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25年振り突然奏でるオルゴール

今日は春陽気。
冬に入ってからは寒くて、ほとんど開ける事が無かった寝室の窓。
二人の息子が小学生の頃まで子供部屋として使っていたが、それぞれ巣立ってからは夫婦の寝室になっている。
窓越しに入って来る暖かい日差しのせいか、掃除のやる気に火がつく。

寝室の南北東の窓を全開し、掃除機をかけ始める。寝室を眺め見渡すと、部屋の隅々には、息子の教科書がそのままの学習机、ガンダムが飾られた棚、次男が続かなかった電子ドラム、長男が主人の実家から持ち帰った60年代のプレーヤーの壊れたステレオオーディオ。所狭しと未だに存在している。

掃除機をかけながら、オーディオの上に置かれた品々が目にはいる。
古い球体の型をしたチョッパチャップスのツリー。収集癖の長男が何処からか貰って来たのだろう。
サッカー少年だった息子達のチーム集合写真。息子の誰かの手作りの本棚の中に、古代エジプトの兵士が手彫りされた木箱が目に付く。
掃除機のスイッチを切り、着色された木箱を手に取る。
木箱の蓋を開けると、蓋の内側に青いオームらしき鳥と、古代エジプト人らしき上半身裸で笛を吹く男性が描かれている。鳥と人の間に卒業という文字も書かれてる。箱の左側に白いポチとした突起物が見られる。そこから一段下がって物入れになってる。
「あれ?オルゴールかも」と、箱の蓋を閉めて開けてみるが何も聞こえて来ない。数回繰り返すが変わらない。
「そうだ!手巻きオルゴールかも?」と箱の底に手を持って行くと、ゼンマイのネジらしき物に手が触れる。
いっぱい、いっぱいになるまでネジをひねる。蓋を開けるけど何も聞こえない。
幾度となく同じ事を繰り返してると、「ギィー」と機械音のような音が鳴った。また何回と無くひねっては蓋を開けてを繰り返していると「ギィー、ギィー」と機械音が連呼した。
次の瞬間、突然機械音が途切れ途切れのメロディーらしき音になって来た。
だんだん間延びしたメロディーをオルゴールが奏で始めた。次にネジを巻いて箱の蓋を開けるとメロディーがスムーズに流れ始め、ゼンマイが伸び切る頃には、自然とメロディーが終わった。
25年の間、錆てゼンマイも動かないはずなのに、なぜ今になってオルゴールはメロディーを奏で始めたのだろうか?

ふと、その頃の自分を思い出した。
何かに取り憑かれたように寝る間も惜しんで仕事をしていた。そうせざる理由もあったが、子育ても手抜きしてはいけないと完璧主義でこなしてると自負していた。でもそれは一人良がりの思い込みで、結局息子達に重いプレッシャーを掛けていただけだったようだ。
いつの間にか息子達と気持ちの面で隔たりが出来ていたのだろう。
だから卒業作品も見せてはもらえず、今知る事になったのだろう。

ある日、次男が訪れた時聞いてみた。
「中学校の卒業作品のオルゴールが出て来たけど君のだよね。」
「違うよ。お兄ちゃんが小学校の時の卒業作品だよ。僕のは壊れてないよ。」
「えー!」私は絶句。
あの頃の私は、息子達の何を見ていたんだろう。思い出すら壊れいる。
25年振りにメロディーを奏で始めたオルゴールは、私に息子達への懺悔を促しているのかもしれない。
出来る事なら、オルゴールが出来たてホヤホヤのあの頃に戻って、子育てをやり直したいと思った。

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