東京脱出

〰️今までの人生で大きな決断ってありますか?

　はい、あります。私は元々、Ａ県出身なのですが、大学入学から就職して30代前半まで東京（周辺都市含む）に住んでいました。そして、結婚したのを契機として地元に戻りたいと思うようになったのです。

〰️どのようなきっかけがあったのですか?

　東京にいても、大学時代にできた交友関係もあったし、就職してからは仕事もありました。住んでいるところも、賃貸でしたが商店街に近くて買い物にも便利でした。
　でも当時、ワンルームでも月8万でしたし、将来マンションを買うにしても相当な額するし、郊外から通うとしても過酷な満員電車を耐えなければなりません。加えて、首都圏で地震などの大災害が起きると、人口が多い分被害も大きいと思っていました。

〰️それで、実家のあるＡ県に帰りたいと考えるようになったのですね。

　はい、そのとおりです。
　独身であれば、グズグズとワンルームの賃貸に住み続けたかもしれませんが、結婚したので将来のことを考えるようになったのです。子どもができたらワンルームでは狭いのでより広い賃貸に引っ越すことになるだろう。月の家賃は10万を越えるだろう。大地震が起きても、身内がいない（周辺都市には居た）ので心細い。
　Ａ県では東京のワンルームと同じ額で、2DKが借りられる。子どもを育てる環境も東京と比べたら恵まれている。駐車場代も安く、クルマを持てるし、良いことづくめに思われました。

〰️地方への引っ越しは、スムーズに進みましたか?

　いえ、そんなことはありません。
　自分で言うのもなんですが、職場でけっこう欠かせない存在だったので、なかなか上司に伝えることができませんでした。自分がその職場に採用されるにあたって、救ってくれたような存在だったので、恩を仇で返すような気がしていたのです。

〰️それはなかなか大変ですね。

　非常に悩みました。１年は悩んでいたと思います。その間にも、Ａ県の情報収集は行っていました。自分の出身県とはいえ、高校までいただけだし、県庁所在地の市は部活の県大会で行ったことがあるだけで、まったく土地勘もなかったのです。転職先はそこしかないとわかっていました。地元の将来性という点でも、新空港建設の話題が持ち上がっていることを本屋の立ち読みで知りました。
　今でもなぜかわからないのですが、結局、この情報が自分の決断を後押ししたのだと思います。「地元経済は盛り上がっている。今決断しなければ、一生ここ（首都圏）から逃れられない。そして、一生後悔する」と。
　そしてまず、実家に帰った際に両親にその考えがあるという話をすると、喜んでくれました。転職雑誌で見つけた目ぼしい会社に連絡すると、是非前向きに考えて欲しい旨の返事がありました。その手応えを得て、ついに上司に話したところ、そんな経営基盤の弱いところでは将来性がないし、今やってる仕事を途中でほっぽりだすことは許せないと反対されました。では、Ａ県にある「系列」に異動させてくれませんかと頼んでみたのですが、今やってる仕事に対して責任感のない奴を紹介する訳にはいかないと即却下されました。（後で本人から聞きましたが、その「系列」とは、経営が違うので最初からムリだったようです）
　結果的には、私の将来に対する「決意」を認めてくださり、転職が実現しました。

〰️それで、生活は変わりましたか?
　
　それはもう。劇的に変わりました。
　まず、家賃が安い、広い。安い駐車場を借りて、クルマもゲット。休日には、クルマで一週間分の食材を購入する生活。肝心の職場には恵まれず、転職を繰り返し、「辛酸を舐め」ましたが、これも地方都市に定着するための「禊」だと思うようにしました。そして、現在は安定した職場に勤めています。
　実家にも、東京時代は「憂鬱になりながら」満員の新幹線に乗って盆と正月だけに帰っていたのが、いつでも思い立ったらクルマで1時間以内に帰れるようになり、人間らしいと思える生活を送れるようになりました。

〰️それはよかったですね!
　
　何より、子どもを安心して育てられたのがよかったですね。実家の母親にも助けてもらいましたし。実家が近いというのはとても安心感に繋がります。今では年老いた親の世話を弟夫婦と一緒にできています。
　とても、地味な幸福感ですが、自分のあのときの「決断」があってこそ得られた「宝」だと思っています。
　
〰️ありがとうございました。

　こちらこそ、ありがとうございました。

※「〰️の部分」は、もう一人の自分がインタビューするという形にして、答えやすくするという試みでした。
　ここまでお読みくださり、まことにありがとうございました。

Ｐ．Ｓ
後日縁あって、例の「新空港」の初代社長とお話する機会があり、自分のUターンのきっかけになり感謝します、と謝意を伝えたところ、「こちらこそ、いい話をありがとう。空港を転職先として考えてくれなかったの？」と意外な答えをいただきました（感謝）。

#自分で選んでよかったこと