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アイリッシュ音楽×バロック音楽のとあるCD

*この記事は、アイリッシュ音楽にある程度親しんでいる人向けに書いてあります。

こんにちは。新型コロナの流行で、去年の秋には微塵にも思わなかったような状態ですね。家にいる時間が長くなる今日この頃です。

軽く自己紹介します。石井亜季と申します。しがない大学生です。アイリッシュ音楽は、二年ほど前に知って大好きになりました。ボタンアコーディオンを弾いたりします。普段は、ネット上の演奏動画を漁ったりしながら楽しんでいます。

たまたま見つけた面白いアルバム

先日、「ピアノでアイリッシュ弾いてる動画ないかな〜」と思って、いつものごとく動画を漁っていたら、ピアノじゃないですが、とても興味深いものを見つけました。(他にも面白い動画見つかったので、次回以降、それについて書きたいと思います!)

その、興味深いもの、とは…

チェンバロでアイリッシュ音楽を演奏しているアルバムがあったんです!

(私は、こういうCDは初めて知ったので、驚きでした…)

*チェンバロとは
鍵盤を用いて弦を弾いて音を出す鍵盤楽器。Cembaloは独語。英語(harpsichord)、仏語(clavecin)。西洋クラシック音楽のうちでルネサンス音楽、バロック音楽、現代音楽に用いられる。

そして、チェンバロは私が好きな楽器の一つです。(全然まともに弾けませんが)

こんなにユニークなことしてるアルバムあったんですね…その名も…

“Ireland’s Enchantment” 

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演奏は…

“Emerald Baroque” 

という古楽アンサンブルです。もう名前がオシャレですね…。古楽アンサンブル、ということで、チェンバロだけでなく他の楽器もアイリッシュ音楽の楽器ではありません。メンバーと楽器は、

Laura Justice (recorders),
Farran Scott (baroque violin),
Jennifer Bullock (viola da gamba, cello and psaltery),
Breda McKinney (soprano)
Bridget Cunningham (harpsichord)

です。(harpsichord=チェンバロ)

*チェンバロ以外の楽器の簡単解説
recorder : エア・リードの木管楽器。古楽で用いるのは、バロック式といって、現在日本で音楽教育に用いられている20世紀に開発されたジャーマン式とは音孔の開け方が異なる。
baroque violin:モダン・ヴァイオリン(現在使われているバイオリンやフィドル)の祖先
viola da gamba:伊語で「脚のヴィオラ」。サイズがいくつかある。
psaltery:プサルタリー。聖書や詩篇にも登場する箱に弦を張っただけの極めて原始的な弦楽器。のちに、ダルシマーやカンテレにも派生したとされる。(参考:Encyclopedia  Britannnca)

*そもそも古楽って?
Early music。中世音楽、ルネサンス音楽、バロック音楽を含む古典派音楽よりも古い時代の西洋クラシック音楽の総称。

メンバー全員がクラシック音楽とアイリッシュ音楽の両方にバックグラウンドを持っているようです。それにしても、音としては古楽のリコーダーとバロックバイオリンは、アイリッシュ音楽でいうフルート、ホイッスルとフィドルに相当していてアイリッシュ音楽がよくあいます。ヴィオラ・ダ・ガンバの音はアイリッシュ音楽には少し違和感がある気もしますが…。(私はヴィオラ・ダ・ガンバの音はすごく好きです。)

2010年にこのCDを出したようで、現在、AppleMusicやAmazonMusicにもあります。

YouTubeはこちら↓

いかがでしょうか?
チェンバロでアイリッシュ音楽って、アイリッシュ感があるかどうかは置いておいて、神秘的な響きで綺麗です。アイリッシュハープに似た感じもあります。チェンバロはハープと発音原理が一緒なので似た音が鳴るんです。古楽でもフォークでもない、不思議な形の音楽。

古楽とアイリッシュ音楽の似ているところと違うところ

アイリッシュ音楽を普段演奏する方々からすると結構違和感があるかもしれませんね。また、ダンスをする方々は、これでステップ、踏めそうですか?踊り出すような音楽とはいえないですね。この、不思議、な感じは何なのでしょうか。

古楽は、主に宮廷で演奏され、アイリッシュ音楽のようにパブで演奏されることはありませんでした。逆も然りです。互いに演奏のシチュエーションなどが一切交差することのなかった音楽なのです。バックグラウンドが全然被らない。それは、違和感でますよね。

でも、楽器が似ているんです。見た目だけでも、こんな感じ。

まず、トラヴェルソとアイリッシュフルート。

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↑アイリッシュフルート(上)とトラヴェルソ(下)(写真はどちらも知り合いからの提供)

続いて、リコーダーとティンホイッスル。

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↑ティンホイッスル(上)、リコーダー(下)(出典:名古屋大学古楽研究会ウェブサイト

そして、バロックバイオリンとフィドル。違いはいくつもあるのですが、見分け、つきますか?(特に弓を見るとわかりやすい)普段フィドルを弾いている方は気付くと思います。

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↑バロックバイオリン(左)、モダン・バイオリン及びフィドル(右)(出典:ハルモニア雑記帳

また、バロック期の演奏は、楽譜はありましたが、楽譜に書かれたこと以外にも装飾などをつける、という点、アイリッシュ音楽と似ています。(楽譜には、出す音の全ては書かれておらず、即興的な能力も必要とされた。)

似ているけど全然違う音楽が重なるとこんな不思議な感じになるんですね。面白い。

ただ、一つここで前提となるのは、「違和感」を感じるのは、おそらくアイリッシュ音楽を普段演奏したり聴いたりしている人。アイリッシュ音楽を聴いたことがない人は、これを聞いても、古楽の作品群のひとつだと思うのではないでしょうか。普段アイリッシュ音楽を演奏したり聴いたりする方には是非ともこのアルバムを聴いて不思議な感覚を味わっていただきたいのです!

このアルバムを作ったBridget Cunninghamさん

アルバムの話に戻ります。

これは、イタリアオペラ指揮者であり実力派チェンバロ奏者であり音楽学者であるBridget Cunninghamさんのプロデュースです。彼女は古楽が専門で、『水上の音楽』などで有名な作曲家George Frideric Handel(1687-1759)のダブリン滞在について研究し、“ Handel in Ireland vol.1”というアルバムも出しています。

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↑Bridget Cunninghamさん(出典:Discogs)

彼女のホームページもありますので、興味のある方はぜひ!


さて、このアルバム、ほとんどがアイリッシュ音楽の既存のチューンをもとにしていて、アイリッシュ音楽歴の浅い私でも知っている曲がいくつも入っていました。はじめは、私は珍しいものへの好奇心で聴いてみただけで、そもそも、比較的アップテンポのかっこいい曲が好きなのですが、なぜか最近はAppleMusicでプレイリストに入れて時々聴いてます笑

皆さんも好奇心が沸いたなら聴いてみてください!18トラックもあるので、知っているチューンだけでも!ちなみにこのアルバムでの私のおすすめは"Si Beog Si Mor"です。(本当にチェンバロの味が凄いのと、途中からの低音がとても不思議な感じがして面白い。)

次回は、ピアノとアイリッシュ音楽について(抽象的ですが、少しずつ書いていきたい)書く予定です。では!

参考:


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