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イタリアその5

「ショーペロ?」

イタリアではショーペロという言葉をしょっ中耳にする。
ストライキのことで、頻繁に至る所で行われている。
1番多いのはバスなので、私は1度もバスを利用したことはない。
バス停で、次のバスがいつ到着するのかわからずにバスを待つような心と体のゆとりは私にはまだない。
10kmくらいの距離は平気で歩いてしまうので、特に不便は感じない。
問題は電車である。

出発の時刻が表示される電光掲示板にCAN(キャンセルの意味)の文字が大量に並んでいるのを初めて見た時は少し感動した。
すごい国だなと。まったくの他人事だった。

しかし初めて自分が乗るはずの電車が出発10分前にいきなりキャンセルになった時はとても焦った。
それはフィレンツェで起きた。
フィレンツェには4回ほど電車で行った経験があったが、私のイタリアでの乗車経験はその4回だけだった。
電光掲示板に私の戻るべきピザ中央駅行きの出発時刻の表示はなかった。
そしてイタリアの駅には日本のような親切な「路線図」はない。私が乗るべき電車はどれなのか、さっぱりわからなかった。
いつもピザ中央駅行きの電車に乗っていたため、その先にある駅については調べもしなかった。
私が調べた限り、インターネット上にもイタリアのわかりやすい電車の路線図(日本のような)は存在しなかった。インターネットで購入したチケットの電車に乗れさえすれば、確実に目的地に到着するのだから問題ないだろうと思っていた。

結局私は近くにいる人に、ピザに行くにはどの電車に乗ればいいのかをたずねて、「5分後のリボルノ行きに乗ればピザにも停車する」という完全なる回答を得ることができた。
リボルノがピザから近いことは当然わかっていたが、路線上でフィレンツェとピザとリボルノがどのようにつながっているのかは今まで知ろうともしなかった。

私はその後、頻繁に電車に乗って、ちょっとした一人旅をしているが、乗り換えが必要な電車が遅延した時は、すぐに鉄道会社のトレニタリアのホームページにアクセスをし、乗るべき電車の次の電車の発車時刻や停車駅の情報を得るようになった。
遅延がひどいと次の次の電車になることもある。
停車駅の情報については、インターネットでチケットを購入する画面の詳細ボタンを押すと、途中停車駅とその停車駅の到着時刻やそこからの出発時刻を確認することができる。

それにしてもこの国に住む人たちはなんて大らかなんだろう。
時間通りに行くことがほぼないことが当たり前の国、イタリア。
今では私は電車が定刻に出発、到着した時は逆にびっくりするようになってしまった。

電車の一人旅に慣れてシエナに行った時、乗り換え駅のエンポリで、エンポリからシエナまでの乗り換え予定だった電車がキャンセルされてしまった。

「やれやれ。次の電車は何時かな?
32分先か。じゃあ少しエンポリの駅前をブラブラ歩くか。」

エンポリ駅の外に出るのは初めてだった。
登校する高校生たちと一緒になって歩いた。
街の広場ではクリスマスの準備が始められていた。
電車がキャンセルされなければ決して訪れることはなかったであろう小さな街。
「キャンセルされてよかったな」
深呼吸してつぶやいた。

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