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わたしがうつ病になったわけ ♯5

なんとも不気味な空気をはらんだ地区で幼少期を過ごしたわたし。
そのためにいくつかの変異を経験したのであった、というのが前回の話


人生にはいつかの転換点、フェーズが変わる瞬間というものがあるように感じます。
わたしのこれまでの人生にも、ガラリと状況が変わる節目がいくつかありました。
その1つは、10歳の時にやってきました。
隙あればボケーっと妄想の世界に飛び立って帰ってこない子どもだったわたしが、ギラリと目を光らせ、男子と走り回る日々がやって来たのです。

ボールは友だち

とある昼休み。
相変わらずひとりでぼーっとしていたわたしの足元に、コロコロと転がってくるものがありました。
それはサッカーボール。
わたしが小学生の時に流行っていたのが、サッカーのアニメ「キャプテン翼」でした。
男子たちは休み時間となると、こぞってリフティングの練習をしていました。
そんな環境の中で、わたしはとある技を度々目にしていたのです。
ボールに足を乗せ、そのボールの下に足先を潜らせて、ボールを足の甲の乗せて持ち上げる技です。
普通の女の子なら、しゃがんで手にするボールを、カッコよく足で捌いてみたい。
普段のわたしは、そんな事これっぽっちも思ったことなどなかったのに、潜在意識の中にいる本当は好奇心の塊でパワーを持て余していた真のわたしが声をあげたのでしょう。
ムクっと椅子から立ち上がり、ボールに足を乗せると、あっさりとボールを操って、足でボールを手元まで運ぶことができちゃったのです。
その瞬間に感じたのは半分呆然、半分やってやったぜという達成感。
さらに気持ちを高揚せたのが、男子たちの歓声でした。
「ゆきえ、スゲェ! おまえサッカーできるのかよ」
今まで話したこともなかった男子たちが、目を輝かせてわたしを見ているです。

「ううん。やった事ない」
「マジか! 俺もまだそれできないのに、どうやったんだよ!」
「放課後一緒にサッカーやろうぜ!」

今まで候補にもあげていなかった男子たちが、突然のお友達候補として立ち上がってきたのです。

その時やるとは返事をしなかったわたしですが、その日の放課後から男子に校庭に連れ出され、試合に投入されることになるのです。

そして目覚めてしまったのです。
闘争心というライオンの牙をむく楽しさに。

男子は心の友

この時期ほど、スリムなナイスバディーだったことはありませんね。
朝も早起きして授業の前にサッカー。2時間目休みもサッカー。昼休みもサッカー。放課後もサッカー。
ただサッカーをして、うまいプレーができれば「イェーイ✌️」と笑いあっているだけで、心が通じあってしまう。

これは楽だ! 女子と全然違う!
仲良しであろうとも、発言の一つ一つを、相手の腹を探りながら慎重に繰り出さなければならない。
失敗すれば、顰蹙ひんしゅくをかって、仲間はずれの陰口コースにまっしぐら。

男子にそんな神経戦は必要なし。
失敗すれば、「へたくそ!」とその場で言われ、別の男子が「そういうこと言うな! いいよ、俺が教える!」とパス回しの方法を教えてくれる。

幸せな日々でしたね。

こうして、わたしは小学校3年生~4年生をサッカー少女として過ごしたのでした。
ぼけっとして、いじめられても気づかない人間から、ボールを蹴り飛ばして大笑いする強気な女へと大激変をとげたのです。

かめはめ波は撃てる!

男子の友だちだらけになったわたしが次に開眼したのが、少年マンガの面白さでした。
中学生になっても男子と遊んでいたわたしは、一人の男子と密かに練習している事がありました。

それは、かめはめ波!

ドラゴンボールの悟空の放つ技。

あれを出せるようになろうと、昼休みに二人で練習していたのです。

「手のひらに意識を集中! エネルギーの渦を作り出せ!」

当然出るわけないのですが、当時は不思議なほど撃てる未来を疑わずに練習していました。

さらにその男子と練習したのが、回し蹴り。

日頃のサッカーの練習の賜物か、体幹と脚力に優れていたわたしは、軽々と回し蹴りができたのです。
蹴りの標的はもっぱら男子のおしり。

男子たちは、わたしにお尻を蹴られては、バシッという音とともに「痛え!」と叫びつつ、それでと次々に蹴ってくれとやって来たのです。
楽しくそれをこなしていたわたしは、Sの気があるのでしょうか💦

でもある日、やらかしてしまうのです。
蹴りの的が外れてしまい、学校の掃除用具入れのロッカーのドアを蹴り抜いてしまったのです。

ロッカーに開いたデカデカとした穴。

これはヤバイ……怒られる。
案の定、担任にすぐにバレて

「誰だ! 学校の備品を壊した奴は!」

わたしは恐る恐る手を上げようとしました。
その時

「俺がやりました。すいません」

いつも一緒にかめはめ波を練習していた男子が名乗りを上げたのです。

中途半端に手を上げかけたわたしにも、先生の目が向きます。

「ゆきえさん、現場を見ていたんですか?」

ひーー! わたしは何て答えるのが正解?

そう思って口ごもっていると、別のサッカー仲間の男子が代わりに答えたのです。

「俺が教室でサッカーボール投げて、ゆきえの頭に当てちゃって、転んだゆきえがあいつとぶつかって、ロッカーに突っ込んじゃったんです」

う、うまい! 事故設定来た!

この見事な連携プレーに、怪しいという顔をしたものの、先生も怒り引っ込め、

「サッカーを教室でやるな」

と言うだけでおしまい。

翌日登校した教室の掃除用具入れのドアには、真新しいベニアの板が打ち付けられていました。

何だか後ろめたい。

そう思っていたら、わたしを庇ってくれたかめはめ波の友が横に立ったのです。

顔を見合わせた瞬間、ニカッと笑って

「うまくいったな!」

とピース。

こうしてわたしは、器物破損の罪をまぬがれたのでした。

わたしには、そんな救いの助け手が常にいたように感じるのです!


【つづく】




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