召喚をされて期待したのだけど。勇者でも、聖女ではありませんでした。ただの巻き込まれって……【創作大賞2024 漫画原作部門】

第二話
「ミカ、楓、ここを曲がれば食堂だ」
「ありがとうございます」
「……ふん」

 くぅっ、トラ王子め! 何が迷子にならない様にだ。
 食堂に着くまで宙ぶらりんで運ぶなんて、道中たくさんの人に、なにあれ的な目で見られて、クスクス笑われたじゃないか。

「なんだよミカ、迷子にならなかったんだ。いや、一度なりかけてただろ」

「なってない、あれはちょっと、バラを摘みに……うがっ?」

 最後まで言う前に、楓さんに口を押さえつけられた。

「ミカさん、それはいってはダメよ」

 私の発言に慌てた楓さんが、耳打ちして教えてくれた。
 バラを摘みにはね。ごにょごにょ……で、トイレに行くってこととは違うと言うことを……ぜんぜん知らなかった。バラを摘みなんて、とんでもない事を王子に言っていたよ。

「わかった、花を摘みに行くが正解ね」
「楓さん、大声で言わない」

 王子がこっちを向いた。

「なんだ、ミカは花を摘みに行きたいのか? そこを右に曲がればあるぞ。なんたら、ついて行ってやろうか」

 今度はトラ王子にも通じたらしく、親切にトイレの位置を教えてくれる。

「いい、まだ行かない」
「そうか。食事前に行きたかったら言えよ」

 また、子供扱い? わたしと楓さんはあまり歳が違わないはず。多分王子とも。――まさか、彼から見たわたしは物凄く子供に見えている? そりゃ身長が低く、胸平、少しばかり細いからって!

「ミカ、震えてるぞ。我慢するなよ」

「もう、トイレ、トイレって、……うっ、トラ王子。トイレに行きたいです」

 トイレの話ばかりしていたから、もよおしたよ。


 ♢


「凄い、楓さん!」
「凄いわ、ミサさん!」

 異世界のトイレで、いきなり初魔法体験をした。
 トラ王子が教えてくれた、使い終わったら水色の魔法陣に触ればいいと。トイレの壁に描かれた魔法陣に触ると魔法が発動して水が流れる。今まで使用していたトイレとは形は違うけど、あまり変わらないから、わたしにとっては一番にありがたかった。

「じゃ、二人とも食堂に戻るぞ」

 トラ王子に連れらて食堂に入る。――うおっ、少し前に流行ったファンタジー小説だ。高い天井、長い机が二列並び、真ん中には赤ではなく、淡いピンクの薔薇が飾られていた。周りはさっきと同じく絵画と壁画が描かれていた。

 その壁に鎧を身につけた騎士が立ち、メイドが慌ただしく働いている。席は偉い人から順かな? 上座とかいうところに、イケメンな国王陛下がいるものね。

「聖女楓様とミカは俺の近くな」

 聖女楓様⁉︎ 呼び名が尊い。巻き込まれは呼び捨てね。
 並びは国王陛下の近くで、横並びにトラ王子、わたし、楓さん……何か順番がおかしくないですか?

「楓さん、席かわろ」

 周りから、なんでそこにお前が座るんだ。と圧がキツいのですが⁉︎

「私、王子の隣なんだなんて嫌だわ」
「聖女楓様がそう言っているんだ、仕方がない」
「……もう、わかったよ!」

 席に着くと料理が運ばれた、コース料理とでも言うのかな? 前菜から始まって、メイン、デザートがくるみたい。

(うわぁ〜美味しそう)

 食事も中盤、ふと奥に座る人に目が行く。
 奥の席で、食事を黙々食べる白いトラさんがいた。そのトラさんが座る両隣には誰も付かず、彼は奥に一人座り食事をとっていた。

(さっきの猫さんたちの知り合いかな?)

 トラさんを眺めていたわたしを。

「おい貴様、そこを退け!」

 と酔った貴族が私達を囲んだ。

 いや、彼らは楓さんを囲んだんだ。
 そして口々に同じことを言う。

「聖女楓様、頼みます」
「私達を助けてください」
「邪魔者のお前、そこを退け」
「そこは位の高いものしか、座れないところだ!」

 貴族の男性が、わたしの肩を軽く叩いてるつもりなんだろうけど。酔っているからか力が強く痛いし、凄い暴言を吐かれる。その席を退けと、お腹の出たおじさんに腕を掴まれた。

「いたっ、」

「ニコール伯爵、ミカが痛がっている辞めてやれ」
「ミカさん、大丈夫?」

 無理、無理、知らないおじさんは怖い。
 楓さんには悪いけど、ドロンする!

「大丈夫じゃない! トラ王子、楓さんを守ってあげてね。わたしは別の席に行く」

「え、ミカさん⁉︎」

 テーブルクロスをめくり、机の下に潜って、ハイハイしながら移動をした。足を避けて、避けまくって。離れた位置で顔を出す。それは白いトラさんの前ではなく、すぐ横だ。

「ごめんなさい。食事中、お邪魔します」
「おお? ……お前は巻き込まれた、ミカとか言う異世界人か?」

「そうです。巻き込まれたミカです」

 急に現れたわたしに、トラさんは優しくせってしくれる。ホッと彼の隣に触ると、貴族達に言い寄られる楓さんの姿が見えた。

「あちゃ、あの場所に置いて行ったから……楓さん怖い顔してる」

 ごめんね。と手を合わした。

「なんだ? お前はあっちに戻らなくていいのか?」
「いいよ。巻き込まれのわたしに、関係ない場所だもの」

 そうか、と、トラさんは食事を始める。

「ねぇ、トラさん。さっき中央のバラ園でライオンさんと猫さん、角の人に会ったよ」

「んん? ライオン、猫、角? ……ああ、あいつらか。訓練をサボりやがったな」

 訓練?

「ははっ、それは仕方ないよ、異世界からこの国を守る聖女が来たのだもの、気になっちゃうよ」

 トラさんは「だかよ……」と言ったが、
 しばらく考えて「そうだな」と笑った。

「しっかし、お前はヒョロヒョロだな。飯食ってるか?」
「ご飯なら、ちゃんと食べてるよ」

 わたしの前にお皿がすーっとやってきた。

「これ食いかけだけど、やる」
「いいの? ありがとう、いただきます」

 トラさんにお肉を貰った。


 その後、トラさんからデザートまで半分貰い。――これで、コース料理も終わったのかな? 忙しく動き回っていたメイド達は今、壁側に静かに立っている。

 隣に座るトラさんがこそっと、わたしに耳打ちした。

「なぁ。ここを抜け出さないか?」
「いいの?」

「お互いここにいても、いなくてもいい存在じゃないか? 俺は腹も膨れたし、外で昼寝する」

 お昼寝⁉︎

「その話、乗った!」

 トラさんの後について食堂を後にした。


 ♢


 トラさんの後について来ると、さっきバ庭で出会った三人組がいた。そして、わたしはその三人に囲まれて見下ろされてる。

「コセ隊長、なんでコイツを俺達の訓練所に連れてくるんだよ」

「うーん、成り行きだな?」

 このライオンさんは人嫌いなのか。
 さっきの庭でもそうだったけど、ズッとしかめっ面だ。

「大丈夫だよ。みんなの邪魔しないから、なんなら隅っこにいるから」

 走って開けた訓練所を離れて、雑草が生茂る場所に寝転んだ。

「おい!」

「シンたら、女の子に酷いわねぇ。あの子は今日、召喚の儀式で王族達に、無理やり元の場所から呼ばれたのよ」

「あの子は一人で、心細いのではないのか?」

「うるせぇ!」

 なんだか三人で揉めてる? ほっといても、白いトラさんが止めるだろう。わたしはゴロンと寝転び空を眺めた。目の前に広がる青空、いい天気だね……やっと一人になれた。

「ステータスオープン」

 一度、言ってみたかったんだ。ファンタジー小説で主人公が自分の能力などを見るために……あれっ? 目の前に画面みたいなのが出たり、頭の中に声が響いたり……しないの?

「嘘だ、なんで出ないの?」

 巻き込まれにも何かの救済処置は? まだ将来のため、施設の料理担当のおばちゃんに、料理を習い始めたばかりなのに。面倒で中学の家庭科はサボっちゃったから、基本のお米の研ぎ方と、かた焼き目玉焼きとソーセージしか焼けない。あ、ベーコンは焼ける。って、ここを追い出されたら、スキルも無しに……この異世界で生きていける気がしない。

 何か、わたしに出来ること何かない?
 勉強も、家庭科も、体育は真ん中より下だ。
 運動神経が無いのに、スライムを倒せる? テイムできる?

 神様、女神様、今からでも遅くないです。
 何かわたしに能力をください。と、神に願っていた所。
 強い力で、首根っこをガシッと掴まれて、持ち上げられてた。

 ん?

「俺が悪かった、そんな所で落ち込むな」
「ふぇ? な、なに? ライオンさん?」

「シンだ。俺のことはシンと呼べ」

 猫の様に掴まれて、訓練場の真ん中に連れて行かれた。

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