産業医完全未経験の労働衛生コンサルタント試験対策 全体概略

2023年度に産業医未経験で労働衛生コンサルタント(保健衛生)に合格したため、労コン受験にむけた試験の概略や出願戦略についてお話します。

医師向けの説明になりますので医師以外の方には少し参考になりづらいかもしれません。


1.私の経歴、受験に至るまで

産業医未経験
産業医資格もなし
国立医学部出身
医師10年目
マイナー科専門医取得

労働衛生コンサルタントの資格は2019年くらいから存在は知っていました。

更新不要の産業医資格が手に入り、労働衛生コンサルタントとして開業ができて経費でウハウハできるらしい、というとんでもなく程度の低い理解をしておりました。

ただ2019年当時はまだ産業衛生未経験で労コンに受かった人の情報がTwitterをはじめネット上でほとんどなく、実務経験が5年必要だの未経験で受かったのはもともと社労士をもっていた人だとかの情報しかありませんでした。

難しかろうと、とにかく受けてみようと出願書類を手に入れたのですが、
出願書類に実務経験を書いて職場に証明してもらうという項目があり、
未経験には無理やんけ!となり当時は受験はあきらめてしまいました。

月日は流れ、専門医を取得しやることねえなと暇だし労コン受けたいなあ、でも実務経験がなあ・・・と思ってTwitterを徘徊していたら
初期研修医で労コンに受かったという先生が何人かいるではないですか。

実務経験は?と思って出願要項を改めてよくよく読んでみると
医者(と薬剤師)は資格を持っているだけで受験資格を満たしているため実務経験を記載する必要がなかったのです。

実務経験欄は医師以外の理系大学卒だとか保健師とかの方の出願要件を満たすためのものだったんです。

それなら労コン受けられるやん!となり早速受験準備を始めました。

2.合格基準

労コン試験は筆記試験をまず受けて筆記に合格すれば口述試験を受けられ、口述試験に合格すれば晴れて労コン合格という2つのステップに分かれています。

筆記試験は労働衛生一般(択一)、関連法令(択一)、健康管理(記述)の3つからなり、全体で得点率6割以上、かつ4割以下の科目がないことが筆記試験の合格基準になります。

口述試験は15分間、3人の試験官から面接を受けて矢継ぎ早に出される設問に答えていき、4段階評価のうち上位2段階の評価で合格になります。
どんな問題が出るか、突っ込んだ質問が出るか、助け舟を出してくれるかといった要素で合否が変わりうる運要素があります。

そして一部の資格を持つ人は筆記試験が免除されます。
例えば医師の場合は労働衛生一般と健康管理は免除可能です。
(免除せずに受験することも可能)

さらに医師は指定の講習会(産業医学講習会や産業医大ディプロマ)を受けていれば筆記試験は全て免除され、いきなり口述試験を受けることができます

3.筆記試験の概要

まず前提として各筆記試験の概要について説明します。

先にまとめを書いておきます。

  • 労働衛生一般

    • 医師は免除可能なので受けなくても良い。

    • 医師の場合は少ない労力で合格点以上を取れる。

    • 産業保健の基本的内容すぎるので、これを勉強したからといって口述にプラスにはなりづらい。

  • 健康管理

    • 医師は免除可能。

    • 口述でも聞かれる内容。健康管理の問題はすべて答えられるレベルでないと口述の合格レベルには達しないので勉強したことは無駄にならない。

    • いずれ勉強する内容ではあるが範囲が広いため労力が大きい。

詳しい内容を以下に書いておきます。
読み飛ばしたい方は4.まで飛ばしてください。

 労働衛生一般

労働衛生一般は択一式30問からなり、3管理の分類だとか有害作業における一般的な対策だとかどういう症状が出るかなどの問題が出ます。
また医者なら当たり前の知識として知っている解剖整理の問題も出ます。
実際に解いたらわかると思いますが、臨床医としてのベースの知識があれば、5年分も過去問解けば8割は取れますし、6割を切ることはまずありません。

 労働衛生関係法令

法令は択一式15問からなり労働安全衛生法や粉塵則や電離則などの関連法令から出題されます。
臨床だけやっていた医師には全くかかわりのない分野なのでゼロからの勉強が必要です。
そして粉じん則や石綿則などは地味に細かい条文の内容を聞いてくるので確実に得点するには過去問だけでなく広く勉強する必要があります。

さらにタチの悪いことに法令で勉強した内容は口述で聞かれることは殆どないのでこれを勉強したからといって口述で有利にはあまりありません。
ごく稀に定期自主検査の頻度だとかちょっとしたことは聞かれるようです。

しかし実際に口述の勉強をしたらわかると思いますが口述の範囲は膨大でほぼ出題されない法令の内容をいちいち復習する時間はほとんどありません。

 健康管理

最後に健康管理です。
これは記述式で大問4問からなり大問1・2から1つ、大問3・4から1つ選んで回答します。各大問には10問弱の小問からなります。

自分はこれを受けていないのでこう思った、レベルの話なのですが健康管理で出題されている内容が口述試験で出題されています。

口述試験の勉強中に改めて健康管理の問題を見たらこれ答えられないと口述試験落ちるな、という問題ばかりです。
また健康管理で出た新傾向問題が口述試験で問われることもあるようです。

回答する問題もある程度選べますが、口述に準じた勉強が必要なのでかなりの広範囲の知識についてしっかり勉強する必要があります。

4.医師の筆記試験戦略~全免除する?

ここまでのまとめとして医師の取りうる戦略のまず大前提として

  • 産業医学講習会を受けて筆記全免除をとる

  • 筆記試験を受ける

のどちらかを選ぶ必要があります。

結論から言うと時間と金に余裕あるなら
精神衛生上、産業衛生講習会を受けて筆記全免除にするのをお勧めします。


これらのメリットデメリットについて説明します。

産業衛生講習会を受けての筆記試験全免除のメリット

  • 3日間の講習だけで筆記試験合格相当でいきなり口述試験を受けられる。

  • 法令のような口述に関連が少ないものの勉強をする手間が省ける

  • 筆記免除資格は生涯続くので口述試験に落ちたとしても翌年以降の筆記試験も免除となりいきなり口述試験を受けることができる。

産業衛生講習会を受けての筆記試験全免除のデメリット

  • 定員があり外れる可能性がある。

  • 今年(令和6年度)はもう募集が終わっている。

  • 東京の現地受講のみでオンラインはないため、受講料27000円に加え移動費および宿泊費がかかる。

  • 7月の3連休ではあるが3日間すべての出席が必要なので多忙な人は出席しづらい。

  • 口述に落ちても翌年以降も筆記免除なため口述の緊張感が減る。

筆記試験を受けるメリット

  • 筆記試験は1日だけで北海道・宮城・東京・愛知・兵庫・広島・福岡から会場を選べるので都合をつけやすい。

  • 講習会分の費用が浮く。

  • 科目にもよるが勉強した内容はごくわずかに口述の役にも立つ。

筆記試験を受けるデメリット

  • 試験問題があまりに基本的な内容すぎたり、口述で聞かれない内容が多いのであまり口述の役に立たない。

  • 筆記試験合格で得られた口述試験の受験資格はその年だけであり、もし口述に落ちると翌年はまた筆記試験からやり直し。

以上を読んでどういう戦略をとるかは各人の考え方にもよるかなと思います。

元も子もないこと言うと、大学を留年せずストレートで卒業し、
国試も偏差値50以上キープして苦も無く普通に通るような
まともな、普通の医者なら時間さえとってしっかり対策すれば筆記も口述も受かると思います。
私たちもともと受験戦士ですので試験は得意です。

ただ問題は

  • 口述試験の範囲が膨大で若干の運要素がある。

  • 筆記試験合格発表や口述試験対策の超有用な資料が配られる講習会が12月半ばなので口述試験対策に本腰を入れられる期間が限られる

といった口述試験の不安要素がありますし
臨床で忙しい医師には勉強時間の確保が難しいといった問題があります。

ですので冒頭で申した通り精神衛生上、産業衛生講習会を受けて筆記全免除にするのをお勧めします。

・・・自分は産業衛生講習会落ちたので泣く泣く筆記受けましたが

おまけ : 実際の筆記全免除組の合格率は?

令和5年度は試験の実施団体、安全衛生技術試験協会から、それ以前は厚労省のサイトで合格者の受験番号が公開されています。
上一桁1~7が筆記試験の受験者、8,9が口述のみの受験者ですのでそこから口述のみの合格者の人数がわかります。

母数に関しては受験者数が保健衛生だけでなく労働衛生工学の受験者数も合算されて内訳が公表されていません。
ですので合格率に関しては概算になりますが概ね以下の通りになります。

2022 
筆記試験    受験者361人 合格138人
口述試験   全体受験者295人 全体合格者155人(合格率52.5%)
     筆記合格受験者125人 最終合格80人(合格率64%)
     口述のみ受験者170人 最終合格75人 (合格率44%)


2023
筆記試験    受験者361人 合格256人
口述試験   全体受験者 479人 全体合格者 208人(合格率43%)
     筆記合格受験者 256人 最終合格 120人(合格率47%)    
         口述のみ受験者 223人 最終合格 88人(合格率39%)


御覧の通り筆記試験合格者のほうが最終合格率が高いという結果です。

この結果から筆記試験からのほうが有利なのではないかと考える方もいるでしょうが実際筆記を受けた自分の考えとしましては、
筆記試験を受ける組のほうが意識が高い
口述に落ちたら来年イチから筆記試験やり直しというプレッシャーから真剣に勉強する

というだけの話だと思っています。

何度も書いていますが筆記に関しては法令は口述に関係なし、労働衛生一般は簡単すぎるので口述の役に立たないです。
筆記を受けていても口述の勉強はまた別物なので筆記組試験免除組での口述合格までの勉強量は結局さほど変わりません。

とはいえ試験免除組の合格率の低さを見て筆記から受けるかどうかも最終的には個々人の考え方次第なのかなと思います。



5.筆記を受ける場合どの科目を受ける?

試験に自信ニキや産業衛生講習会の抽選落ちで筆記試験を受ける選択をした場合に次に必要になるのが筆記試験の一部免除をするかどうかです。

法令は絶対受けないといけないですが、労働衛生一般と健康管理は医師の場合免除可能です。

ですので

  1. 法令のみ受ける

  2. 労働衛生一般と法令を受ける

この2つのいずれかを選ぶ必要があります。

健康管理は受けないのか?という疑問はあるでしょうが、
健康管理はかなりの勉強量(口述試験合格最低ラインレベル)が必要なので

全科目受験や法令と健康管理、みたいな受験方法はおすすめしません。
資格試験ですから合格に寄与しないような受験の仕方は自己満足でしかないのでそのようにされたい方はそうすればいいと思います。

本題に戻りますが法令のみ、労働衛生一般と法令の受験についてメリットデメリットを解説します。
自分は健康管理を免除して労働衛生一般と法令を受けました。

①法令のみ受ける

メリット : 最低限の勉強量で済む
たとえ労働衛生一般が臨床に近く簡単とはいえ、過去問3年分くらいは目を通さないと厳しいです。
あと、細かいですが試験も朝からになるので2時間くらい早く試験会場に着く必要があります。


デメリット : 試験の難易度がやや高いので単独で合格点がとりづらい

筆記試験の合格基準は全体で6割以上かつの得点率かつ4割未満の科目がないことになります。
ですので法令単独だと15問中9問の正答が必要になりますが、難易度の低い労働衛生一般を受けてその得点率が8割以上あれば、法令は7問正解でも筆記合格が可能となります。

②法令と労働衛生一般を受ける

法令のみのメリットデメリットの真逆です。

メリット : 法令の点数が6割に届かなくても労働衛生一般で補いうる
法令のみのデメリットの逆です。
法令は医師にはとっつきにくい内容ですが労働衛生一般は臨床の内容、生理学や解剖に近い内容なので、衛生管理者のテキスト読んで5年分過去問やればほぼ確実に8割とれます。
ですので法令でやらかしたときの保険になります。

デメリット : 勉強量が増える
これも法令のみのメリットの逆です。
10年分過去問3週くらいとはいえ余計な勉強が増えるので時間が若干もったいないです。試験当日も朝からになるのでそれもやや面倒です。
また、先述したとおり労働衛生一般はとても基本的な内容なので口述で求められる知識の基礎の基礎にしかなりません。
あまりに簡単すぎるので労働衛生一般の勉強したから口述で知識面で有利になるということはまずありません。


以上をふまえて試験免除して法令のみで受けるか労働衛生一般と法令の両方を受けるか考えたらいいです。

自分が試験申し込みする前にTwitterで検索したときは大体の医者は法令だけで突破するが労働衛生一般も受けておけばよかったと述懐するというコメントがありました。

また何が何でも労コンに一発で受かりたかったことから自分は労働衛生一般も受験しました。

結果的に法令だけで11/15点とれていたので労働衛生一般はいらなかったなとは思います。
結局は個々人の考え方でどの科目を受けるかなのだと思います。


6.口述試験対策は大変

具体的な口述対策については別の記事でまとめますが、労コン試験のヤマは口述試験になります。

とにかく可能な限り早めに準備することに尽きます。
Twitter眺めてると1週間で受かったとかいう離散出身の人とかいますけど、自分が離散レベルの頭脳がないと自覚しているなら早めに準備することが一番です。

というのも範囲が広く、実務を踏まえた返答が必要であること。
そして試験で聞く内容と採点基準というのはある程度決まっているようなのですがその聞き方や答えた内容の採点が試験官毎に基準が若干違う
試験官ガチャの要素があるところ。

そしてなによりも、試験対策をしようにも口述対策に役立つ労働衛生コンサルタント会の保健衛生口述試験受験準備講習会が12月の半ばにあります。

試験は大阪1月半ば、東京が2月頭と本腰を入れて対策できるのが1か月強しかないという点が一発合格の難しさに拍車をかけています。

ですので繰り返しになりますが時間に余裕があるなら筆記試験前や筆記試験終了直後から口述試験の対策をすればかなり余裕をもって試験対策ができるかと思います。

とはいえ、直前になって尻に火が着かないと頑張れないのが人間の性ですが・・・。


以上、ざっくりした内容ですが労働衛生コンサルタント試験受験にあたっての概略をまとめてみました。

実際の試験対策はまた別に記事を書きますので興味があれば読んでみてください。

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