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2024年1~3月履修コンテンツ 運命の巻戻士/ブレイバーン/ノージョブフドウ/構造と力etc



アニメ
ダンジョン飯

勇気爆発バーンブレイバーン

アンデッドアンラック

シャングリラ・フロンティア


漫画

運命の巻戻士(1~28話)


映画

劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦


書籍

構造と力(文庫版)

2020年代の想像力 文化時評アーカイブス2021-23

ウィトゲンシュタイン入門


動画

ノージョブフドウ


ピックアップ

運命の巻戻士


過去の有名タイムリープもの作品の良いところを融合させ児童誌向けに調理したキメラ作品ですが、ここ最近読んだ漫画の中で群を抜いて面白いです。こんな上質な作品を読んで成長するキッズの未来は明るい。

タイムリープを繰り返し正解の世界に辿り着く」というストーリーラインはリゼロやシュタゲに、また複数人のタイムリーパーが出現するところはひぐらし業/卒と共通していますが、本作はこれらの作品が抱える問題を克服しているところが素晴らしいです。タイムリープ作品はその性質上、物語が複雑かつシリアスになりがちな傾向にあります。

シュタゲを想像すると分かりやすいですが、タイムリープものってSF要素が絡むのでタイムリープの理屈やタイムリープして何を変えたのかなどを解説する必要があって小難しい印象を与えます。本作はタイムリープはあきまで手段として活用するくらいのポジションで中心ではありません。小学生をメインターゲットにしているのでそういった理論的解説は最小限に抑えています。

この作品において重要な点は、タイムリープにおける地道に繰り返して正解を模索するという要素を少年漫画的な文脈と繋げた点にあります。本作ではループそのものに重い制約はありませんが何百回と繰り返すと精神的ダメージを受けます。それは読者的にも共感しやすくて、幾度も繰り返さないと敵が倒せないという事実が敵の強さと結びつきますし、それほど繰り返すこと自体が少年漫画における修行=努力に置き換えることができます。

また敵味方ともに時間操作に関連した特殊能力を持っていることもあり能力バトルものとして見ても面白いです。総じて、タイムリープもの、能力バトルもの、ミステリーもの全てが高水準で維持されつつ子供から大人まで幅広い年齢層が読んでも楽しめるという奇跡のバランスで構築されている作品です。


2020年代の想像力 文化時評アーカイブス2021-23

ゼロ年代の想像力』でおなじみの宇野常寛の新作。彼のnote記事をまとめて書籍化しているので『ゼロ年代の想像力』のように書籍全体としての大テーマがあるわけではないですが、特に事前知識を必要とせずオタクなら馴染み深いコンテンツがタイトルとなっているので読みやすいです。宇野は批評で食っているだけあって着眼点が面白く、かつそれを平易な文でまとめているためそこらのオタクの批評文より数ランクは質が高く評論の教科書としてオススメです。

個人的には『スパイファミリー』の章が好きです。内容がチープで個人的にはあの作品は面白いと思えないのですが、「ロイド一家が偽家族なのに温かみがあるのは、『本物の家族』のフォーマットが暗に前提とされている」という宇野の視点ははっとさせられました。僕の幼少期の時代では「クレヨンしんちゃん」の野原一家の平成的な核家族が普通の幸せとして広く受け入れられていたけれど、長く続く日本社会の停滞で野原一家は普通の幸せでなく容易に手が届かない光景になってしまった。Twitterばかり見ていると忘れがちですが世間一般では今でも野原一家が理想の幸せとして享受されていて、次代ゆえに安易にそれを手に入れられないからこそそれが仮託された『スパイファミリー』がウケているという構図。作品の出来不出来だけを問題にせずシナリオや作品の構造を分析し新たな価値を発見する批評の面白さが垣間見えます。

アニメにしろ漫画にしろ小説にしろ、何からのコンテンツを見たり読んだりして「ここが面白い/ここがつまらない」と表明することはただの感想です。一方で批評とは自身のお気持ちは脇に置いてなるべく客観的にその作品を分析し、作品に新しい価値を創造する営みです。ところが昨今は特定の作品を誰かとシェアすることそれ自体が目的化していて、本質的にマイノリティになりがちは批評行為は糾弾され下火になっている風潮があります。そんな時代だからこそ批評の面白さを発見できる本書は色んな人に読んでもらいたいです。


構造と力

数年前にハードカバー版を読むも意味不明で挫折していましたが、解説付きの文庫版が出たため再読。千葉雅也の解説が大枠を掴むのに最適で、中心線を意識して読むととりあえず要旨は理解できました。

まぜ前提として本書は構造主義フロイト/ラカン精神分析ドゥルーズ=ガタリマルクスフーコーバタイユといった現代思想をまとめた本です。ただし浅田の主張したい本筋が中心にあって、現代思想はその主張のために利用されるにすぎず、現代思想思想について丁寧に解説してくれる本ではありません。例に挙げた思想の基礎知識くらいは抑えておかないと内容が全く理解できない難解な本です。

この本の白眉は全く別々の現代思想の概念を、「過剰さ」というモチーフを導入してひとつのレイヤーに乗せてしまう点にあります。つまり『構造と力』とは現代思想を代表する概念を「過剰さ」の補助線を用いて仕分けする本と言い換えることができます。なので基礎となる現代思想の概要は事前に知っておく必要があるし、この本の基本構造、何の作業をしているのか理解できないと挫折してしまうと思います。総じて応用レベルの本であり、基礎を学んた後に復習しつつステップアップするために読むのがいいと思います。まあぼくも1割くらいしか理解できてないので何度も読み返す必要がありそうです。


勇気爆発バーンブレイバーン

1話が話題になったはいいけど順調に失速していったイメージのアニメ。別に面白くはなかったです。

熱血ロボットアニメを露悪的にパロディ化しているのは新しいといえば新しい。そういうパロネタ、メタネタがウケたんだろうけど一発屋の域を出なかった。

個人的に斬新だと思ったのは、これまで拡張身体として描かれがちだった巨大ロボットを性的なモチーフをとして描写したことです。イサミが搭乗することでブレイバーンが(性欲的に)興奮するシーンとか金髪の準主人公が死後ロボットになって合体するシーンとかがそれに当たるのですが、このモチーフがそこまで掘り下げられることはありませんでした。

ですが最も受け付けなかったのが白髪のロリで、常に事件性のある奇声を発するものだから本当にしんどかった。二期があっても多分見ません。


ダンジョン飯

作画、ストーリー構成、世界観、キャラクター、演出、音楽等すべての完成度が恐ろしく高くて欠点が見当たりません。タイトル的に出落ちだろと思いつつトリガーだし一応チェックするかと思ったらしっかり面白い。世界的にウケるのも納得です。

日本的なファンタジー作品でなんとなく出てくるモンスターたちそれぞれに生物学的な設定を与えるミクロ的精巧さと、世界設定から旅の目的までストーリー全体を貫くマクロな視点双方を「食」というテーマで統一してブレずに描写してくるのがすごすぎる。

例えば「動く鎧」の回。大抵の漫画家なら鎧部分をどう調理するか、どんな味がするのかなどを考えるかと思うんですが、本作では「なぜ鎧が動くのか」という観点から考察が始まります。鎧の内側に軟体生物が張り付いていて鎧を操っているという考えに辿り着き牡蠣の要領で軟体生物を調理していくのですが、鎧を食べるではなくこの流れに行きつく作者の発想が素晴らしい。これはファンタジーな生き物たちそれぞれを生物学的に考察しないと出てこない発想で、これが登場する全てのモンスターに適用され、果てはダンジョンというモンスターの生態系そのものについても考察されていきます。エピソード単体としても適度にコミカルで気楽に鑑賞できますし、ストーリー全体としてもファンタジーバトルものとしてクオリティが高く、また世界観や設定も練られており、かつそれら全てが「食」という普遍的なモチーフで語ることができるというどこをとっても非の打ち所のない作品。二期も楽しみにしています。


ノージョブフドウ

今回のオススメYouTuberのコーナー。旅行系YouTuberというとオシャレな国の観光地に行ったり上手い飯を紹介したり、逆にジャーナリズムから治安の悪い国を紹介するようなイメージを持ちますが(自分が旅行系チャンネルを見ないので偏見)、彼はそのどちらにも該当しません。彼を一言で表すなら「低俗」に尽きます。彼の基本スタンスは誰も行かないような場所に行き現地の人や飯を下品な言葉で罵倒することであり、その動画の面白さはノージョブフドウという男の異常性に担保されています。彼の本領は自身の異常性に無自覚な点にあります。ファッション異常者であれば「俺はヤバイやつだからこんなことしちゃうんだぜ」という仕草でわざとらしく異常行動をしますが、彼はナチュナルに狂っているのでちょっと散歩するくらいの感覚で治安最低の国に行き、道を聞くくらいの感覚で現地人を罵倒します。面白い動画を撮ろうと思い旅行するのではなく、暇だったから、なんとなくという理由で旅をします。

それら異常さの根底にあるのは彼が自身の生に無頓着である点だと推測しています。自分の命を勘定に入れていないので忖度なしでフラットに物事を見れたり無職なのに動画の広告を剥がされても平然としていたり治安最悪の地域に飛び込みリスクのある行動の数々をとれたりするのだと思います。自身の命を軽く扱えるかというのはパンピーと異常者を分けるラインのひとつと言えます。ナチュナル異常者という点で彼は希少な才能があると言えますし視聴者の目に美しく映るのではないでしょうか。

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