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日本とヨーロッパのイラストの仕事は全く違うよという話 その2

夫の転職に伴い、ドイツに3年家族で住むことになった。一度は海外生活をしてみたかったので、その話を聞いた時は本当に心が躍った。しかも3年!長すぎず短すぎずいい感じじゃないの!しかも私はフリーランスのイラストレーター。メールで全てやりとりがこなせる。これは結局どこに住んでいても仕事が取れるというわけだ。海外赴任が決まった場合、奥さんはキャリアを捨てて同行するという話をよく聞く。でも私はその心配がない。最高じゃないか。しかもドイツでも仕事が取れるかもしれない…そう思うと、もう喜びしかなかったのである。いやあ〜、甘いね。当時の私(笑)。

ドイツでは2年以上滞在かつ就労証明がない場合、ドイツ語教室に通わされB1レベルという基礎レベルのドイツ語の試験に受からねばならない。「基礎」といっても侮るでなかれ。(週5日、1日3〜4時間、8ヶ月通って受けるレベルの試験である。ヒアリング、スピーキング、作文、リーティングの4種類。想像する以上に難しいですよ!)

というわけで私は語学学校に通いながら、子供の幼稚園や小学校を探す日々。我が家は駐在ではなかったので、インターナショナルスクールに入れるなどの選択肢は全く必然的に公立の現地校へ。慣れないドイツ語やドイツ文化に奮闘しながら、子供を幼稚園や小学校に通わせ、家に帰れば子供の日本語の勉強もみる。大変ではあったがその合間にちょこちょこと連載の仕事も継続してやっていたし、それなりには充実していた。

が、だんだんオファーが来なくなる。

イラストの仕事というのは「人との繋がり」で得られるものも実は多い。もっとクライアントさんにマメに接していたりコンタクトをしていればまたちょっとは変わったのかもしれないが(そして実力も伴っていれば違ったかもしれないが)、日々の生活に追われ、私自身だんだん日本の仕事を受けることも面倒になってしまった。そうしたオーラが先方に伝わってなのか次第に仕事も減っていく。というかドイツ生活に自分が馴染むということ、そして異国での子育てのことでとにかく頭がいっぱいになり、正直いうと仕事どころではなくなってしまっていった。一時期は自分がイラストレーターだったことも忘れてしまったくらいである。

が、それでも幸せだった。大変だけど子供との時間がたっぷり取れたし、夫も日本時代に比べて信じられないほど早く帰ってくる。家族で毎日夕食をとり、安くて美味しいビールやワインを飲み、美味しいチーズやハムをつまむ。広いお宅の友人とホームパーティをしたり、長期休暇には近隣のヨーロッパに旅行もたくさんした。穏やかで充実した日々。うん、理想通りじゃないか!

よし、そろそろイラストの仕事も始めよう。せっかくだからドイツで仕事なんて取れたらいいな。まずはリサーチだ!一体ドイツにはどんなイラストが使われているのか!?

まず、言えることはドイツでは圧倒的にイラストを使う機会が少ないことだ。というかドイツは何においてもとにかく「種類」が少ないのである。ファンタ発祥の国であるのにもかかわらずオレンジ味しか見たことがない。

よく言えば素朴で商業的要素が少ない、悪く言えば刺激がとても少なくて退屈な国なのである。なので本屋に行っても日本のように2ヶ月後には目新しい本が並んでいる、なんてことはない。いつ来てもほぼラインナップに変化がないのだ。信じられないことだが、日本で一時期流行った「グレッグのダメ日記」や「ハリーポッター」なんかが未だに平積みで店の一番目立つ場所に置かれている。

また日本ですっかり定番である、エッセイ漫画などはまずない。実はドイツでは最近日本の漫画は人気なので、漫画コーナーはあるのだが、あくまで漫画は「漫画」。本と漫画の世界はくっきり分かれているのである。そしてこれまた日本での定番のハウツー本や啓発本、ビジネス本。あるといえばあるのだが、出版の敷居は高いので、日本のように素人の投資家やブロガーの本、またキャッチーなタイトルだけで中身が全然ないような本は見たことがない。絵もあってもアーティスティックなイラスト程度だけである。

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*ドイツの本屋さんの漫画コーナー。翻訳された日本の漫画がずらり。

では結局イラストはどこに使われているのか?

小説や一般の書籍の表紙にはデザイン性の高いアーティスティックなもの、そして児童書や幼児書、絵本。そんなものだ。

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*子供の本もアート性の高いものが多い。

だったら日本のコミックエッセイなんて流行るのではないか?と思われる方もしれない…が、ドイツ文化を知ってしまった今の私としては答えはNOだ。

ドイツの大人は「大人」なものを好む。またアカデミックであることを好むので、大の大人が本を読まずに、エッセイ漫画を読んでいるというのはちょっと信じられないと思われるかも知れない。日本では小難しい文学や伝記、社会問題なども漫画にしてみたり、また一般のビジネスでも漫画やイラストで簡易化を図り、敷居を低くすることでターゲットを広げて売り上げを上げるというのは一般的な手法であるが、ドイツではそんなことはしない。そうした難解なことを理解できる人こそがインテリであり、それがその人の誇りでもあったりするのだ。非常に硬い考えにも思えるが、要は大人は大人の領域を崩さないで守る、という意思の表れでもあると感じられる。

というわけで本屋さんに私が今まで仕事をしていたようなイラストは全く見つけられなかった。ちなみに広告もほぼ写真だけで絵が使われる機会はほとんどない。つまり私の今まで描いてきた私の絵はドイツでは通用しないということになる。まあ、薄々は知ってたんですがね。。。

3年の予定だったドイツ滞在も気がつけば4年目に。(最終的には6年近く滞在することになる)日本の時と同じスキルでドイツでも通用するエンジニアの夫。いや、英語もメキメキ上達し、気がつけば日本時代以上に夫は目覚ましくスキルアップしていた。一方で仕事が来なくて燻る私。永住するわけではないのだからいいのかもしれない。でも日本に帰ってまた仕事が来るのだろうかと心配にもなった。そして私はすっかりヨーロッパ生活が気に入ってしまっていたので、なんなら永住してもいいやと思い始めていた。が、それは夫なしでは実現不可能なのである。

気がつけば夫はドイツに永住しようと思えばできるスキルを手に入れていた。英語が上達したのでドイツ以外、おそらく英語圏でも大丈夫だろう。でも私にはできない。ドイツでは働けないのだ。英語もドイツも中途半端。しかもこの国で通用する特別なスキルもない。そう思うとなんだか絶望的な気持ちになった。

その3に続く



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