見出し画像

家畜志願

「お前、それでも平気なのか?」
 今川はいった。
「なにが?」
 佐藤は答える。
「なにがって……。お前、彼女にいいようにあしらわれてるだけじゃないのか」
「あしらわれる? オレが?」
 佐藤は見くだしたような笑みを浮かべる。
「お前、オレに嫉妬してるんじゃないのか」
「嫉妬?」
「そうだよ。同い年の古女房とマンネリな生活を送っているお前と、ひとまわりも年下の彼女がいるオレと、はた目から見れば、オレの方がうらやましがられるのは当然だ」
「だれが、お前なんか」
「じゃあ、いらぬお節介はやめてくれ。少なくともオレは、いま幸せの絶頂にいるんだから」
 そういい残して佐藤は立ち去る。今川はそんな佐藤の後姿を、黙って見送るしかなかった。

 派手なタイプの今川と内気な性格の佐藤。今川は営業、佐藤は総務と配属された部署は違ったが、なぜか気が合い、同期で入社した当初から友人関係はつづいていた。
そんな佐藤の彼女、加奈子は、つい最近、総務に雇われたパート従業員だ。
 年齢は34歳。端正な顔立ちに、小柄ながらもダイナミックなスタイルをしている。声はアニメの声優のように甘く、甲高く、舌足らず。
佐藤はそんな加奈子を一目見た瞬間、心に鋭利なものが突き刺さるような感情をおぼえたのだった。
 中学、高校と男子校に学び、大学も工学部で、佐藤は女性と知り合うきっかけが少なかった。そのうえ人間嫌いの性格も災いし、引きこもりがちな青春時代を送った。
 そんな彼にとって、女性は娼婦か聖女にはっきり区別される。そして彼が抱く聖女のイメージとは、つつましやかで汚れを知らないお嬢さまか少女であり、つまりは40代半ばになっても、いわゆるキモオタでしかない。
さすがに中年の域に達すると、すべての女性は娼婦性も聖女の条件も持ち合わせていることくらいわかってはいた。それでも、つき合う、もしくは結婚するとなると理想を追求してしまう。
だから、佐藤は長く童貞で、性欲はもっぱら自慰行為で解消していた。
 そんな佐藤は、加奈子に一目ぼれしてしまった。
少女のように可憐な笑顔、失敗したときに見せる甘えた表情。困ったときは上司である佐藤に頼り、相談するときは密着寸前まで身体をすり寄せてくる。
「いやあ、今度のパートは当たりだよ」
 昼食時の社員食堂で、佐藤は今川にいう。
「なんだか、オレにも春がきそうだよ。今度、はっきりしたら紹介するよ」
 佐藤は快活に笑い、今川はただ、ぼう然と見守るしかなかった。

 どんなに思慕をいだいたとしても、勤務中は上司と部下という関係だ。加奈子と出会ったころの佐藤には、まだ分別があった。
しかし、日がたつにつれ、加奈子に対する態度は変化しはじめる。
 頭の中では上下関係を維持しようと努めるが、加奈子は必要以上に懐いてくる。仕事以外のプライベートな相談ごとも増え、二人きりで喫茶店に出向いたり、飲みに出かけたりする機会も増えた。
 そうなると、佐藤はますます加奈子に夢中となり、加奈子のほうも、まんざらでもないそぶりを見せる。
 最初は見て見ぬふりをしていた今川だったが、あまりにも目にあまるようになる。また、上司の指示もあって、佐藤と加奈子の動向を探るようになった。
 加奈子はバツイチだった。過去を調べると、どうもその原因は彼女の浮気らしい。しかも相手は、前に勤めていた会社の上司だ。
学生時代の情報も入手した。それによると、いい寄る男は数知れず、彼女もつき合う相手をとっかえひっかえ、何度か修羅場も経験しているらしい。
「こりゃ、たいしたタマだ」
 そこで今川は疑問をおぼえる。そんな加奈子が、どうして佐藤を選ぶのか。
「カネか」
 佐藤は総務の課長という役職にあり、独身ということで貯えは多い。
「なるほど。見た目よりも実をとったわけか」
 それならそれでいい。お互い満足しているのなら、口をはさむつもりはない。
しかし、これまで真面目に勤めあげた友人が、ホレた女のために地位も名誉も財産も失うのはしのびない。
「しかたない、ここは一肌脱ぐか」
 今川は、そう決心するのであった。

 加奈子と佐藤の関係は、ますます深みを増していった。
加奈子は昼食用の弁当をつくり、休日には佐藤のマンションを訪れて掃除洗濯もかって出る。まるで世話女房のように。
「どうして、わたしなんかに」
「だって課長さん、なんだかかまってあげたくなるタイプなんだもん」
「そうかなぁ」
「なんなら、毎日でもかよってきてあげる」
 いたずらにほほ笑む加奈子。佐藤はその一言に、有頂天となってしまった。
 もはや歯止めのきかなくなった佐藤は、場所も時間もはばからず恋愛感情をあらわにした。
 加奈子が雑誌やテレビを見て、ほしいとつぶやいたアクセサリーや洋服は、すぐに買いあたえた。一人で街を歩いていても、加奈子の好みそうなものを見つければ購入する。
そして、すぐにでも加奈子のよろこぶ顔が見たくて、朝一番のオフィスで手わたす。
 加奈子も佐藤からのプレゼントに素直な感激をあらわにし、仕事中にデートや部屋をたずねる約束をする。佐藤の部下の中には苦言を呈するものもいたが、当の二人は聞く耳を持たない。
「ねえ、今度の土曜日、課長の家にお泊りしていいかしら」
「ほ、本当に!」
「だって、課長のこと考えたら、一人で眠るのがさびしくって」
 佐藤が半狂乱状態でよろこんだのは、いうまでもなかった。

 土曜日がやってきた。加奈子は急用ができたため、夕方にたずねてくるという。
佐藤は朝から風呂に入って入念に身体を洗い、新しい下着にはきかえ、部屋の中を丹念に掃除した。
「けど、初めてだから、早くイキ過ぎる可能性もあるな」
 準備を整えた佐藤は思う。
「1発ヌいておこうか。いや、それもなんだかなぁ」
 そんなことを考えて佐藤が悩んでいるころ、加奈子は喫茶店で今川と向かい合って座っていた。
「急に呼び出してすまない。じつは……」
「佐藤課長のことですか?」
 加奈子は平然とした表情でいった。
「わかっていれば話は早い」
「わたしたちが人目をはばからず、イチャイチャしてるんで、注意したいんでしょ」
 今川は刹那、言葉を失う。
「それがわかっていれば……」
「もう少しだけ、見過ごしてください」
「え?」
「結果は、すぐに出ます」
「どういうこと?」
「ですから、時間がたてば結果は出ます」
 普段の加奈子とは、人が違ったような冷静で落ち着いた口調と素振り。
今川は、何も話せなくなる。
「もう、いいですか? 約束がありますから」
 あ然と見つめる今川から視線をはずし、加奈子は席を立とうとする。
「あ、ちょっと」
「まだ、なにか?」
「ひとつだけ教えてくれ。あんた、どうして佐藤を」
「それも、すぐにわかります」
「やっぱり、カネか」
 加奈子は不敵な笑みを浮かべる。
「ひとつだけ」
「え?」
「ひとつだけヒントを。佐藤課長、あの歳で童貞なんですってね」
「え、ああ……」
「ふふふ」
 加奈子は席を立ち、その場を去った。今川は左右に揺れる彼女のヒップラインを見つめ、見送るしかなかった。

「お待たせ」
 チャイムが鳴り、佐藤があわててドアを開ける。そこには加奈子が、はにかんだようすで立っていた。
「どうぞ、どうぞ」
 佐藤は大げさな素振りで招き入れる。
 リビングに通された加奈子は、初めて訪れたときのように落ち着かない態度を見せた。
「どうしたの?」
「だって」
「だって?」
「きょうが二人の記念日になると思ったら、なんだか……」
 上目づかいで佐藤を見つめる加奈子。それだけで佐藤の心拍数は急激に上昇し、下半身がうずきはじめる。
「いい日にしましょうね」
 加奈子は甘えた声でささやく。そして佐藤の胸に飛び込むと、あごをあげて目を閉じた。
「か、加奈子さん」
 佐藤は彼女の名前を呼んで、軽くせき払いし、そっと唇を重ねる。
 そのまま、二人は折り重なってソファーの上に倒れこんだ。
あこがれつづけた柔体をむさぼることができる。そんな思いを充満させた佐藤は、乱暴に加奈子の衣服を脱がそうとする。
「ま、待って」
 あせる佐藤を加奈子は制した。
「こんなのはイヤ」
「え?」
「ちゃんとベッドの上で愛し合いたい」
「そ、それは、そう……」
「それに」
「それに?」
「きれいなわたしを見てほしいの」
 すねた表情で話す加奈子。
「そ、そうだね」
「先にシャワー、浴びてきていい?」
「あ、ああ」
 ふくれあがった股間を持てあましながら、佐藤は身を離した。
「あせらないで。わたしはどこにも逃げないわ」
 加奈子は佐藤のほほに軽く唇当て、ささやいた。
 先に加奈子がシャワーを浴び、交代で佐藤が浴室に入る。
湯を浴び終えた加奈子は、バスタオル1枚を身体に巻きつけ、寝室に向かう。そのときに見た湿り気を帯びた素肌やこぼれ落ちそうな乳房の形に、佐藤の劣情はピークに達した。
「やっと、この日が訪れたんだ」
 待ち望んだ瞬間が、すぐ目の前に到達した。これまでの人生、カネで欲望を満たそうとも考えた。けれど、堕落した相手と交われば、自分自身もケガレしまう。
そんな思いが佐藤にはあった。
「加奈子さんは、加奈子さんは……」
 興奮と期待、そして望みどおりの相手とめぐり合えたことに、佐藤は感動すらおぼえてしまう。
「神さま、仏さま」
 佐藤は天をあおいで、感謝の意を示したのだった。

 身体のすみずみまで洗い終えた佐藤は、寝室へ向かった。
加奈子は布団の中にもぐり込んでいる。
佐藤は、そっととなりにすべり込んだ。
「加奈子さん」
「佐藤さん。加奈子、恥ずかしい」
 加奈子がバツイチであることを佐藤も知っていた。当然、処女でないことも承知している。
唯一、それが悔やまれる点ではあるが、この場にいたれば関係ない。
 佐藤は加奈子を抱きしめた。なめらかでやわらかで、温かな感触が身体全体に伝わってくる。
「やさしくしてね」
 加奈子は、いまにも泣き出しそうな声で告げる。
佐藤は無言でうなずき、キスをする。そして、震える手で加奈子の乳房に手を伸ばした。
 同じ人間の部分とは思えない柔軟さが、佐藤の手のひらにひろがった。そして、ボリュームのある質感に、興奮はいっそう高まる。
それでもあせりは禁物と、佐藤は自分にいい聞かせる。そして、いままで雑誌やネット、アダルトDVDでたくわえた知識をフル動員させて愛撫をはじめた。
「ゆっくりと、ていねいに」
 薄い闇の中で、加奈子の肢体は光沢を放つように白く浮かびあがる。
こんもりと盛りあがった乳房に、小ぶりな乳首。吸いついて舌で転がせば、加奈子は切ない吐息を漏らして身悶えする。
「あん、いや……」
 全身をおおう上質の脂に、艶美を示すなだらかな曲線と起伏。
早く突き入れたい衝動を必死に押しとどめ、佐藤は加奈子の陰部に手を伸ばす。
「あ、ダメ、そこ……」
 加奈子は身をよじる。佐藤は茂みをかき分け、裂け目をなぞり、そして内部に中指をしのばせた。
 加奈子の肉筒は潤みを帯び、窮屈な締めつけで佐藤を迎え入れる。膣壁のざらりとした部分をさすれば、大きく口を開けて加奈子は甲高い嬌声をあげた。
「ああああん、そこ、感じちゃう、いやん、そこ、あん」
 内部を攪拌しながらクレパスの上部にある陰核を探る。加奈子は蜜を大量にあふれさせながら、薄く目を開けて佐藤に哀願する。
「お願い、はやく、はやく」
「いいんですか」
「いいの、はやく、はやく加奈子とひとつになって」
 その言葉に、佐藤の中で何かがはじけた。
用意していたコンドームをはめ、夢中になって怒張した一物を突き入れようとする。しかし思った以上に陰茎の先端は鈍感で、探り当てようとする部分がどこにあるのかわからない。
「はやく、ねえ、はやく」
 ねだる加奈子。佐藤は加奈子の股ぐらをアチコチ突く。それでも佐藤のモノは、加奈子の内部に侵入を果たさない。
「もう……」
 加奈子は、佐藤に気づかれないよう小さくつぶやいた。そして佐藤に手をそえると、自ら中へ導いたのだった。
「あ……!」
 ぬるりとした感触が伝わったかと思うと、そそり立つ茎の周囲をうねうねとした粘膜がおおいつくす。えぐり取るように挿入を果たした肉棒に内部の襞がまとわりつき、圧力を加えてくる。
 あまりの心地よさに理性を失った佐藤は、欲望のままに加奈子をつらぬき通す。
激しく性急な抽送。
余裕のない動きは、かえって加奈子の快感も高めてしまう。
「やだ、すごい……」
 経験豊富な加奈子は、やさしいだけの行為に飽きをおぼえていた。まるでレイプされるような、わがままで単純で強烈な刺激を求めている。
佐藤は、そんな加奈子の欲求をかなえてくれる。
「うん、すごい、もっと、もっと」
 身体の奥底からわき起こる快感。もう少しで没頭できそうだと加奈子は思う。
しかし佐藤は、ガクガクと腰を振りつづけたあと、いともたやすく頂点に達してしまったのだった。

最初はあっけなく終わったが、その日は朝まで佐藤が求めるままに加奈子は応じた。
絶倫の佐藤は、2度や3度では飽き足らず、都合4回、加奈子を求めた。しかし、突き刺し往復するだけの行為に、さすがの加奈子も苦痛をおぼえる。
「けれど、これでこの男はわたしの言いなり」
 翌日、適当な言いわけをして佐藤の家を加奈子は離れた。
股間にいやな鈍痛を感じながら。
加奈子と一夜を過ごしてから、佐藤はもはや、身も心もぞっこんになってしまった。
 部屋に一人でいると、加奈子の姿とあたえられた感触を思い出し、ついつい股間に手が伸びる。
会社では加奈子の姿を目で追いつづけ、仕事はうわの空になる。
逆に加奈子は、そんな佐藤に対して冷たい素振りを見せるようになった。
「どうして」
「だって、うわさになれば、困るのは課長のほうですよ」
「じゃあ、仕事のあとなら」
「そうですねぇ」
 加奈子は少し考えるふりを見せる。
「どうせなら、一緒に住みましょうか」
「本当か!」
「でも、条件があります」
「条件?」
「いまの課長のマンション、二人で住むにはせまく思いません?」
「え、そうかなぁ」
「わたしは、もっと広くて、景色のいいところがいいな」
 加奈子にねだられるまま、佐藤は新しいマンションを契約し、引越しする。
「二人分の買い物するには、クルマも必要よね」
「クルマの免許は……」
「わたしが運転するから。でも、ちゃちな国産車はいや。やっぱりベンツかしら」
 佐藤は定期預金を解約して、加奈子の望む車種を用意した。
 加奈子の望みをすべてかなえ、晴れて二人は同居するようになる。
 仕事をする必要のなくなった加奈子は、パート勤めを辞めた。佐藤は一人部屋で待つ加奈子のことが気がかりで、やはり仕事が手につかない。
見かねた今川が注意をしても、軽くあしらわれるだけだ。
「オレは幸せなんだ。邪魔しないでくれ」
 佐藤は自分なしでは生きられない。そう判断した加奈子は、セックスでも本性をあらわす。
「さあ、キレイにしなさい」
 1日中ブーツをはいてムレた足を差し出し、加奈子は佐藤に舐めるよう命令する。
「どう? わたしのにおい」
「す、すばらしいです」
 佐藤はまったく嫌悪を浮かべず、指の1本1本を舐りつくす。
「よけいなこと、しないでね。動いちゃダメよ」
 性欲だけを都合よく満たしたいとき、加奈子は佐藤の手足を縛り、あお向けに寝かせて犯した。
そそり立つ一物だけを迎え入れ、腰を振る。
「きょうは中で出してもいいから」
 生理の日でも、もよおすと加奈子は佐藤を求めた。
経血で陰茎を血まみれにしながらも、佐藤は加奈子を満足させるために抜き差しをくり返す。そして、生での挿入と射精を許してもらえる代わりに、部分を口でぬぐうことを命じられる。
 口いっぱいにひろがる、魚のはらわたのようなにおいと鉄の味。
それでも佐藤は悦楽を感じていた。
 もともと淫乱な加奈子は、佐藤を玩弄することに楽しみをおぼえた。
裸にむいた佐藤を四つんばいにし、尻の穴にキュウリやナスを入れて楽しみ、縄で縛り、ムチで打ち、ロウソクを垂らし、亀頭に針を突き刺し、乳首にピアスを通していたぶる。
「ハハハハ、ああ、楽しい。アンタの苦しむ顔、見るの、おもしろ~い」
 糞尿を食べさせる。ドッグフードをあたえる。卑屈なポーズを写真にとって、SNSに投稿する。
 加奈子は、思いつくままの虐めを佐藤にあたえた。しかし、屈辱に歓びを感じはじめる佐藤の態度に、次第に飽きもおぼえる。
「なにかもっと、この男を苦しめるプレイはないかしら」
 そんなとき、今川から加奈子に連絡があった。

「佐藤、最近は満足に会社に顔も見せないし、久しぶりにきたと思えば、ゲッソリとやせている。いったい、あんたらどんな生活を送ってるんだ」
 会社近くの喫茶店で、今川は加奈子につめ寄った。
「ごく普通の生活よ」
「ウソつけ」
「ウソじゃないわ」
 ふてぶてしい態度をとる加奈子。今川は大きく腕を組み、ため息を吐く。
「あいつには貯金がたっぷりあって、しかも童貞だから、一度身体を許せば言いなりになる。そういう魂胆だったんだな」
「おっしゃるとおりよ」
「バカだな、佐藤も。こんな女狐にたぶらかされるなんて」
「あら、ひどい言われようね」
「けど、そのとおりだろ」
 加奈子は、薄く笑って紅茶のカップを口に運ぶ。
「そのとおりかも。でも、わたしにはそれだけの魅力があるってことよ」
「魅力?」
「そう、知りたい?」
 妖艶な眼差しで加奈子は今川を見た。そして舌なめずりをくり返し、乳房を強調するように前かがみになる。
「し・り・た・い?」
 小首をかしげてほほ笑む加奈子。その姿に今川は、思わずツバを飲み込んでしまうのだった。

「佐藤、これに署名して判を押せ」
 直属の上司に呼び出された佐藤は、差し出された書面に目をとおす。それは退職願だった。
「無断欠勤、職務怠慢。本当はクビにしたいところだがな」
 佐藤は一言も抗弁を述べず、言われるままサインをし、三文判を押した。
「加奈子、加奈子……」
 もう会社にいく必要はなくなった。これからはずっと一緒にいられる。
それを告げようと急いで帰宅した佐藤。部屋のドアを開け、自分を待っているであろう愛しい女の名を呼ぶ。
「加奈子……!」
 そのとき、佐藤が目にしたのは全裸で男に絡みつく加奈子の姿だった。そして、その相手は、唯一の友人であるはずの今川。
「あら、はやいのね」
 加奈子は平然と言ってのける。
「今川……」
「佐藤、お前が夢中になるのもわかるわ。いい女だよ、加奈子は」
 加奈子をひざの上におき、今川は乳房に吸いつく。加奈子の部分には、屹立した今川の男根がめり込んでいる。
「締まりといい、蜜の量といい、最高だ」
「今川、お前!」
 佐藤は二人を殴りつけようと駆け寄る。けれど加奈子の言葉が、佐藤の動きを止める。
「結婚しましょう」
「え?」
「結婚するのよ、わたしたち」
「わたしたちって」
「もちろん、あなたとわたし。死ぬまでずっと一緒に暮らすの」
「結婚、オレが……」
「そうよ、そう、だから、我慢してね。わたしのわがまま」
「か、加奈子……」
「一人の男じゃ満足できないの、わたしの身体。だからこうして……」
 加奈子は今川の上で大きく身を躍らせた。
「そ、そう、こうやって、いっぱいいろんなこと楽しみたいの。それを許してくれるんなら、死ぬまで一緒にいてあげる」
「本当か」
「ほ、うん、本当よ、あなたはわたしのもの。そして、うん、わたしはあなたのもの」
「加奈子……」
「こんな、あああん、こんな、いやらしいわたし、きらい?」
「いや、愛してる。お前なしで生きていけない」
「でしょ、だから、やああん、いい、いい、うん、ダメ、やん、もっと、もっとぉ!」
 今川は激しく加奈子を打ちあげた。呼応して、加奈子も前後に腰を振る。
そのようすを、じっと見つめる佐藤。
「加奈子、オレのこと……」
「す、好きよ、大好き、やあああん、すごい、ステキ、やあん、イク、いっちゃう!」
 職を失い、そのうえ加奈子までも失うことは耐えられない。
彼女が自分を愛してくれるならそれでいい。たとえ何があっても、ずっと一緒に生きられるのなら、何があっても我慢できる。
「そうだ、なんでも平気だ、たとえ……」
 たとえ友人と交わっていても、見知らぬだれかと身を重ねていても、加奈子の口から愛しているといってもらえるのなら我慢できる。
「そうだよ、加奈子。きみはボクだけのものだ。なにがあっても」
 今川も達した。寸前に抜き出されたペニスは加奈子の口に納められ、白濁の粘液が放たれる。
加奈子は最後の1滴まで受け止め、うっとりとした表情で飲み込む。
 口の端から、よだれに混じって残液が糸を引いて垂れさがる。
紡錘型の乳房に垂れ落ちる精液。
 そんな加奈子の姿を見て、佐藤は麗しいとさえ思ってしまうのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?