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閑話休題「食べ物の記憶」

食育といった事にも通じる話しですが、小さい頃によく食べた、あるいは食べさせられた食べ物は大人になっても特別な食べ物である事が多いのではないでしょうか。

私が子供だった50年ほど昔の日本は、まだ全国一律にモノが行き届く様な物流は発達しておらず、今から思えばかなり地域色の強い食生活だった様に思います。

特に魚に関してはその傾向が強くて、私が育った地域では例えばサンマなどはスーパーや魚屋さんで目にする事はまずありませんでした。

今では秋の味覚として日本中どこでも手に入るサンマですが、私が育った関西の日本海側の地方では水揚げもきっと少なかったのだろうと思います。

ところで今日の記事のタイトルは「食べ物の記憶」なのですが、子供の頃によく食べたものを大人になっても食べ続けるという傾向が、人間にはあるのではないかと思いこんなタイトルを付けてみました。

どうしてこんな事を思ったかと言うと、私が普段関わっている老人介護施設のお年寄り達は、概ね古いタイプの洋食が大好きだからです。

例えば「オムライス」だったり「ナポリタンスパゲティ」や「チキンライス」などです。

それからパンが好きなお年寄りも多いですね。

ハンバーグも割と人気なのですが、面白いのはマカロニグラタンが結構人気がある事でしょうか。

どのメニューも今風のオシャレなメニューではありませんが、日本でも古くからある洋食メニューという事になります。

こうした古いタイプの洋食は、今の70代後半から80代前半くらいの人が子供の頃に日本で普及したメニューです。

それまでも東京や大阪などの大都会では食べる事が出来たでしょうが、地方ではまず食べる事は出来なかったでしょう。全国的には第二次大戦の後に普及したメニューです。

料理研究家の土井善晴さんが書かれた本に書いてあったのですが、戦後の栄養不足を何とかしようと、全国の婦人会が油を使って調理する事を教える「フライパン運動」というのをやったそうです。和食には油を使う習慣がありませんからね。昭和30年頃の事です。

キッチンカーにコンロとフライパンを積み込み、油を使った炒め物の作り方を教えて廻ったらしいのですが、この時に一番人気だったのがミンチ肉を巻き込んだオムレツだったようです。

昭和30年というと約70年前ですから、今80歳の方なら10歳前後の食べ盛りです。

そんな時期に母親がケチャップをたっぷりかけたオムレツやオムライスを作ってくれたなら、さぞ嬉しかったでしょう。

もしかしたらこんな美味い食べ物がこの世にあるのかと思ったかもしれません。

そんな記憶がいつまでも残っていて、人生の最晩年となった今でも洋食に対する憬れにも似た感情が残っているのかもしれませんね。

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中嶋洋二郎
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