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日本の脱炭素政策、どう決まってる?Climate Integrateのレポートが大変勉強になりました

心が折れそうになる「複雑すぎるプロセス」

気候変動問題に取り組むシンクタンク「Climate Integrate」が4月26日に公表したレポート「日本の政策決定プロセス:エネルギー基本計画の事例の検証」を拝読しました。

脱炭素について勉強中の身としては、日本の脱炭素政策がどこでどういう風に決まっているのかが今いち分かっていなかったので、まずそういう基本的な流れについて解説してくれているこのレポートはとてもありがたかったです。

すごく基本的なことながら今回のレポートを見てようやく認識できたことですが、日本のCO2排出の9割はエネルギー分野からなので、少なくとも3年ごとに見直されて国のエネルギー政策を決めてきた「エネルギー基本計画」こそが、日本の脱炭素政策の“本丸”と評価することができるということです。

で、その「エネルギー基本計画」は、経産省の外局である資源エネルギー庁の下に設けられた「総合資源エネルギー調査会」が作成した案を元に決まります。より詳しく言うと、「総合資源エネルギー調査会」の下にある4つの分科会のうち、「基本政策分科会」がエネルギー基本計画の案を決めることになっています。

ここまででもすでにややこしいですが、「基本政策分科会」や他の3つの分科会の下にはさらにたくさんの小委員会やワーキンググループ(WG)、分科会があり、それに加えて法律で定義されていない非公式の研究会や検討会も多数存在する……と。すでに心が折れそうです。複雑すぎる仕組みにして一般国民にウォッチする気をなくさせておいて、その隙に好き放題に決めるというのは、税制などとの共通点を感じてしまいます。

本当に大事なことは「下部」で決まっていた

今回の文書では、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の決定プロセスについて検証しています。

閣議決定前の1年間をかけて検討されたこのプロセスでは、「基本政策分科会」で17回の議論(うちヒアリング5回)が行われたといいます。

しかし、この分科会だけを追っていてもプロセスの実態はわかりません。より具体的な個別案件については先ほど述べた無数の小さな会議体で議論されていて、「分科会」はそれらから上がってきた案を取りまとめている、という構造のようです。今回のレポートで私が最も興味深いと感じた点の一つが、次の一文でした。

基本政策分科会では、このように検討議題ごとに細分化された下位又は外部の会議体で先立って調整された内容について、総合的観点から審議され大きく変更されたような例は見られない。

Climate Integrate「日本の政策決定プロセス」より

つまり、本当に大事なことはより下位の小さな会議体の段階で決まっていて、上位の会議には「権威」はあるけれど、実際はシャンシャン会議で承認しているだけ、と受け取りました。これは、大企業や国会とかでも見たことがある、極めて日本的な構図だなあ、と思った次第です。

「委員の構成」に大いに問題アリ

それでも、下位の会議体できちんと議論されていればまだ良いわけですが、Climate Integrateが「基本政策分科会」とより下位の小委員会などを含む主要な15の会議体を調査したところでは、委員の構成に次のような問題点が見つかったとのこと。

・50~70歳代が中心であり、男性の割合が平均で75%を超えている。

・素材や資源・エネルギー供給などエネルギー多消費産業関係の委員が多く、下位の会議体ほど利害関係者が多い。経産省出身者が委員になっている例も複数ある。

・エネルギー転換に積極的に取り組む業界が多いエネルギー需要側の企業や非営利団体、その他の分野からの参加は少ない。

・化石燃料を中心にした既存のシステムからの脱却に対して慎重なスタンスの委員(Climate Integrateの評価による)が多数を占めている。

・3つ以上の会議体に重複して参加する委員が複数おり、最多では8つに上る。

“「おじいちゃん」ばっかり”はいつものことなので最早おどろかないですが、つまるところ、経産省が、自分たちの進めたい政策に合った意見を言いそうな人たちばかりを選んでいる、ということのようです。しかも、肝心のところを決める下位の会議体ほど、利害関係者が多いと。

それもいつものことじゃん、と思われるかもしれませんが、1999年の省庁再編の際に定められた「審議会の整理合理化に関する基本的計画」というのがあって、委員の男女構成で女性が30%以上になるよう努めること、利害関係者を排した「公正で均衡のとれた委員構成」にすること、高齢者を原則として専任しないことなどが決まっていて、それが全然守れていないことを、このレポートは指摘しています。

ついでに、閣議決定の前に一カ月のパブリックコメント期間があって、6392の意見が寄せられたものの、「ほぼ原案通りの内容で閣議決定に至っている」という部分も見逃せませんでした。パブコメは単なる「ガス抜き」「アリバイ」といういつもの構図ですが、これも「いつものこと」で済ませて当たり前にしてしまってはいけないでしょう。

ということで、政策決定の流れの勉強にもなったし、問題点も総覧できたので、非常にありがたいレポートと思いました。この力作が無料公開されているのは、太っ腹で素晴らしいです。

この2024年度にはちょうど、日本の脱炭素政策の今後を決める「第7次エネルギー基本計画」の策定が始まります。このレポートを読んで「下位の会議体でこそ大事なことが話されている」、ということも分かりましたし、自分としてもより詳細な個々の会議の中身も含め、政策決定プロセスについてウォッチしていければ、と思いました。

【参考にした資料】
Climate Integrae「日本の政策決定プロセス
※このブログのメイン画像にもレポートの表紙を引用させていただきました。


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