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薪生活


74歳の母は、数年前に山の中の古民家を購入して移住した。暖房は薪ストーブ、お風呂のお湯は薪ボイラーで沸かす。薪を使う生活は容易なものではない。春夏秋の生活は冬に使う薪を準備することが中心と言っても過言ではないくらい大変だ。薪の材料は建築廃材を譲ってもらったり、川で流木を拾い集めてきたり(きちんと河川事務所に確認して了解を得ている)。これらを薪の長さに電ノコで切り、ナタで割って積み上げ乾燥させる。寒い季節5ヶ月分くらい使う量は半端ではない。それを一人で、夏には畑仕事もこなしながらやっている。母はいくつになっても偉大だと思う。

母の家までは片道2時間弱かかる。年に数回くらいしか会いに行けないが、一番の楽しみは、母が沸かしてくれる薪のお風呂に浸かることだ。薪で沸かしたお湯は、身体の芯まで温めてくれるので、湯冷めすることがない。

私が子どもの頃暮らしていた家も築100年くらいの古民家だった。広い土間の玄関、汲み取り式のトイレ、五右衛門風呂、囲炉裏、広い座敷、仏間、屋根裏部屋、部屋はいくつあったのか、とにかくだだっ広い家だった。当時は雪がたくさん降ると、1メートルくらい積もるのは珍しくなかった。でも、冬に寒くて震えていた記憶は全然ない。温かい薪風呂に達磨ストーブ、豆炭こたつ、湯たんぽ…寒い冬を暖かく過ごすための色々な工夫があったなぁ、と母の家で思い出す。

便利な世の中で、あえて不便さを選んで生活する母からはまだまだ学ぶことが多い。草木、花、虫、動物、土や目に見えない微生物まで、毎日の生活で向き合っていると色々な発見がある、といつも楽しそうに聞かせてくれる。

子どもを連れて田舎に移住し、その後離婚したところまでは母と同じ人生をたどってきた。母は再婚し、パートナーを看取った後、再び田舎暮らしを選んだ。
私はこのまま一人で生きていくのだろうけど、母の歳で同じように自然と向き合った生き方をできるだろうか。まだ元気なうちに、色々教えてもらわねば。


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