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家出

 小6の頃に一度だけ、家出をしたことがある。理由を詳しくは覚えていないが、たぶん些細なことだった。確か、父親に理不尽な理由で怒られたと感じたからだ。とにかく、当時の自分は納得できず、家出をすることにしたのだった。

 その日はサッカー教室に行った帰りで、大体夜の8時頃だった。無計画で、とにかく家から離れたい一心だった。金も持たずに飛び出したので、とりあえず遠くを目指して歩くことにした。当時、花粉症の減感作療法のために通っていた耳鼻科が家から歩いて3、40分のところにあったのでとりあえずそこを目指すことにした。パッと思いついた自分で道が分かる一番遠い場所がそこだったのだ。着いてからどうするのか、どこで夜を過ごすのか、などは全く考えていなかった。

 走ったり、歩いたりを繰り返しながらどんどん進んでいく。そうしている内に、少しずつ頭が冷えていき、父親に対する怒りはどこかへ消えてしまっていた。そしていつの間にか、耳鼻科に辿り着くことが目的と化していた。普段、その病院に行く時は、親と自転車で行くか、一人で電車に乗って行くかの2択だった。一人で歩いて行ったのは初めてのことだった。しかも、道を覚えるのが苦手だったから、親と自転車で行く時はいつも親の後ろをついて行っていた。だから、一人で辿り着ける保証も自信も無かったのだ。

 少し道に迷いながらも、何となく見覚えのある道を進んでいくと、なんとか耳鼻科まで辿り着いた。ここまで1人の力だけで来れたのは初めてのことだった。もの凄い達成感だった。すっかり満足したので、家に帰ることにした。父親に対する怒りも既に過去のものであり、いまはとにかく早く家に帰って風呂に入り、寝たかったからだ。

 帰りは来た道をそのまま辿るだけで、もはやただの散歩だった。家に帰ると、母親に出迎えられた。夜中、急に家を飛び出した自分のことを心配してくれていたのだ。まだ小学生だったから、心配して当然である。ただ、父親は心配していなかったそうだ。近くのカードショップで遊んでいると決めつけていたらしい。しかも、だからといってカードショップに探しに行ったわけでもない。それを知った時、父親に失望した。別に心配して欲しかったわけではない。理不尽に怒られたことを引きずっていたわけでもない。ただ、父親は自分に対して心配する感覚を持ち合わせていない、という事実に失望したのだ。

 この後も何度か父親の人間性を疑う出来事があり、父親に関しては尊敬していない。もちろん、ここまできちんと育ててくれたことに関してはきちんと感謝しているが。ただ、父親を1人の人間として尊敬しなくなったきっかけはこの一件にあるように思う。

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