「ロッカー」
「コインロッカーってこの駅になかったっけ」
午前六時、D駅構内。私たちは、飲み会の席で喧嘩して仲直りして、また喧嘩し始めるという、迷惑極まりない行為を実行していたところだった。それも昨日の昼からずっと、だ。流石に眠い。二人とも電車の中でも終始無言だった。この言葉で休戦しようという事だろうと悟り、言葉を返す。
「あるよ、北口になら。なんで」
ぶっきらぼうな口調になったのは否めない。
「いや、噂で聞いたんだけどさ」
「出処は」
「割と売れてないロッカー」
「……」
「だから、ロックンロールの方のロッカーから聞いたんだって」
……それは掛けているつもりなのだろうか。しかも売れてないのか。
「胡散臭い。却下」
「やだ、話す。この駅のコインロッカー、ゴミ捨て場みたいになってるんだって」
「はあ」
「でも本当のゴミじゃなくて、誰かにとってはゴミでも、自分に必要な物が入ってるらしい」
「……へえ」
「だから、取ったら他のもの入れとくんだって。やってみない?」
「いいよ」
現金な奴だとは自分でも思っている。
噂のコインロッカーに辿り着いた私たちは、二人で別々のロッカーを選んだ。
せえの、の掛け声と同時に開く。
二人とも暫く無言だった。
「……何入ってた?」
私は無言で中を見せる。それは、新品のボクシンググローブだった。勿論おもちゃだが。友人のはナイフだった。歯が引っ込んで刺したように見えるやつだ。
これで喧嘩をしろと。
「……すごいな、これ」
「ね……」
その後持っていた不要な物を入れ、二人で家に帰った。もう喧嘩はしなかった。
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