐらいに真っ赤に、いや桃色に頬を染めた香澄が朗らかに目を細めて微笑みながら立っていた。

「ねぇ、もう一件行こ?」

白い息が夜の空気に混じって見えなくなる前に、答えるよりも先に駅とは逆に歩き出した、この夜が2人の馴れ初め。
一筋縄ではいかなかった、この続きはまた別のお話。

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