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川上稔氏コラムと推理ADV

 筆者は推理ADVが好きです。なぜ好きかは説明できません。トリック?謎解き?どれも腑に落ちません。好きな理由はわからないままでした。
 無知を忘れたころに、SNSの更新しているとRTで川上稔氏のWeb連載がTLに流れてきました。
 創作活動25周年の節目に、Webコラムで創作術を書かれていました。

 著書を引用し作家人生を省みつつ、キャラクターアークからプロットまで包括的に述べています。アニメ経由で境ホラのみ原作4巻まで履修済の筆者は、つまり川上稔氏のことをほとんど知らずに読みました。以下、にわか読者の感想です。

著者の達した創作術と推理ADVの魅力が、自分の中で結びつきました

”仕込み”と、操作パート

 コラムにある戦闘の定義から決着のまとめを、引用させていただきます。

■戦闘は、手段を展開することで成立する。
・手段:何を用いて勝つか
:”仕込み”となる。
・展開:どのような流れで勝つか
:”仕込み”の影響を受ける。
:ページ数などによっては、”仕込み”に影響を与える。

■決着を納得させるためには、”仕込み”の積み重ねゲームを用いる。
:”仕込み”から、手段と展開を生むことが出来る。
※人によってはこちらの方を先に考えた方が楽。
:しかし手段と展開はページ数を想定するため、”仕込み”にフィードバックもあり得る。

戦闘描写や駆け引きの思案(前編)
「川上稔がフリースタイルで何かやってます。」

 物語的な戦闘展開を分解されています。戦闘終了までの駆け引きを、”仕込み”という言葉で表しています。ここでは、必殺技の修行・協力者の友情などの伏線がいわゆる”仕込み”だと思っています。この「”仕込み”の積み重ね」で決着は完成します。
 コラムでいう”仕込み”を引用すれば、推理ADVの操作パートを説明できます。
 犯人逮捕を「決着」に置き換えると、「”仕込み”の積み重ね」は事件の証拠集めに当たります。操作パートの完成度が高ければ、満足感のある事件解決に繋がります。名作と呼ばれる推理ADVは操作パートもおもしろく、ひとつひとつの”仕込み”が丁寧です。
 操作パートが作りこまれている「探偵・癸生川凌介事件譚シリーズ」を例に挙げると、コミュニケーションで得られる容疑者と関係者のキャラが決着に繋がります。”仕込み”は物的証拠のみならず、日常のドラマも含みます。推理の「決着」にともなう正義感あるカタルシスにも、推理ADVならではの不気味な”仕込み”が影響していると思います。推理ADV特有の不穏な演出・殺人犯の潜む街を駆け回る世界観さえ、拡大解釈すれば”仕込み”と呼べるのではないでしょうか。

”展開”と、裁判パート

 物語を決着まで進めるには何を視たらよいか、俯瞰的に説明しています。

マルガ・ナルゼ
「ええ。”展開”は、尺によって出来るものと出来ないものがあって、たとえば”手段”が”蓄積”や”応援”の場合、蓄積のための描写が必要になるし、応援に入るための前振りなども必要になるの。
 そして”展開”側でも”順当・抵抗・逆転”は、やはりお互いの攻防がある程度続かないと説得力が無いわ。
 そういった制約から、常に全てを選べるわけじゃ無いのよね。このあたりは、経験や、いろいろなものを見てきたかどうかで発想の幅が広がるから注意ね」

戦闘描写や駆け引きの思案(前編)
「川上稔がフリースタイルで何かやってます。」

 物語の物理的な尺(残話数・残ページ数)の制約下で、選べる演出は限られると注意がありました。”展開”に説得力を持たせる、前もって選べる描写を知る必要があるそうです。説得力ある”展開”には、ある程度の尺が事前に必要だそうです。
 尺のある攻防で思い浮かべたのは、「ダンガンロンパシリーズ」です。ここでいう”展開”の制約は、登場人物が減ることです。ゲームは犯人のみ脱出できるルールで、校舎に監禁された15人の高校生が暗殺しあいます。各チャプターで2~3人死にますので、後半チャプターは7人程度で犯人捜しをします。
 容疑者15人の裁判/7人の裁判は同じ尺にも関わらず、両方とも判決に納得できます。学級裁判パートは冤罪や裏切りからスタートし、白熱する攻防は希望を掴むまで続きます。”展開”の推進力に探偵キャラの成長・過去チャプターの悔恨が用いられ、少人数の終盤を乗り越えます。

”推理”と、異議あり!

 ”仕込み”の駆け引きを類型に分け、決着まで解説していました。分けられた4つの内に”推理”とあります。 

■推理
・戦闘中に、相手の”仕込み”を見破り、相手の”仕込み”を減らしていく。

・ある一定のタイミングで、相手の”仕込み”の根幹を見破り、相手が”仕込み”を発生できないようにする。

・自分が持つ”仕込み”総量に対し、相手は”仕込み”を発生できないため、逆転が生じる。

戦闘描写や駆け引きの思案(前編)
「川上稔がフリースタイルで何かやってます。」

 ”推理”の駆け引きと、「逆転裁判シリーズ」の遊び方が重なりました。法廷の駆け引きで犯人の”仕込み”を見破り、崩すを繰り返します。相手の”仕込み”をストップするには、度重なる有罪判決を覆し続けなければいけません。並行して、正しい証言を集めて”仕込み”を貯めます。壮大なBGMと派手なSEで、クライマックスは感動的に盛り上がります。
 トドメに”仕込み”を突き付けて犯人を追い詰めたとき、逆転裁判が起こります。まさに”推理”です。

感想

 解説とともに、過去に遊んだゲームの魅力を振り返りました。推理ADVの楽しみは、”推理”の爽快感を伴っていることに気づけました。
 コラムは引用した以外にも解説がなされており、どれもおもしろいです。みなさんも是非読んでください。

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