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2024年から始めた『サイバーパンク2077/DLC仮初めの自由』ネタバレ感想

DLC仮初めの自由を全ルートクリアした。ゲーマー歴は15年弱なのだが、マイベストゲームになったかもしれないくらい、個人的にはグッとくる体験だった。
誰を信じていいかわからない、明確なストーリー上の良し悪しがないからこそ、自分の選択の価値が研ぎ澄まされる、そんなゲーム体験だったと思う。記憶の新しいうちに感想を書き残しておきたい。
なお、私がサイバーパンク本編、DLCをプレイした際は、選択のゲーム展開的な良し悪し(エンディング分岐の要件など)よりも、自分がその場その場の会話でどの選択をするのがしっくりくるかを基準に進めていたのだが、やり終えてみて改めて、本当にこのやり方で正解だったなと思った。
もしこれからプレイする人がいたら、攻略やネタバレは極力見ずに自分の思うままにプレイして最後まで辿り着いてみることを強くオススメしたい。

以下、ネタバレ感想です。

物語のテーマはナイトシティから新合衆国へ

サイバーパンク2077の本編では、体制への反逆者ジョニーとともに、ナイトシティという街そのものの構造と、その中にある人情や残酷さを体感するようなゲーム体験が中心だった。他方、仮初めの自由は、舞台はナイトシティではあるものの、その中でも新合衆国との緊張関係を抱え、治外法権化しているドッグタウンの中で物語が展開される。主要人物達の多くが新合衆国の中枢を担う体制側の人間たちであるため、ナイトシティというより新合衆国をテーマにしている側面を強く感じた。物語は新合衆国の大統領マイヤーズを救出するところから始まり、マイヤーズの部下であるソミ、リードを中心に展開する中で、力のあるもの達がそれぞれ体制側にいることで奪われる自由と、真の自由を求めてもがく様を描いたドラマになっていた。
個人的な話だが、自分も(仮初めの自由のキャラクター達には遠く及ばないが)現実の生活でどちらかというと体制側っぽい仕事をしていることもあって、正直このストーリーが刺さりまくった。刺さりすぎて、クリアからもうひと月半経とうとしているにもかかわらず、まだ余韻から抜け出せずにいる。

ソミの自由について

私は初見時、メインイベント/着火剤でリードを裏切る選択(ソミルート)をとった。その理由は、割と多くのプレイヤーと同じかなと思うが、選択を迫られる前にソミとの故郷を思い出させる場所でのイベントで、隠し事も多いが一応本心を話していると感じたこと、リードの言う合衆国の技術によるレリック克服が信じられなかったこと、直前のリードの双子殺害時のドライさをみて、自分も切り捨てられる可能性があると感じたこと、が主な理由だった。正直、リードについては初見時は全然本心が読めなくて、この選択肢をとる際に、リードというより、どちらかといえばアレックスを裏切るのが申し訳なく感じた。彼女はエリートでありながら夢とユーモアがあり、そのサッパリとした人間味に惹かれていたので、ソミにつくことでアレックスとの関係が壊れるのは嫌だなと思っていた。ソミルートのエピローグ的なイベントで、ソミを月に飛ばした後にアレックスとまた話ができる場面があるが、険悪な雰囲気でなくVとアレックスの友達としての関係がまだ生きていると感じられたことは、凄く嬉しかった。
ソミについては、途中までは、信用はできないけど助けてくれるっぽいし、悪意はなさそうだから一旦言うとおりにしてみよう、くらいの気持ちで受け止めていた。でも、故郷のブルックリンを想う彼女の後悔を聞いたことと、ソミルートの空港に向かうバンの中であまりにも弱っているソミをみたことで、後半は「この子をマイヤーズから解放してあげなきゃ」という気持ちが芽生えてしまい、気づけば自分にとっての利益を度外視にソミを助けたい、自由にしてあげたいという気持ちだけで、迷いなく月に送るエンディングを選んでいたのだった。
客観的に見れば、自分の余命が少ない中時間を浪費して、自己中心的に他人を犠牲にしていく危険人物を月に飛ばしただけであり、月に行くことでソミ本人が助かる保証もなく、あまり冷静な判断ではなかったように思う。でも、最後シャトルでソミのシートベルトを締めてあげるときに、なんとも言えない庇護的な感情になり、有り体にいえば凄く人のために全力を尽くした様な清々しい気持ちになった。自己満足かもしれないけど、これが自分にとっての1番しっくりくる正史だと感じられた。ナイトシティという深く底知れぬ恐ろしさをもつ街と、新合衆国という権力のるつぼから、1人の感情ある人間を開放したという気持ち。ソミを月に誘導したのはおそらくミスターブルーアイズなので、それこそ月に行っても自由にはなれないかもしれないが、少なくともマイヤーズやリードからの解放という意味で、この選択はソミを自由にしたように感じた。
ソミの、超人的な能力を持っているのに、より大きな権力に組み込まれてしまったために何も自分でコントロールできなくなる感じ、それを後悔しながらも抜け出そうともがいてどんどん泥沼にハマっていく感じが非常にリアルで、ソミのことを自己責任と割り切る気持ちにはなれなかった。最後の最後で、ソミもVを騙していた事を告白するが、その時の選択肢として出てくる「そんなことしなくても力になったのに」というセリフが、声優の清水さんの言い方も相まってまさに自分の心情とリンクして、何だかアツい気持ちになった。
普段の日常で大事な事が懸かっているときに、損得勘定よりも刹那的な感情を優先して選択することには覚悟がいるし、難しい。ゲームだから、というのはあるけれど、ソミルートに関しては、Vと自分自身との感情が濃く重なる中でそういう選択を自然ととることができて、得難い体験ができたし、心に沁みた。

リードの自由について

リードは、自分の命、大事な人の人生、そういったパーソナルなものよりも、何よりも国、マイヤーズへの忠誠心を貫く人物だと思う。最初は、その点がわからなかったけど、リードルートでソミを生かしたあとのリードのセリフ(「これで良かったんだ」と自分に言い聞かせるセリフ)を聞いていて、彼は結局その忠誠心を切り捨てて自分やソミの幸せを優先する人生を選ぶことができなかったから、自分の気持ちを誤魔化しながら生きざるをえなくなったんだなと感じた。普通に考えて、自分を切り捨て7年放置した上司にまだ付き従うというのは常軌を逸していると思うが、彼がなぜそこまで新合衆国やマイヤーズへの忠誠を尽くすのか、という点は自分には捉えきれない部分もあった。社畜精神と高尚な国家への信念が混じり合って判別つかなくなっているような、そんな危うさを感じる忠誠心だなと正直思った。
ソミとの関係性については、途中までは、ソミはもうリードのことを完全に信じていない一方、リードはソミへの父性的な感情を捨てきれずにいる、という構図なのかと思っていた。でも、ソミルートで空港に行くバンの途中で、ソミが満身創痍の中で縋るようにリードの名前を呟くシーンをみた時に、ソミにとってのリードの存在の大きさが無意識に溢れたのだと気づいて、ハッとした。作中、ソミはリードのことを軽視しているような素振りも見せるけど、きっとリードを人として大事に思っていて、けれど彼が合衆国への忠誠心よりもソミの自由を優先することはないと知っているから、彼を頼らないんだな、と。
これに気づいてからリードルートをやってみると、既にリードによる救済を(彼を理解しているからこそ)見限って離れようとしているソミに対して、リードの側はまだ自分がソミを助けられると信じ、忠誠心とソミの生存の両方をとろうとし続けていて、その姿が痛々しく感じられて辛かった。
一連のストーリーを通じて、リードの精神的な自由については、結局リード自身で合衆国への忠誠心を切り捨てるか、ソミとのしがらみを断ち切るか、のどちらかを選ばないと得られないのだろうと思った。その点、リードルートでソミの死を選んだ後、左遷に嫌気がさしてアフターライフに行こうかと冗談まじりに話すシーンだけが、唯一リードが忠誠心やソミへの後悔から解放されかけているようにみえた。そのきっかけがソミの死だというのは皮肉だけど、ソミに出会わず忠誠心だけで生きる人生だったら、彼はもっとサイボーグのような人間性を捨てた存在になっていたかもしれない。1人の人物や国家という感情を持たない概念への忠誠心の負の側面と、そこから自由になるための代償の重さを痛感させられる物語だった。

塔エンドについて

最後に、DLCで合衆国の技術によりrelicからの治療を受けることができた場合に辿り着くエンディング、塔エンドについて感想を書きたい。
ナイトシティ最強レベルの傭兵になったVのこれまでを思うと、その強さや大切な繋がりのほぼ全てを失う展開でなかなか受け入れ難いけれど、サイバーパンク2077においてはこのエンディングが個人的には最もしっくりきた。
短く派手に生きて伝説になるか、長く平凡な一生を過ごすか、をテーマにした本作において、サイバーパンク本編でも、派生作品のエッジランナーズでも、物語の主軸は前者だった。この塔エンドでは初めて後者にフォーカスし、図らずも伝説への道から転落し、力と恋人、友人達を失うこととなる展開を描いている。
個人的には、フィクサー達については、まだVの力を理由にしたビジネス関係が多かったので気持ちの整理がつけられそうだが、ジュディ、パナム達アルデカルトスのメンバー、リバーなど、Vの人柄が理由で親密になっていたと感じていた人たちが軒並み疎遠になったことを突きつけられるのが辛かった。そして何より、人としてもリパードクとしても友であり頼れる存在だったヴィクターが、資本主義に飲まれてしまっていたという事実もショックだった。逆に言えば、それだけ周囲の人々に対するVの影響力は大きく、この2年の不在がV自身のみでなく周りの人々を変えてしまったことも実感した。
そんな中でのミスティとの出会い、そして2人の会話があまりに身に沁みてしまって、2人で階段で話した時間がプレイヤーである自分自身にとっても何か特別な時間だったように感じた。正直、本編ではオカルトチックでちょっと不思議ちゃんな優しい子、くらいに思っていたあのミスティが、この場面で本当に逞しくて、絶望の中で微かに道を照らしてくれる存在として現れてくれたことが嬉しかった。ミスティがかけてくれる言葉、「その他大勢の世界へようこそ」は名訳だと思う。ナイトシティの通りすがりの人々みんなに名前がついていること、傭兵以外の様々なこの街に適応した職があること、全てに合点がいったような気持ちになった。
モブの1人となったVが、人通りに紛れていく様をみて、あぁこれで「ナイトシティの傭兵V」の物語は終わったんだと実感し、目頭が熱くなった。
ナイトシティというこの素晴らしい街で、もう一つの人生を味わう体験を与えてくれたCD PROJEKT REDに、心から感謝したい。

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