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難破船

俺は港を追い出された漂流船。

広い海をあてもなく、誰かの救いを求めながら今日も漂う。

本当に好きだった…

君の優しい眼差し
君の穏やかな声
君の色っぽい唇

スベスベした肌
少し膨らんだ胸
柔らかいお尻
温かい手…

ずっと一緒にいたかった
年甲斐もなく惚れてた

女装子と分かっていても
ちゃんと彼女として
君を大切にしていた

会えないでいる時間は
いつも君のことが気になり
Twitterをチェックしたりしては
俺の知らない君を目の当たりにして
ショックを受けたり嫉妬したり
本気で恋している自分に
気持ちよく酔っていた

心のどこかで
別れが来ると
分かっていても
求めてしまう
君のことを…

いっそのこと
男と男の付き合いで
友人関係としてなら
別れはせずに済むかもと
思ってみたりはしたものの

身体の関係があった仲では
心情的に難しい

「それって、ゲイじゃん」
君はそう言う

そうかも知れないけど
俺はゲイさんを求めて
君と会っていたわけじゃない

ただ、君のことが好きになって
B面の君とも仲良くなりたくて
とにかく会いたくて(ヤりたくて)

それは、君からしたら
なんか違うよね…
ゴメンゴメン

でもさ、凄く居心地が良かったんだ
君の港は

君の港にいると
心が満たされて
疲れも飛んで
自然と笑顔になれた

君の肌に触れて
目を閉じると
嫌な事とか
逃げ出したくなるような事も
全部忘れて
穏やかな優しい気持ちになれた

ずっとこのまま
ずっーと、ずっーと…
このままでいれたら幸せだって
そう想っていたよ

どんなに辛い航海も
君という帰るべき港があれば
荒波だって乗り越えられる

風に煽られ大雨に打たれて
転覆しそうになっても
山みたいなウネリを越えれば
君へと導く一筋の光があると
そう信じて…

何日も何週間も
夜を越え、朝を迎え
ひたすらに光を探す
君の元へと続く航路を
俺は探すんだ


でも…
もう見つからないね

君から照らされる
灯台の灯火は
何の前触れもなく
突然に消えた

俺がどれだけ逢いたくても
入港許可がおりなきゃ
停泊なんて出来やしない

そう…
仕方がないこと

大丈夫だよ

全然、平気

俺、慣れてるから

この女装海という大海に
船出を決めた時から
一つの信念を持って
進んできた

それは
「何があっても受入れる」

女装子達は常軌を逸した存在ゆえに
行動も言動も俺の思考の範疇を超えた
謎だらけの出来事が度々起こる

待ち合わせに来ない
来てもスグに帰る
なに喋ってるか分からない
なぜ無言なのか分からない
絶対に服を脱がない
スグに服を脱ぐ
キスはしない
キスしかしない
口ではしない
口でしかしない
エッチしない
エッチしかしない
好きにならない
好きにさせる…

音信不通は普通のこと
便りがなければ、お察し下さい

だが、それも全ては己を守るため
その為には自らを捨て、忽然と姿を消す

置いてけぼりの孤独な純男がまた一人
行き場を失う愛はやがて哀しみへと…

フラフラ
ユラユラ
あてもなく彷徨う

少しの希望と
少しの寂しさを乗せ
今日も漂う漂流船

港探して燃料枯渇
給油も出来ない愛なき航海

そのうち疲れて
難破船

こんな想いは深く沈めて
忘れてしまえ

たかが恋
愚かな恋
やがて朽ち果て海の底…


おしまい。










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