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一日一詩。

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言葉にできないコトバをことばにします。
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2023年4月の記事一覧

【詩】フィットネスです。

最近、フィットネスジムは コンビニに弟子入りしたらしい。 若いサラリーマンたちが 強いられた労働に勤しんだ後 自由な苦行に浸っている。 身も心もムキムキになって 握手の力加減を間違える。 強くなったおかげで 誤って誰かを傷つける。 傷ついた者が声を上げる。 犠牲者の声は街中のスピーカーに響く。 加害者はすぐに処刑台に上げられる。 謝る暇もない早さで。 加害者に同情する傍観者。 ある人は怒り、ある人は笑い、 ある人は目をつむった。 新しい犠牲者が出るたびに 新しい法律が作られる

【詩】僕は加害者

だって、きっと、僕だって、 同じことしかできなかった。 No なんて言えなかった、 実現もできなかった。 だから、僕は加害者。 失ったんじゃない、 追いつめたんだ。 壊されたんじゃない、 仕方ないと言ったんだ。 だから、僕は加害者。 できることって なんだろうか。 すべきことって なんだろうか。 わからないまま 生きている。 わからないから 生きている。 ほんとうのことが わかるまでは、 生きていないと いけない気がする。

【詩】鉛筆とボールペン

鉛筆とボールペン、それは僕の両足。 右足は鉛筆で、左足はボールペン。 太さも濃さも不規則な鉛筆は、 いつも僕の一歩目。 そんな一歩目を補うように、まとめるように、 次に続くはボールペンの二歩目。 こうして僕は前に進んでいく。 一本の棒は前には進まない。 肉体が中心から枝分かれしたおかげで 僕たちは前に進める。 感情の発露だけでもいけない。 整えられた合理性だけでもいけない。 僕たちはきっとこれからも両足で前に進んでいく。 いや、そうして進んでいくべきだ。 全自動前進装置に乗っ

【詩】距離

夕方 突然に輝きだした空 何もせず終わりかけた週末を 取り返そうとする私のよう—— その輝きは美しすぎた 心をよせた私の姿とは あまりに対照的なほど これまでの曇り空が、 急に苦節に思えてきて 絶望がそっと私に囁く 実際の距離と同じように ほのかに抱いた親近感が 劣等感へと伸びていった

【詩】部屋と二人

こんなに狭い部屋なのに 二人ではさらに狭く感じます。 あなたの布団は一人分なのです。 家賃を払っていなくても、 あんなに狭かった部屋が 今は布団一枚分、広く感じます。 家賃も払っていなかったし 私の生活は特に変わりません。 たしかに広い部屋だけど なぜか広すぎるように感じます。 私の生活が変わらなすぎたせいか 空いている場所がいつもあります。 こんなに広い部屋なのに 私の居場所は小さく感じます。 代わりにあなたの居た場所が とても大きく見えています。