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檻の中 留置

↑前回の続きです。

※実体験につき、身バレ防止のため一部フェイクを入れております。

逮捕状が出て、しばらく取調が続いた。
取調室で待っていると、ノートパソコンを持った刑事と、若そうな男女の刑事、計3人が入ってきた。

「あなたの取調を担当しますTといいます。
後ろの二人は私の補佐を務めますK(男性)とS(女性)です」

Tと名乗った刑事は、後ろの若そうな刑事の紹介をしつつ、書類を何枚か出しながらノートパソコンを打ち始めた。
どうやら後ろの二人は新人刑事らしく、Tの打つパソコンの画面を食い入るように見たり、時折机の上に出した書類に目を移したりしていた。

Tは基本敬語で、時折タメ口で気さくに話してくれたが、取調の最中に横から不用意な口を挟んだKに
「そんな口の利き方をするんじゃない!」
と叱責する事がままあった。
警察官が犯罪者相手だからと言って、何もかも高圧的にしてはいけないのだそうだ。

そうしてその日の取調が終わり、私は署内の留置所に移されることになった。

手錠を架けられたまま刑事に同行され、分厚い鉄製のドアの前で壁を向かされて待っていると、T刑事が携帯でどこかに電話をしていた。
しばらくすると、鉄戸の向こうから「解錠ぉぉぉぉ!!」と大きな雄叫びが聞こえ、中から2名制服姿の警察官が出てきた。
T刑事達と警官は敬礼して、留置担当官へ私の私物などを引き渡した。

そこから手錠が外され、留置所の取調室に移された。
そこにいた留置担当官(以下A)は、一人は小柄だが制服の上からでも分かるほど引き締まった体をしており、両手の指の付け根には素人でも分かる程の強烈な拳タコがあった。
私もやっていたので分かるが、おそらく空手で出来たものだろう。
かなりやり込んでいるのが見て取れた。

もう一人(以下B)は180cm以上はありそうな長身で、肩幅も広くガタイが良かった。
耳を見るとギョウザの様に潰れており、柔道を専門にしているのだと思った。
先程のH刑事やT刑事といい、この二人も目が据わっていて、迫力だけでも充分堅気じゃない。
新米刑事と比べても段違いにビビらされる。

実際、後に聞いた事だが度々通報で傷害事件や酔客の制圧に出向くのも日常茶飯事らしく、
相応の修羅場を毎週のように潜ってきているのだそうだ。

まずは手術服のような服に着替えさせられ身体測定、それから入墨や手術痕、ホクロの位置などの身体的特徴を記録される。

そこからが最も屈辱的な検査になるのだが…

A「じゃあ、タマの裏側を捲って何も入ってないか見せろ」

要するに陰囊、つまりはキ○タマの裏に何か仕込んでないかを確認させろという事だorz
話には聞いていたが、まさかしっかり本当だとは…

恥ずかしいやら情けないやらでなんとか確認を終えると、続けてAが

A「今度は後ろ向いて、尻の穴の中に何か隠してないか広げて見せろ」

…これも本当かよ、、、
と思いながら、言われた通り後ろを向いて尻を広げて確認させた。
書いているだけでも笑えないギャグのようだが、やっている当人達は至って真面目だから笑えない。
ちなみに女性の容疑者の場合、膣の中を女性の留置担当官に見られるのだという。

全ての身体測定を終えると、B担当官が留置場のスウェット上下と、くたびれたTシャツにトランクスを持ってきた。
これに着替えろとの事で、再び裸になり着替え直す。
不思議なもので、ここまで来たら最早恥も何もなくなるのだから慣れとは恐ろしい。

その後は持参した所持品を一つ一つリストにまとめられた。
現金、硬貨は券種を何枚ずつとか靴のブランド名や色、デザインなどの特徴、
財布の中のポイントカードの店名まで詳細に書き留められたのには驚いた。
決して『美容室の会員証』みたいなざっくりした書き方はされない。

一通りのリストアップ作業が終わると、A担当官からこう言われた。

A「よし、これからここの留置の決まりを話す。

ここにはお前以外の容疑者も多数留置されている。
俺達からしたらお前らが何をして捕まっていようが、本当は何もしてなくて無実だろうが何も考慮しない。
俺達はここのルールでお前らを管理する。
詳しいルールは俺達に都度確認するか、まずはそこを見ろ」

そう言ってA担当官は壁を指さした。
そこには『留置場内の規則』(うろ覚え)と書かれた木製の看板があり、そこに場内での規則が10数項目書かれていた。
ざっくりかい摘むと、

・同じ収容房の人同士で私語をするな
・自傷、暴力行為をするな
・不審と思われる行動をするな
・自分の物(食事も含む)を人に渡すな
・人から何か受け取るな
・指示には速やかに従え
・刑務官は『担当さん』と呼べ

などなどが書いてあった。

A「その中からかい摘んで大事なことだけ伝える。
まず俺達の事は『担当さん』と呼べ。
どんなにお前らと仲良くなることがあっても、俺達はお前らに本名を教えることもないし、この留置にいる間はお前らをこの部屋以外で本名で呼ぶことはない。
お前の事はここでは番号で呼ぶ。
さっきも言ったが、お前以外にもいろんな犯罪者がいる。決して本名を教えるな。
これはお前がシャバに出ていく時に困らないようにするためだ」

かなり高圧的に言われたが、先にも書いた通りかなりの迫力で言って来られるもので、黙って首を縦に降るしかなかった。

A「それと『私語厳禁』とあるが、俺達もそこまで取り締まる暇もないし、そこまで強制するつもりもない。
だから多少の事は目を瞑るが、節度は持て。
それ以外の事に関しては容赦なく処罰する」

ある程度のお喋りは大丈夫とのことらしい。
少し安心した。

A「それからお前はまだだが、後に便箋等も買えるようになる。そうして手に入れたものは、紙切れ一枚でも他の奴に渡すな。
食事で出てきたものも食べられないからといって他の奴にやるな。見つけ次第、厳正に処罰する」

これはえらいとこに来ちまったな…
そう思っているとAから「お前、アレルギーとかあるか?」と訊かれたので、青魚や光物にアレルギーがあると伝えた。
が、しかし…

A「好き嫌いだろ?」

私「いえ、食べると吐いて止まらなくなるんで…」

A「だから好き嫌いなだけだろ?食べて心臓が止まったりアナフィラキシーが出る訳じゃないんだろ?」

私「アナフィラキシーとまではいかないですが、本当に吐いて止まらなくなるんです」

A「言い訳をするな!
ここの食事には鯖とかも多く使われる。
いちいち好き嫌いまで聞いて貰えるなんて思うなよ」

こうまで言われると、じゃあその通りしてやろうかとも思ったが、そこでB担当官が口を開いた。

B「その吐き気っていうのは、どれくらい続くものなの?」

私「基本食べたら吐いちゃうからあまり試した事はないけど…ちょっと食べただけでも半日は吐いてますね」

B「先輩(Aの事)、他の収容者も居るのであまり嘔吐とかはない方がいいんじゃないかと…」

A「…面倒だな!
仕方ない、他の奴らと比べて飯の内容や量は変わるが文句はないな!?」

苛立ったようにAは手元の書類に何かを書き足していた。
その様子にイラッともしたが、助け舟を出してくれたBに私は一礼した。
Bは何も返さず私を見ていたが、どこかしらホッとしたような表情に見えた。
Bから見てもAは怖い先輩なのだろうと思った。

そこから更に留置内での決まりを2、3説明され、
担当さん2名立ち会いの元、布団一式を取りに行った。
その際に場内で履くスリッパを支給されたのだが、そこには私の番号である「10番」が書かれてあった。

これ以降、私は裁判を終え釈放されるまでこの番号で呼ばれることとなる。

それから私はとある房に移動させられた。
中には3名の男性が横一列に座っており、私を見ると『新入りか?』といった表情を浮かべた。
私は持ってきた布団一式を空いていたトイレに近いスペースに置き、3名へ会釈して横に座った。

その中で一番若く見える男の子がやや微笑みながら
「何やって入ってきちゃったんですか?」
と言ってきたので、私は端的に罪状と理由を述べた。
相当に若そうな子で、後に分かったが私とは10歳以上も離れており、北関東辺りで本職になる予定なのだという。
彼は私の話を聞くと「じゃあきっと早く出れますよ」と笑った。
一緒にいたメガネで恰幅の良い男も笑って同様の事を言ったので少しホッとした。
実際はそんなことなかったのだが。

もう一人は南米系の男性で、日本語をよく介しないのか始終不思議そうな表情でこちらを見ていた。
そこでメガネの男が何やら英語(正しくは使えていない)とジェスチャーを交えて説明をしていたが、
一通り終わると、あ〜そういう事かーみたいな表情になり、私の肩を笑顔でバシバシと叩いた。
きっと『元気出せよ!』とでもいった意味だったのだろう。

それから間もなく担当さん達が就寝前の見回りに来、各部屋で点呼を取っていき、
全部屋の確認が終わってようやく布団を敷く事が許され、留置初日の床についたのだった。


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