召喚をされて期待したのだけど。勇者でも、聖女ではありませんでした。ただの巻き込まれって……【創作大賞2024 漫画原作部門】

第三話
 ぷらーん、ぷらーんと、みんなのぶら下がる。
 この光景はさっきも見たし、トラ王子にやられたよ。

「あの、シンさん。下ろして!」
「ん? あぁ」

 このままだも、パーカーが脱げる。
 まぁ見えても、スポーツブラをつけてるし、胸平だからいいとか言わない。

「シン、下ろしてあげなさいよ。その子、お腹丸見えだから」

「ふぉっ、お腹⁉︎ 見ちゃダメ!」

 ぽっこりしてるからお腹はダメ……見られたくない。

「おろして!」
「わかったよ」

 下ろしてもらうと、みんなはわたしを囲んだ。

「お前、名前は?」
「あなたは、どこから召喚されたの?」

「君は召喚されたのか? 聖女なのか?」

「シン、ラキ、ルア。ミカにそんないっぺんに質問するな!」

 三人の質問責め? を白いトラさんが止めてくれた。

「名前は町田ミカ、日本から来ました。聖女は楓さんで、わたしは巻き込まれです」

 よろしくと、手を出した。

「ミカか、お前は聖女じゃ無いのか」
「ミカちゃんかぁ〜可愛い名前ね。日本? 聞いたことないわね」

「マチダ」

 シンさんとラキさんの肉球、やばい。ルウさんは普通。 小説でも、もふもふは人気者だ。どうにかして、そのもふもふ堪能したいなぁ。

「ミカ、俺はこの五番隊の隊長のコセだ」

 コセさんの肉球もいい。

「さてお前ら、訓練の再開をするぞ!」

 訓練⁉︎ これだと、わたしは邪な思いを胸に手を上げた。

「はい、コセ隊長。わたしが訓練の提案をしてもいいですか?」

「何があるのか?」

 コセさんがわたしに乗ってくれた。

 わたしは自分の欲望のためにうきうきと、大きな円を描いて、最後に円の真ん中に線を二つ引いた。


 ♢


 もふもふ堪能の為に適当な理由をつけて、みんなに胸当てを取ってもらった。


「シンさん、来て」
「俺?」

 一番もふもふな彼を呼んで、向かい合わせに立った。
 お相撲……異世界風、簡単な説明でいいかな?

「この線に手を付いて「はっけよーい、のこったぁ!」で組んで、円の中で体を付くか、円の外に相手を出して勝つの」

「ははっ、面白そうだな、ミカ」

 シンさんが手を付く、彼の大きな口が楽しげに上がる、みなぎる闘争心。もしかして、もふもふ楽しむ前に死亡フラグ⁉︎ だけどやるしか無い、言い出したのはわたしだ。

「はっけよーい、のこった‼︎」

 勢いよく突進した、シンさんの風力に一歩も進めなくて、飛ばされて前の外まで転がった。

「「ミカ!」」

「はい! 平気です。みなさん、わかりましたか? ……こんな風にやるんです」

「ちょっと、シン。ミカは女の子!」

「お前、手加減していない」
「まて、ルア。お、俺は、かなり手加減したぞ……」

 あははっ、そうなんですね。でも間近に見たライオンさんは素敵でしたよ。――わたしに悔いなし。

 コセさんは慌てて、離れの木に向かって叫んだ。

「ソール、来てくれ!」

 ソール? その木が揺れ動き、何か落ちて茂みが揺れた。

「コセ隊長、俺っちはお昼寝中すよ。なんすか?」

「怪我人だ! ミカにヒールをかけてやってくれ」

「ミカ? 誰っすか?」

 茂みが揺れて、ローブ姿の男性が立ち上がった。
 倒れながらこっそり盗み見た。耳が長い、あの人はエルフ? にしては見た目が、ゲームで見たものとは違った。

 エルフってゲームだとさらさらな長髪、イケメンだけど、彼はもさもさな頭をしていた。草むらから来て仰向けに寝ている、わたしを目まで隠れるもさもさなヘアーの彼は見下ろした。

「コセ隊長、この子は人間じゃないっすか? 隊長達、怖がられてないんすか? いつもなら悲鳴を上げて逃げてくのに⁉︎」

 それにシンさんは「ウッセェ」と叫び。
 ラキさんは「そうなのよね」と、答えた。

「いつもはそうだな。ミカは今日、召喚をされた異世界人だからかな? 俺達を怖がらない」

「へぇ、王族達が呼んだ異世界人すか。どおりで変な格好をしてますもんね」

 変な格好か……そんなことより、早く、わたしにヒールをかけてください。トラ王子の時は激痛に苦しんでいたから、魔法を実感できなかった。今なら、ヒールの魔法を思い存分に感じれる。

「では、この子にヒールをかけるっす」

 エルフさんが手を前にかざすと、その手の中に杖が現れた。その杖を寝ているわたしに向けて【ヒール】と唱えた。その人の杖から放たれた、光がわたしを包み込む。

 しだいにシンさんに飛ばされて打った、背中、ひざ、お尻が温かくなり、痛みが引いていった。

 感激だ! その魔法に感動をして目を開けた。

「うわぁ、わたし。今、魔法を体験しちゃったぁ! すごい、すごい!」

 喜びで、その場を転げ回った。

「おおっ、目を覚ましたっす。他に痛いところはないっか?」

「ありません、ありがとうございました。じゃー、シンさん続きやりますよ! 今度は飛ばされませんから!」

「まだ、やる気か⁉︎」

 飛ばされたら、この人にヒールをかけて貰えば良いのだし、もふもふは諦めない! 

「ミカ……。ソール、ミカに防御魔法と攻撃魔法を七対三でかけてやってくれ」

 あんなに吹っ飛ばされたのに、まだ諦めないわたしに呆れた、コセさんはソールさんにそう頼んだ。


 ♢ 


「うぎゃぁ」

 シンさんに飛ばされ、転がったけど痛くない。
 そして、今わたし、もふもふを少し触った。

 ――や、柔らかい!

「シンさんは強過ぎるから、次はラキさん来て!」

「はぁ? ミカ……まあいいや、分かったよ」

 文句を言いながらも変わってくれた。ラキさんはふふっと笑い、突っ込んで来たわたしを避けずにギュッと抱きしめた。

「ミカちゃん、可愛いわね」

「え、ラキさん?」
「あらやだ、少し肌枯れをしてるわね。それに髪も傷んでる」

 そのまま美容に関しての講座が始まった……ちゃんと、女の子らしくしなさいって無理、無理だよ。自分から円の外に逃げた。まだ言い足りないのか、待ちなさいと追ってくる。

「嫌だよ、無理だって!」
「大丈夫よ、私に全て任せて!」

 そして空いた円では、シンさんとルアさんが見合っていた。


「一度、竜人とやり合って、みたかったんだよな」
「そうですか……。私はミカさんとが良かった」

「あんなヒョロヒョロとじゃ、面白くないぞ」

 闘志剥き出しのシンさんと、ぼーっとしているルアさん。わたしはそれを見て足を止めてしまい、ラキさんに捕まっていた。

 コセさんの「「はっけよーい、のこった‼︎」」の合図で音を立てて組み合う二人、押しつ押されず組んだまま動かない。

「凄いわ、どっちが勝つのかしら?」

 ラキさんもわたしを捕まえたまま、その戦いに見入っているようだ。

 その状況が動く。

「ふむっ、シン。なかなかです」

 その一言の後、ルアさんがシンさんを投げ飛ばす、シンさんはルアさんの力の差に何も出来ず飛ばされた。

「うわぁ、こっち来てる。ラキさん逃げて!」

「ミカちゃん⁉︎」

 咄嗟にラキさんを突き飛ばした。シンさんの大きな体が近づく。わたしは防御魔法のお陰で大丈夫なはずだ!

 しかし、ぶつかる寸前にシンさんはくるりと、受け身を取ったけど間に合わず、むぎゅっと胸板に潰されながらも、もふもふは堪能した。

 シンさん。とても良いもふもふでした。

「いててっ、、ミカ、たてがみを引っ張るな!」

「シン、ミカ! 平気か?」
「あのシンから私を助けるなんて、なんて子なの!」

「すまない」
「ほぉ、やるっすね」

 色々あったけどみんなは、お相撲を気に入ってくれたみたいだ。一番はコセ隊長で最下位は当然わたし、唯一勝てそうな、ソールさんにも負けた。



 ♢



 訓練場のど真ん中にみんなは集り、ソールさんは杖を空に向けた。


「やるっすよ【ウォーター】」


 空に浮かんだ青い魔法陣。そこからポタポタと水が降ってくる。

「雨だ、気持ちいい」

 その雨は体に付いた砂を流してくれるし、シャツを脱いで水を浴びる、みんなの肉体美を堪能できた。

「次っす【ウインド】」

 優しい風が吹き、濡れた体を乾かす。乾いた後はお昼寝だと言って、草むらにみんなと寝転がって寝ていた。

「……ここにいたのか」
「ぐっすり寝ているわ」

 しばらくして近くで話し声が聞こえた、その後に体がふわりと浮いた感じが……

「はっ⁉︎」

 目を覚ますと外ではなく、肌触りの良いベッドで寝ている。

「ここは、どこ?」

 黒いカーテンの隙間から入る日差しで、部屋の中が見えた。本棚も黒、ソファーも黒、自分が寝ているベッドでさえも、黒な真っ黒部屋だった。

 わたしの声が聞こえたのか、部屋の入り口ではない扉が開いた。

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