河川敷の散歩者
1週間ぶりに川沿いの道を散歩しながら帰る。桑の実をつまみ食いするのがこの時期ならではの楽しみだが、今日は実がほとんど見当たらない。誰かがジャムにするために大量に摘んで行ってしまったのかもしれない。
三毛猫が立ち止まって、気張っていると思ったら、脱糞していた。一応、猫のマナーとして土をかけていたけれど。ひと通り土をかけると、慣れた足取りで歩き出す。毛並みはとてもきれいで、目もくるんとしていて、かわいらしい。ちょっと、タヌキみたいにも見える。人慣れしていて、私が近づいても、へっちゃら。すると、「ミーニャ」という声が。どうも三毛猫を呼んでいるらしい。
声の主は、10歳ぐらいの、三日月みたいな目をした笑顔の男の子。虫取り網を持っている。「頭や背中なら、触っても大丈夫ですよ。」と教えてくれる。聞くと、自分が生まれる前から家に来ている地域猫だという。家に入って来るので、半分飼っているような感じらしい。
お腹がふっくらしているので、メスで妊娠しているのかと思ったけれど、そうではないらしい。「自分の家でもエサを上げるけれど、他でももらっているみたい。」とのこと。
人懐こくて、お腹のふっくらしたミーニャを見ていたら、同じように人懐こくて、お腹がふっくらしていたメスの野良猫のことが脳裏に蘇る。
その昔、東京のS区に住んでいた頃、白地に茶色が入った人懐こいメスの野良猫がいて、毎日、私が大学から帰って来ると、どこからかダッシュで走って来て、玄関前でお腹を出して転がって見せた。煮干しを上げたりしても、他でもっといいエサをもらっているのか、ほとんど食べようとしない。毎日のように、もっぱら私に愛想を振りまきに来てくれて、本当に可愛かった。猫嫌いの父も、この猫のことは、チャッペと名づけて可愛がっていた。
チャッペは、あちこちでエサをもらっているせいか、お腹が地面につきそうなぐらい太ってしまった。それで体の動きが鈍ったのか、ある日、家の目の前の道路で車にひかれて亡くなってしまった。私が高校生の頃に子猫だったから、まだ若かったと思う。目をつぶって横たわるチャッペを見て、もう彼女が私を出迎えてくれることはないのだと、しょんぼりしたのを覚えている。
話を今日のことに戻そう。男の子は、お父さんお母さんと一緒に河川敷に来ていて、ミーニャもパトロールを兼ねてなのか、ついて来たようである。お母さんとお話しすると、ミーニャは13歳ぐらいで、この辺りの地域猫では古株だという。息子さんの方が後に生まれたので、自分の方がポジションは上だと思っていて、息子さんが赤ちゃんの頃から、散歩について来るそう。
猫は散歩する必要はないといわれるけれど、もともと地域猫だから、懐いている人と一緒に自分の守備範囲をパトロールしたくなるのかもしれない。猫のミーニャも、人間の私も、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』ならぬ、河川敷の散歩者といったところだ。また会おうね、散歩猫のミーニャ。
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