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BanG Dream! It's MyGO!!!!! 第7話楽屋シーンの絵コンテ・配置演出について考えてみる【前半】


第7話の楽屋シーン

はじめに

 「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」全13話の中でも、第3話と第7話の楽屋シーンは、とりわけ特殊な絵コンテの切り方をしている。
 燈の視点から描かれるPOVショット(Point of view)でほぼ構成される第3話「#3CRYCHIC」。俯瞰・ロングショットの長回しが多く、ミディアムやクロースアップといった特定の人物に焦点を当てる寄りのショットサイズが抑制され、客観的なカメラサイズ・アングルで主に構成される第7話「#7今日のライブが終わっても」の楽屋パート。
 この2つは対照的と言っていい映像スタイルで、3話の絵コンテが柿本監督、7話の絵コンテがOP絵コンテや「BanG Dream! FILM LIVE」の監督をしている梅津朋美さんがそれぞれ担当している。
 
 今回は、第7話の楽屋シーンをカメラポジションや登場人物の配置演出を中心に考えてみる。ちなみに配信の再生時間でいうと3:28~8:00までの約4分半でカット数は25になる。前半は、Aパート冒頭のはじめから愛音がケータリングを持って部屋に帰ってくる前の立希と燈のツーショットまでの8カットについて考えてみる。
 第7話はまずアバンパートから始まり、その内容はRiNGの入り口でのモブの会話、合同主催ライブのフライヤーを映すエスタブリッシュメントショットからリハーサルのシーンの燈の2回目の「よろしくお願いします……」までとなる。
 OP終了後のAパート冒頭(3:28~)から楽屋シーンははじまる。

1.楽屋シーンのはじまり(グループショットからツーショットまで)


Aパート冒頭から立希と燈のツーショットまでの脚本の描き起こしとカットの情報は次のようになる。(配信の再生時間で3:28~4:05あたり。cutナンバーはAパート冒頭をcut01として数えて()内に秒数を入れてある)

cut01(29)俯瞰ロングで楽屋映す
楽屋、空舞台。
 立希、勢いよく扉を開け、フレームインし、急ぎ気味にL字ソファーの画面 手前側に座る。そのあとから、愛音がフレームインし、うつむきながら、ゆっくりとソファーの画面奥側に座る。燈、そよもフレームインする。(その後、会話の途中で燈は部屋の隅に行ってフレームアウト、そよは画面奥の化粧台まで移動する)
そよ:和食だねぇ。ちゃんと食べないと声でないもんね(OFFセリフ)
燈:(息をつく)……
そよ:緊張したねぇ(onセリフ)
愛音:(そよと同時に)あー
立希:全然リハにならなかった
そよ:そうかな
愛音:(そよにかぶせ気味に)もう無理だよ……。他のバンドみんなすごすぎだし、ギター弾きながら歌ってる人いたし……。
立希:だったら練習すれば
そよ:(「えへ」に近い言葉にならない相づち)
愛音:するけど……
立希:野良猫は?
そよ:あー、どっか行っちゃった
愛音、起き上がりお腹に手を当てながら、ドアまで歩き出す。
そよ:お手洗い?私も楽屋に挨拶いこうかなー
 そよも椅子から立ち上がりドアまで歩き出す。
(↑ここまで約30秒のワンカット)

cut02(8)
そよ:たきちゃんと燈ちゃんは?
立希:いい
そよ:え?いいの?うーん
 愛音、先に部屋から出て、そよも扉を閉めながら退出する。

  • cut01は30秒近い長回しのい俯瞰で現実の撮影において、会話の中心となる三人から一番距離を取った位置にカメラがおかれている。主観的映像と客観的映像に映像表現を大きく分けるとき、被写体とカメラの距離が遠い、被写体のショットサイズがよりロングになる、という二点が客観的映像になりやすいカットの特徴といえるが、cut01はこの二つの要素を含んだ客観的なカットといえる。

  • 冒頭のそよのセリフがoff台詞(台詞をしゃべってる人が画面に映っていない)について、先に部屋に入る立希と愛音に視線がいくので、視線は対比的な愛音と立希の足取りに注目するが、会話自体はそよと燈のリアクションが流れてるので、視聴覚で情報の流れがまったく異なる。

  • また愛音の独り言はそよのセリフに基本的にかぶっていて、この独り言に立希に反応して会話がはじまるが、すぐに話題は楽奈の行方になり、そよと立希の会話になり、愛音は扉へ歩き始める。この情報量の多さとカットの焦点が明確にされない、画面の誰に注目すればいいかわからない構図は、この後も何度がある楽屋シーンのグループショットでも特徴的で、複層的かつ情報量の多い映像から視聴者がある程度自由に情報を取捨選択することになる。cut03からの燈と立希のツーショットでは、cut01とは対照的に、立希の手の表情や燈の顔をミディアムサイズのアオリで映すようなキャラの内面をより伝える主観的なフレーミングを選択している。楽屋シーンは長いと30秒から50秒近い長尺のカットが何度かあるが、この情報量の多い設計によって視聴者は注目する焦点を切り替えながら、カットへの関心を長く維持することができるのではないだろうか?

  • 空舞台(人物が舞台の上にいない状態のこと)からcut01が始まり、その後も登場人物がフレームインとアウトを繰り返すことで、独り言と会話、会話への割り込みが混ざったグループショットの会話シーンのコミュニケーションの渋滞感・雑然感からツーショットの燈と立希の質感のある感情の交流までコミュニケーションの質感をその時舞台にいる人数や関係性で描き分けるのが、演劇的な表現に感じた。もし舞台版「it'sMyGO!!!!!」があったとしても、この楽屋シーンは無理なく再現できるように思えるし、ソファーと机が置かれた舞台にマイゴメンバーが出入りして会話劇が進行する姿が簡単にイメージできた。

  • cut01とcut02はその後何度も同ポ(それよりの前のカットと同じ構図を使うこと)として登場する。cut01だと、愛音が帰ってくる所、愛音がケータリングの三食団子を手に取ってからの立希との会話、アフターグローに声をかけられ椅子を倒す立希などが兼用で、cut02だとそよが帰ってきて沙綾が楽奈に話しかける所、アフターグローに呼び出される所で使われている。

2.燈と立希のツーショットから愛音が戻るまで

cut03(5) cut01と同ポジ
 立希、画面外の隅で座る燈に顔を向け
立希:燈……そこ冷えるから椅子座ったほうがいいと思う
cut04(16)化粧台の椅子ナメで二人のロング
立希:そこ冷えるから椅子座ったほうがいいと思う
 立希、横に移り燈にソファに座るように促す。燈、ソファに移動。
立希:緊張してる?
燈:うん
立希:するよね
cut05(27)ソファー座面の高さから二人のアオリ※立希の顔はフレーム切れ
燈:本番は……お客さん、いるんだよね……
立希:アフターグローさんのとのファンがほとんどだと思うけど
 立希、左手を二回握りしめる
燈:前のライブの時、お客さんがボーカル必死すぎって
立希:なんでそんなこと覚えてるの!?
燈:(反応する声)
立希:ああ(反応にうろたえる声)、ちがう!咎めたんじゃなくて
 立希、両手をあげて慌てた手つき
燈:(反応する声)
立希、両手を握りしめて落ち着かせる。燈、立希のほうを向く
立希:(一息つく声)……燈
cut06(4)楽屋の時計が大きく映り、左奥に二人の俯瞰※ここでも立希の顔はフレームから切れる。
燈:(反応する声)
立希:燈はライブしてくれるだけでいい。
cut07(2.5)机のペットボトルの左ナメに立希のミディアムショット
立希:燈のライブは最高だから
立希、うつむきながら表情をやわらげる
cut08(3)机のペットボトルの左ナメに燈のミディアムショット
燈:立希ちゃん……


  • cut05では、立希の顔はフレーム外に切られていて、手の表情による感情芝居が試みられている。アフターグローのお客が多いという話題では、左手を二回握りしめていて、おろさくお客にバンドや自分がドラマーとして受け入れられるか不安な気持ちが表現されているのではないだろうか?その後の、「咎めたんじゃなくて」と慌てる両手の手つきや燈への感情を吐露する時の両手を握りしめたポーズなど、燈が両手を握りめて続けているのと対照的に映る。

  • cut04,ctu07,cut08はそれぞれ前景に椅子やペットボトルを置いたナメのショットになるが、この配置演出の解釈はまだ自分の中で定まってないので、いくつか考えを出してみる。まず、左にペットボトルが置かれ、右に「燈のライブは最高だから」と言う立希がミディアムのややアオリで映るcut07は、立希の心情に寄りそった主観的な表現を含むが、1.大きく映るペットボトルとの対比で高圧的なイメージのある立希の気持ちの面での小ささや等身大な雰囲気を演出している2.立希と燈は対面しての会話ではなく、隣に座って会話しているので、右を余白にし、左の余白をペットボトルで埋めることで意識や気持ちが右隣の燈へ向かっていることを表している。この解釈の場合、立希がいる左側にペットボトルが配置され、「立希ちゃん……」とつぶやく燈のミディアムショットであるcut08は、立希と燈の間に壁があることになり、この二つのカットで立希から燈への気持ちは通じ合ってると思ってるが、燈から立希への気持ちはそうではないというニュアンスを含むことになる

  • 立希と燈の人物配置はソファの上で一人分ぐらい距離が開いており、立希の燈への距離感があらわされている。そして、cut08は左にペットボトル、右にソファーのひじ掛けがあることで燈のパーソナルスペースが視覚化されていて、愛音が帰って来た時にcut08と同ポジで燈のいた所に愛音が入ってきて、燈が隣に座る直すことで自然と燈のポーソナルスペースに入り込める愛音の性格や関係性を表現している(楽奈が連れ戻されてからのグループショットでは、愛音がいた位置に楽奈がいるが、燈との距離が少しあるのがわかる)。


終わりに

また楽屋パートも三分一しか終わってないし、コンテの補足や主観と客観の使い分けや配置演出など書き足したいことが多いが、前半はここまでとして、時間があれば後半で残りのカットの演出について考えてみる予定です。
 補足としては、実際に脚本を文字で書き起こしてみると、演技の面でも面白い発見が多く、
1 そよの台詞には、語尾に長音(ー。)をつけてしまいたくなるケースが多く、語尾が間延びしていて、そよのライブに対しての緊張感のなさやある種の無関心さが語尾処理の面で表現されていると感じた。
2 愛音の台詞には、語尾に三点(……)をつけてしまいたくなるケースが多く、語尾や語気が弱くなっており、ライブに対しての不安や緊張があらわされていて、初見では立希の語気の強い印象が目立っていたが、メンバーごとのライブへの緊張感が細かく対比的にディレクションされているように感じた。(あとは、楽奈は平常、燈はより無口といった感じに位置づけられるか?)
3燈の台詞には、言葉にならないものが多く、書き起こしていても(反応する声)とか(息)とかと書くことが多く、楽屋パートは半分ぐらい台詞になっていない台詞を演じているという印象で、ニュアンスの演技が多いので大変そう。
などの感想を抱きました。実際にスクリプトやコンテを書き起こしたりすることで演出意図が見えてくることもあるので、興味がある方はぜひ試みてほしいと思いました。余裕があれば、三話のほぼ全編POVカットやライブシーンなども考えてみたいと思います。

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