植物から始まる異世界スローライフ!! 【創作大賞2024 漫画原作部門】

第二話

 それから二年が経ち、私は十二歳となった。毎日、植物ばかりで一つ重要なことを忘れていた。それはファンタジーならお馴染みの自分のステータスの確認だ。

「ステータスオープン!」

 そう唱えると、私の目の前にステータスの画面が現れた。

 名前・エルバ(12)

 職業・異世界転生者・魔女

 レベル・50

 体力・1500

 魔力・2000

 攻撃力・1500

 防御力・1000

 俊敏性・100

 スキル・植物鑑定(MAX)植物図鑑120000/53
 麻痺耐性(強) 毒耐性(強) 強化胃袋(鉄壁)

 魔法 火、水、氷、風(レベル1)生活魔法(レベル1)調理(レベル1)調合(レベル1)

 固有スキル・エルバの畑(レベル3、畑で採れた植物の効能2倍)アイテムボックス

 おお、これが私のステータスかぁ!

 ふむふむ。植物鑑定がMAX! さすが有能博士。
 植物図鑑が12万分の53って、まだまだぁ〜。
 麻痺と毒に耐性があって、強化胃袋まで付いてる。
 魔法は火、水、氷、風 の4種でレベル1。
 あとは生活魔法、調合、料理。

 固有スキルがエルバの畑。今、レベルが3で効能が2倍? エルバの畑から採れる植物から使った薬、食べ物の効能が2倍になるということ? ――それって、すごい事じゃない!

 あとは、アイテムボックス。
 これってアイテムがしまえたり、出せたりするんだよね。

 中はどうなってる? とアイテムボックスを開き手を入れて探ってみると、中にリュックが入っていた。……お、このキャンプ用のリュック。私の大切なキャンプ道具を入れているリュックだ。君たちも一緒に異世界へきたんだね。嬉しいと、私はそのリュックを抱きしめた。



「お? あれは……」

 ステータスを確認した二日後。お水を飲もうとやってきた食卓のテーブルの上に、稲穂に似た植物が束になって置かれていた。これ、もしかしてお米じゃない? 私はすかさず、この植物について博士に聞いてみる。

《エルバ様、これはコメ草といいます》

 コメ草……コメ、米? この世界の野菜、ジャロ芋とかダイダイコンなど名前は違うけど、見た目が前世と同じな野菜は数あったけど……お米はまだなかった。

 博士、これ食べられる。

《食用です》

 おお、食べれる!
 効能は?

《タンパク質、糖質、ビタミン、炭水化物、食物繊維が豊富です》

 お米の効能は詳しくないけど。
 多分、お米だ!

「博士、タネを頂戴」

 この日、エルバの畑にコメ草が生えた。

 畑にニョキッと生えるコメ草、さすがファンタジーの世界だ。

 やったお米だ、お米!

 パンも美味しいけど。
 私は米が好き!

 この世界でお米を見つけたあまりの嬉しさに、稲を持ってキッチンで舞っていた。そこに夕飯の支度に調合室から出てきたママと鉢合わせ。

 「「えっ!」」

 コメ草を手に舞う私と。
 そんな私を見て驚くママ。

「エルバ、ごきげんね。何かあったの?」

「マ、ママ。……えっ――と。これは、なんの植物かなって? 気になって振っていたの……」

 なんたる苦し紛れの言葉だ。……ほんとうはコメを見つけ"喜びの舞"を舞っていたのだけど……。

「それはね。鬼人たちが作る名前がコメ草という、めずらしい植物なの」 

「鬼人? コメ草?」

 私が植物が好きだから、ママはコメ草について詳しく教えてくれた。魔法都市の北に住む、亜人種族の鬼人たちは、コメ草という薬草を栽培している。

 このコメ草から採れる白い粒に水と熱を加え、鍋でトロトロに煮込み"コメのり"というノリを作っていると言った。

 ほかにも、鬼人たちは木の皮から作られる鬼紙(キシ)といわれる紙も作っていて、手帖、障子の紙、電気のかさ、提灯、雨よけのキシ傘などにキシと、コメのりが使われるのだとか。

 ママたちは高級な羊皮紙よりも、キシは書きやすくて使っている者は多い。まだエルブの原っぱしか行ったこたがないから、都市に鬼人が住んでいることに驚いたし。

 彼らが使う鬼紙(キシ)は――たぶん和紙だ。

 ママは前からコメ草が気になっていたらしく。傷薬などの薬とコメ草を物々交換してきて、コメ草から薬が作れないかを実験するらしい。


 その実験も面白そうだけど、米を炊きたい。
 ママにそのコメを炊いて食べると"美味しいよ"と伝えたいの……だけど「その知識は何処で知ったの?」と聞かれると説明に困る。

 どう説明をしたらいいのか。
 話したら話したで、前世の記憶から話さないといけないかも。

 おかしな子だと思われて嫌われる?
 この世界に生まれ変わって、優しい両親と出会えた……もう1人ぼっちは嫌だ。伝えたくてもいえない私に、ママは優しく私の顔を覗き込み。

「エルバ、言いたいことがあったら、なんでもママに言っていいのよ」

 と微笑んで言われて、私は思い切ってママに「コメを炊きたい」と伝えた。ママは変に思うどころか「コメを炊くの?」「それは面白そうね。さっそく、やってみましょう」と言ってくれた。

 よかった。
 変な子だと思われなかった。


 よし、コメを炊こう。
 だが、ここで問題。
 コメ草から、コメはどうとるのだろう?

 博士は、なにか知らない?

《コメ草の実の取り方は袋に実の方をいれ、振れば実が殻からコメが飛びでてきます》

 へぇ、お米とは違い。もみすり、精米とかいらなくて、振るだけでいいなんて簡単だ。

 ありがとう、博士。

「ママ、使ってもいい袋ない?」

「袋? わかった。コメ草の実を採るのね。待っていて、いま持ってくるわ」

「ありがとう」

 ママが持ってきた袋に、コメ草の実の方をひと束入れて振った。ザラザラと袋の中に殻から飛びでてくる。

「ママ、袋の中にコメがとれて面白い」

「ほんと、楽しいわね。鬼人の人もコメを採りだすとき"楽しいよ!"と、言っていたのはこのことなのね」

 全てのコメが取れたみたいで袋の中を覗いた。
 あ、昔見ていた半透明なお米とは違い、コメ草のコメは真っ白な粒だった。

 その、とれたコメをハカリで測ると全部で450gあった。米が450gということは米三合ぶん。二合の米を炊くときは水が400だから、三合の水は600ml。

 私はお米(450グラム)三合を炊く準備を始めた、コメをザルで軽く洗い、鍋に入れて水600mlいれてお母さんに渡した。

「それにしても、コメ草を炊いて食べよだなんて、エルバは面白いことを思いついたわね」

 ……きた、この説明が難しい。

「あのね。ママとパパに買ってもらった図鑑で見て気になっていて……それをテーブル上に見つけて、かじったの」

 なんとも、ヘタな説明だ。

「まあ、コメ草をかじったの? ……エルバはパパと同じ食いしん坊さんね。今回はエルバの手の届くところに置いておいた、ママが悪いわね。だけど、次から知らない植物だったら勝手に触らず、ママに聞いてからにして欲しいわね」

 大丈夫、私には教えてくれる博士がいて、コメ草が食べられる植物と知っていた。だけど、普通なら知らないことだ。このコメ草が、危険な植物だったら……大変なことになっていたと、ママは言いたいんだ。

「わかった、次からはちゃんとママに聞く」
「いい子ね、エルバ」

 優しい瞳、優しい手で撫でてくれた。

 コンロにママが魔法で火をつけて、コメが入った鍋をかけた。しばらくして水が沸騰したら、コンロの火を調節して弱火にする。――弱火で九分加熱して火を止め、コンロから下ろして、タオルに包んでコメを十五分蒸す。

 そろそろ、十五分かな?

「ママ、十五分たったよ」

 食卓の上でママと、炊けたコメが入ったお鍋を見つめる。

「いい、エルバ、鍋の蓋を開けるわよ」

「うん」

 ドキドキする――匂いはいい、後は味だ。

 ママがミトンをはめた手でタオルを外し、お鍋の蓋を開けると炊き立てのお米に似た甘い香りがした。みためは……あ、真っ白だったコメの色が半透明になっていた。

(いい香り――炊き立てのお米と同じでふっくら、ツヤツヤ、お米がたってる……これは絶対においしい!)

 ゴクっと喉がなる。

「なんとも言えない、いい香りね。炊く前のコメ草の粒は真っ白だけど……炊くと半透明になって艶が出るのね。エルバ、コレはどうやって食べるの?」

「……えっ、どうやって」


 はっ! コメを炊くことばかりに気を取られていて、食べ方を考えていなかった。

「フフ。まずは味見からね」
「うん!」

 炊けた白いコメをスプーンて一口とり食べる。
 お、おお! 味はもちもちしていて、米に似ていた。

「美味しい!」 

「ほんと、甘くて美味しいわ」

 ママにも好評。コメ草をエルバの畑一ページ分に増やせば。いつでもコメが食べられる、なんて幸せ!

《エルバ様。コメ草について内容が更新されました》

 内容の更新?
 博士、それは何?

《コメ草の実は腹持ちがよく、美白効果あり》

 腹持ちが良いのはいいとして、美白効果?
 そういえばお米で作られた化粧水とか乳液、クリーム、パックなどがドラッグストアで売っていて、私も愛用していた。

 ――へぇ、コメ草にも同じ効果があるんだ。

「美味しいから、パパにも食べてもらいたいわね」
「うん。ママ、そうしよう」

 あ、でも。この異世界に保温が出来る炊飯器とか、冷やす冷蔵庫はないから。食べ物は保存魔法がかかる保存箱にしまっている。その箱に炊けたコメを入れると、そのまま保存されるのかな?

「ママ、炊きたてのコメをこのまま保存箱に入れると、どうなるの?」

「いまの状態で、箱の中に保存されるわ」

 すごい。

「だったらパパも、炊き立てのコメを食べれるね」

 パパの好きなお肉を焼いて、ステーキ丼にするのもありかな? この夜の夕食は焼き野菜と、塩コショウで味付けしたステーキを乗せた丼。はじめは不思議がっていたパパも、コメを一口食べて気に入ってくれた。

「美味い! コメというのは肉の相性がいいな! これから何杯も食べられる!」

「ほんとうね。お肉も野菜も美味しいわ」
「コメとお肉、最高!」

 家族で大満足の夕食だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?