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雨あがりて #10

☆-HIRO-☆ 第十話
2024年7月22日(月)

第九話はこちら


第十話 木俣さんの姉

会計を済ませて談話室に行く。木俣さんは一人ポツンと座り、スマホを眺めていた。

「ゴメン…お待たせしちゃって…お姉さんとはもう会えたの?…」
「これくらい時間かかるって分かってたから大丈夫よ…姉には会って少し話せたんだけど…すぐ呼び出されて病棟に行っちゃたのよ…はい、コレ…」
預けていたレジ袋を渡された。
それを受け取り、テーブルの斜め前に座った。

「有難う…いや今になってお腹が空いてきて…ここで食べてもいいですか?…」
「どうぞ…姉もそろそろ戻ってきてもいい頃だわ…なんか私もお腹空いてきちゃった…うどんでも食べようかしら…」
左側に自販機が並んでおり、その中に今はあまり見かけなくなった“うどん自販機”も置かれていた。

しばらくして木俣さんが缶入りのコーンスープだけ持って戻って来た。
「残念、販売休止中ですって…スープで我慢しておくわ…」
黙ってホットドッグを差し出したが、木俣さんは笑って手を振り断った。そしてスマホを手にするとまた眺めはじめた。

サンドイッチを食べ終える頃、背中側の戸が開き、誰かが入ってきた。
木俣さんが顔を上げ…
「あっ、お疲れさん…終わったの?」と話しかける。片手を白衣のポケットに入れた女性が…
「仕事終わってるのに病院に残ってるとロクな目に会わないわ…まあ
仕方ないけど…」
「患者さんは大丈夫だった?…」
「ええ、今日の雨で雷も酷かったでしょ…それで精神的に参っちゃったみたい…大した事はなかったから良かった…そんな事より、あなた今日 誕生日でしょ…さっき本谷さんから電話がきて…どうもお祝いの席を用意してたみたいよ…今すぐ戻りなさい」
胸のネームプレートを見ていたので、あの診療所の医師の事だとすぐ分った。
「まあ、あの人ったら…そのくせ何も言わずに私を使いに出すなんて…いつも一言足りないのよね…」
“先生”と呼んでたのが“あの人”に変わっていたが…そう言う事なのか。
“あの医者も気難しそうな顔して隅に置けないな”と思うとなんか笑えてきた。
「でもこれからこの人送ってかなきゃいけないし…」と言われ、初めて挨拶するキッカケができた。
「どうも、今日お世話になっている洲崎と申します」と立ち上がって頭を下げた。それから木俣さんに
「ボクはタクシー呼んでもらって帰るからいいですよ…すぐ戻ってあげて下さい…」と話した。何か言おうとする彼女にお姉さんも…
「洲崎さんは私が送って行くから急いですぐ戻りなさい…本谷さんは向かいの喫茶室で待ってるそうよ…」
それを聞くと木俣さんはいそいそと荷物をまとめて支度し、立ち上がるとニッコリ笑い…
「それじゃピコ姉さんお願いするわね…また近いうちに会って話しましょう…」と言って出口に向かう。
その目尻は少し下がって見えた。
「慌てて事故とか起さないでよ…」
背中越しに声かけられると木俣さんは振り向きもせず片手を上げ、入り口脇のゴミ箱に空き缶を投げ込んで出て行った。

一段落して、お姉さんは博多朗の前に座った。胸のネームプレートには「内科医 石野 比古」と書かれていた。“あっ、お姉さんは結婚してるんだな…医師の比古さんとは覚え易いや”などと思っていた。

「あー、今日も疲れたわ…お茶でも飲もうかしら…あなたも珈琲でいいわね…」
サッと立ち上ってそう言うと、断る間もなく自販機に向かって行く。

「はい、ブラックの方が良かったかしら…」
「いえ、有難うございます…」
「患者さん多くて待たされたでしょ?…あなたも疲れてない?…」
「いえ、それほどは…まあ検査はスムーズでしたし…」
「それでどこを診てもらったの?…」
「昨晩、胸が締め付けられるように苦しくなって…家から近い診療所にいったら、ここを紹介されて…」
「あら大変…心臓だったら他に色んな病気が隠れてる事もあるから…詳しく診てもらって正解でしたね…」

博多朗は少し躊躇ったが思い切って話してみた。
「実は昨日、夢に般若が出てきて…それからなんです、具合いが悪くなったのは…」
「あら、医師にはそれを話したの?」
「診療所では…でもここでは、外来でも時間に追われた感じで、話す雰囲気じゃなかったし…」
「まあ診療報告書に記載するような事ではないし…でも担当する医師には電話で伝えてると思うわ…」
「木俣さんから来る途中にこの病院の事は聞きました…お兄さんの事も…あっ、あなたにとっては弟さんでしたね…」

石野さんは遠くを見るような目をしてからまた話しだす。
「そうね、診察とは別に一度神社にお参りした方がいいかも…医者としてでなく、あくまでも一般的な意見としてだけど…今日はもう隣りの分祀殿は時間的に無理と思うけど…日をあらためて…本殿に行った方がいいと思うわ…」
「あっ“研修棟“と聞いたけど…神社の分祀だったんですね…」
「病院のすぐ脇にあるから対外的には研修棟と呼んでるのよ…実際研修に使う時もあるけど…まあ造りを見ればすぐそれと分かるわね…患者さんの中にはお年寄りも少なくないから…長い石段を登ってのお詣りは大変だろうと、すぐ隣りに分祀を置く事にしたと聞いてるわ…」
「いや、昨日からどうも頭から般若の顔が離れずに気になってて…
やっぱり一度神社の方にお詣りして来ます」

「さて、それじゃ送って行きましょうか…着替えて来るから玄関ホールで待ってて…」
博多朗は残った珈琲を慌てて飲み干し、立ち上がった。


☕  Tea Break ☕

昔、よくドライブインとかで見かけた自動調理販売機。街中ではもうほとんど見かけないですね。
コンビニやファストフード店が多くなったせいでしょうか。

自分の記憶では“カップヌードル”の販売機が最初だったと思います。購入するとカップヌードルが出てきて自分で自販機からお湯を入れて作るもの…小さいプラスティックのフォークが備えられてましたね。

うどんの自販機はしばらく待てば調理済みの商品が出てくるものでした。一度、機械の中でどのように調理されるかの画像を見た事があります。麺の入った器が出てきて、お湯が注がれ…上から押さえ蓋が出てくると…器がクルクル回転して中のお湯を飛ばし…これが湯がき?ほぐし?湯切り?になるのかな…それからツユが注がれて出来上がり。
なんともアナログで、まさに昭和的な機械だったですね。チャップリンのモダンタイムスを思い出します。結構ツユも美味しくて旨かったと記憶してます。

レトロな調理販売機は麺類の他にも、ハンバーガー、トーストサンド、カレーなど全盛期には沢山の種類があったようです。

調理販売機ではないけど、スナックやオツマミの販売機もありました。中にターンテーブルがあって回転させて商品を選び、購入する時は前の扉を開けて取り出すもの。これも見なくなりました。

もう今あるのはコンビニのコーヒーメーカーくらいかなと思ってたら、今新しく米国企業が開発した調理販売機ががあるそうです。これにはあの一風堂も一枚噛んでるとか…
ラーメン、うどん、そばなどの調理販売機が、主に首都圏のSAなどに設置されてるそうです。

機械の構造はそれほど変わってないと思うけど…一度食べてみたいものです。

次回は第11話 「帰りに聞いた事」
ご期待下さい。

#創作大賞2024 #ホラー小説部門

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