寵愛のいる旦那との結婚がようやく終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。 【創作大賞2024 漫画原作部門】

第三話
 亜人隊、彼らが付けている鎧や服には、この国ガレーンの象徴ドラゴンの刺繍が入っている。いかつい獣人族は戦闘中以外、常に半獣でいなくてはならない決まりらしく。いつも北区と中央区の境界線にある、宿舎からミリア亭まで半獣の姿でやって来てくる。

 彼らがいる宿舎の反対側は騎士団の宿舎で、常に騎士団が目を光らせているらしい。亜人隊が結成された五年前、当時はお昼の時間帯にミリヤ亭に来ていたのだけど、体格が大きいアサトとナサに、北区以外の地区から来たお客が店に入れないと文句を言った。

 しかし、彼は何を言われても知らん振りをする、契約によって魔物以外の戦闘は御法度、彼らは問題を起こすと騎士団に捕らえられてしまうのだ。

『言わせておけば!』
『ナサ、やめろ! 捕まっちまうぞ!』

 人が嫌いで暴れるナサをロカが押さえながら、隊長になったばかりのアサトはみんなに頭を下げた。

『すまない、迷惑をかけた』

 それを厨房で聞いていた、ミリアは出てきて

『頭を下げなくでいい。いつも体を張って私達を守ってくれてるんだ、ありがとうとこっちが言いたい!』

 店に来ていた亜人のみんなにもありがとう! 助かる! お礼を言われたそうだ。

『そうだ! 店が閉まった後の2時ごろにおいでよ。いくらでも店で寛いでいいし、なんなら肉でもなんでも好きなものをたらふく食べさせる。ここなら騎士団の目も届かないからいつでもおいで!』

 だから、皆んなはお店の中で元の姿に戻り、ゆったりと寛いでいる。ご飯を食べた後は訓練が始まる時間までお昼寝をする。みんなの寝姿がこれまた可愛いんだ。

「お腹空いたね、カヤ」
「空いたねリヤ」

 いつも仲の良い竜人の双子の男の子。彼らに両親はおらず、ニ年前までは北区で盗人を働いていて、みんなに悪ガキ竜と呼ばれ追いかけ回されていた。

 そんな彼らもアサトさん達に捕まり「牢屋に行くか俺たちの部隊入るか決めろ」と言われて、同じ部隊になったと本人達から聞いた。彼らはいつ見てもカッコいい。学生の頃に出会えていたら本気で剣を交えたかった。

 隊長のアサトが持つ大きな斧。
 みんなを守る、ナサの大きな盾。
 ロカさんは魔法を使いみんなのサポート。
 カヤ君に、リヤ君の武器はクローだ。

「ミリアまだかな? 腹減った」

 ナサはテーブルの上に伏せているけど、誰か来るのか入り口に耳を向けていた。他のみんなも顔を上げて入り口を見たと同時に、カランコロンとドアベルが鳴った。

 入って来た人は大きな体、大きな手、大きな斧を持ち大あくびした。

「ふぁ~っ騎士団に昼寝を起こされた。ついでだから、昨日の報告もして来たぞ」
「おぉ! 流石は隊長!」
「ナサ、お前はいつも調子がいいなぁ。それとお前ら! みんなで一緒に宿舎の庭先で昼寝をしていたくせに、騎士団の奴が現れると蜘蛛の子を散らしたようにいなくなりやがって!」

 アサトさんがナサやみんなに詰め寄る。
 ナサはパンと手と手を合わせた。

「すまんアサト隊長。オレ、騎士団の連中が苦手なんだよ」

 カヤとリヤも手を挙げて?

「僕も苦手」
「うん、僕も苦手」

 ロカさんは頭を下げて

「すみません。私もあの方達は苦手です」

 みんなが謝るなかアサトは声を上げた。


「「うるせぇ! 騎士団が苦手なのは俺も同じだ! 後の訓練で覚えてろよ!」」

「シッシシ、それは勘弁だ!」
「私も遠慮いたします」
「僕も嫌だよ!」
「僕も、僕も!」

「聞いてやらん! みんなまとめて扱いてやるからなぁ!」

 アサトが来ると、ミリア亭の中は騒がしくなり、みんなは楽しそうに笑う。みんなに頼りにされている隊長さんだ。

「いらっしゃい、アサトさん」
「よっ、あれっ? ミリアはいないのか」

「はい。いま東区の叔母さんの家に行っています。あの……オムライスなら作れますが食べますか? 味は普通ですけど」

「「オムライス? 食べる!」」

 みんなの声が重なる。

「わかりました。大きいオムライスを作るので、私の分も取り分けてください。それと足りなかったらミリアさんが帰ってきたら、また頼んでください」

「リーヤが作るオムライス、楽しみに待っています」

「シッシシ、美味いのを頼む」
「はい、待ってる!
「僕も待ってる!」

「何か手伝うことがあったら遠慮なく言えよ」
「ありがとう、アサトさん。みんな頑張るね」

 頑張ると言ったからにはしっかりやるわよと厨房に立った。材料はあらかじめ料理に合わせて切ってあるから、炒めて合わせるだけなんだけど。

 フライパンを温めてバターを入れチキンにピーマン、玉ねぎを塩胡椒でしっかり炒めて手作りケチャップを絡める。次にご飯をいれて絡めればチキンライスの完成。それにトロトロ卵を乗せてたら出来上がり。みんなに出来た! と振り向くと。

 待ちきれなかったのか、それとも心配だったのか、みんながカウンター席に勢揃いしていた。

「へぇ、来た頃よりも出際が良くなったな、最初は危なっかしくて見ていられなかったもんな、シッシシ」

「ナサに下手くそだって言われてから……ちゃんと毎日、家で自炊もしているもの」

「なんと自炊をしているのですか、それは感心ですね。あぁ、リーヤのご飯を毎日食べたい。今度食べに家に行ってもいいですか?」

 本音かどうだかわからないことを言い出した、ロカにアサトは目を細める。

「ロカ、おまえは! リーヤ、気を付けろよ本当にコイツ着いて行くぞ」

「シ、シッシ。そうだな、ロカは家まで着いて行くな」

「えっ、家はダメよ。洗濯物は干しっぱなしだし、掃除は適当だもの」

 それでも構いません、なんなら私が掃除します。と言い出したロカをアサトとナサは全力で止めた。お前、いまに騎士団に捕まるぞと言って……

 そんな騒ぎの中、可愛い二人がお腹をさする。

「リーヤ、僕、お腹空いた早く」
「僕もお腹すいた、早く」

「もうすぐ、出来るから待ってカヤ君、リヤ君。よし、みんなオムライスできたよ、卵が上手くまけなくて出来なくて、見た目が悪いけど食べてみて」

 残念ながら想像の中では、トロトロのオムライスができていたのに……卵が硬めのオムライスがテーブルに運んだ。

「やったぁ!」
「カヤ、ここに座ろ!」

 みんなが奥の六人掛けのテーブル席に集まった。何時もは好きな席に座るのだけど、いまだけは並んで仲良く座っている。人数分のスプーンと取り分けのお皿を用意して、残っていたカボチャのスープを温めて、サラダを用意する。

「ありがとうな。いただきます」

「リーヤ、いただきまーす!」
「リーヤ、いただきまーす!」

「リーヤの手作りですね、いただきます」

「どれどれ、味は? いただきます」

「召し上がれ!」

 みんなはお皿を使わず、スプーンをオムライスに突っ込んだ。一口食べてみんなの口がほころぶ。

「うん、美味しいです」
「本当、ロカさん!」

 温めたカボチャスープとサラダだを持って、みんなの所に行く。

「リーヤはここに座れ、ロカの横には絶対に座るなよ!」

 ナサに呼ばれて大きな体のコンビ、アサトさんとナサの真ん中に座った。

「ほら、リーヤの分」
「ナサ、ありがとう。いただきます」

 ワカさんのアドバイス通り野菜をしっかり炒めて、味が薄かったからコンソメを入れてみた、前よりも味が良くなったかも。

 お腹が空いていたからたくさんスプーンに取り、大きな口を開けたら横に座るナサと目があった。

「でかい口だなぁ、シッシシ。それにいい食べっぷりだ」
「動いたから、お腹空いちゃった」
「そうか、オレも腹減った」

 ナサもわたしの真似をして元々大きな口で食べだした。そして、まあまあだなとわたしを見て口元を緩ました。

「うまうま」
「うまうま!」

 カヤ、リヤも大きな口だけど、ケチャップを口の端に付けて食べてる。

(もう、可愛いな)

「カヤ君、リヤ君。口の周りケチャップだらけだよ。ほっぺにもご飯粒が付いてる!」

 そう言ったら、んっ? とお互いの顔を見合わせ笑ってる、その横から肘でつっかれた。

「リーヤ、美味しいよ」
「アサトさん、ありがとう」

 みんなでのんびり食事をしてると、カランコロンとドアベルが鳴り、用事を終えたミリアが帰ってきた。

「ただいま、いい匂いだね」
「お帰りなさい、ミリアさん」

「ミリア、肉! 肉を焼いてくれ!」

「お肉!」
「お肉!」

「私もお肉が欲しいです」
「お前らは……悪いなリーヤ、俺にも肉」

「いいえ、わたしもお肉食べたいです!」

 オムライスだけでは足りない、みんなのお肉コールが始まった。ミリアはふぅと、ため息をつき袖をまくる。

「よし! 分厚いステーキを焼くから待ってな。リーヤ、悪いけど手伝ってね!」

「はーい!」

 しばらくすると、店内にお肉の焼ける良い香りが漂った。

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