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世界の何人か

世界の何人かが、ふとあることを思いついた。
そのうちのほとんどは、ありえないと忘れることにした。
残りの何人かは、誰かに話してみた。
そのうちのほとんどは、ありえないと笑われた。
そのうちのほとんどは、そうだろうありえないと忘れることにした。
残りの何人かは、そんなことないと思った。
残りの何人かは、話が盛り上がった。
そのうちの何人かは、やっぱりありえないと忘れることにした。
残りの何人かは自信を持った。
 
誰かに話した何人かの一人は、藁谷燎だった。
「ポタさぁ、“そっち”の人やから聞いてみたいことがあんねんけど…」
何故か、今藤蛍は聞く耳を持たなかった。両耳をふさぐ。
「ガガ姐、それは考えたらあかん。今すぐ忘れて」
「いや、まだ何も言うてないやん!」
「なんとなく嫌な予感がする」
「と言うことは、ポタも考えたことがあるっていうことやな?」
「なんのこと?知らん、知らん」
「私は、それが実現可能かどうか知りたいねん」
「あー、あー、聞こえません」
「私は、自分がやりたいと言うてんのとちゃうよ」
「あー、あー、考えることがあかん」
「実現できへんのやったら、ああそうですか、で済む話やんか」
「あー、あー、知りません」
「もし、もしもやけどな、実現可能やったら、めっちゃ危ないやん?」
「あー、あー、危ないから考えることさえしたらダメです」
「で、もし実現できるんやったら、警察とか日本政府とかに危険ですよ、対策したらどうですか?って伝えんと…」
「たぶん日本政府では対応できへんよ、アメリカにお伺いを立てることになる」
「それやったらアメリカに直接メールとか…」
「アメリカはドライやからな。その時点で、ガガ姐消されるかもよ」
「え、できるかどうかわかれへんのに?つまり、できるってこと?ちゃんと対策してくれるかも知れへんやん。すでに対策済みです、って笑われるだけかも知れへんし」
「メールをハッキングされて、話の通じん国に連れていかれる可能性もある」
「ポタ、ほんならそれは実現可能ってこと?」
「なんのことを言ってるのかわかりません」
「そしたら、あんたは何をそんなに怖がってんのよ」
「言ってることがわかりません。実現可能かも知れへん。けどすでに対策されてるかも知れへん。ちょうど今対策の最中かも知れへん。そもそも人類にはまだ解決できへんことかも知れへん。だからガガ姐もこれ以上考えんとき」
「ま、世界中の誰も考えへんのやったらええけど、誰か一人でも実行して成功したら終わりやで?」
「私の管轄外です。私には対応できません。私に責任はありません。誰かが実行して成功して世界が終わったら…そんなん相手にすんのは神様やんか!」
「そやから私は日本政府に…」
「誰も考えてないって、誰も実行せえへんって、世界は終わらへんって、もう考えんとき」
「そうかなぁ」
「もう!やめてっ!」
 
残りの何人かは、話さずに実行してみた。
話して自信を持った何人かは、実行してみた。
話して笑われてもあきらめられない何人かは、実行してみた。
そのうちのほとんどは、失敗した。そしてやっぱりありえないと忘れることにした。
残りの何人かは、あきらめずに続けた。
実行した何人かは、いきなり成功した。
そのうちの何人かは、怖くなってやめた。そして忘れることにした。
そして今、世界の何人かは、成功して実行中である。
 
でも実はもっと前に、ふと思いついて実行されていた。
そろそろ全ての準備が整う頃だ。
 
蛍は、ふとそんなことを思いついた。

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