見出し画像

ブラッキー復刻

 17年前の今日、エリック・クラプトンのかつての愛器である“ブラッキー“が復刻された。
それは、私がブラックフライデーという言葉を認識した日でもあった。
2023年11月24日


 クラプトンの伝説のギター“ブラッキー”。
かつてエリック・クラプトンが所有し、愛着をこめて“BLACKIE(ブラッキー) ”と呼んだ黒いフェンダー・ストラトキャスター。世界中のファンを魅了し続けてきたギターである。
 そもそも“ブラッキー”は、クラプトンがクリームを傷心の身で解散し、アメリカの南部音楽に傾倒したアメリカツアー中に1950年代のストラトキャスターを二束三文で数本買ったところから始まる。
1960年代後半、ストラトキャスターの人気は落ち込み、ジャズマスターやジャガーが台頭して時のことだ。
 クラプトンは、アメリカ土産として古いストラトキャスターを数本購入し、ジョージ・ハリスンやピート・タウンゼントに配り、残った3本の固体から良いパーツだけを集めて1本のストラトキャスターを作った。言わば“ブラッキー”は寄せ集めのギターである。いわゆる専門用語でフランケン・ギターだ(つぎはぎのギターということ)。自分好みのオリジナルギターと言える。
 “ブラッキー”は、クラプトンのソロアルバム『エリック・クラプトン』(1970)、デレク&ドミノスの名盤『レイラ』(1970)、約3年間のドラッグ生活から復帰して発表したアルバム『461オーシャン・ブールバード』(1974)〜『ビハインド・ザ・サン』(1984)までの約15年もの間、クラプトンの音楽を支え続けた。
 クラプトンは、老朽化を理由に1985年のアメリカ・ハートフォード公演を最後に手にすることは無くなったが、そのギターをオークションに出してしまったとき、全世界のエリックファンは驚きを隠せなかった。
彼の音楽人生の一部を蝕んだドラッグやアルコール依存について贖罪を示して建てられた専門施設「クロスロード・センター」の運営費捻出のためにクラプトンは、所有するギターを何十本もオークションに出した。
“ブラッキー”は2004年、クリスティーズのオークションで95万9500ドル(約1億1200万円)という記録的な高値で落札された。

 そして昨年、この“ブラッキー“がフェンダー・カスタム・ショップから復刻生産されたのだ。発売は2006年11月24日のブラックフライデー(復活祭直前の金曜日に、聖職者が黒衣を着ることにちなむ)に設定され、黒ずくめの発売だった。
全世界275本限定での復刻生産。実勢価格で300万円だそうだ。
あれから、1年。ようやくその固体が市場に出回るようになった。ひとつひとつ手作りで組上げられ、傷のひとつひとつ、塗装のハゲなどを再現しているので、一気に製作することは困難なギターである。

 フィギュアと違い、ギターそのものを製作するので、アート的な部分もさることながら、音についても納得のいくサウンドを構築しているはずだ。
 私は、運良くクラプトンが本物の“ブラッキー”を弾く公演を数回観たことがあるので、音の枯れ具合や時よりピーキーになるサウンドが耳の奥底に残っている。また、あの頃のクラプトンはエフェクターもたいして使用しておらず、ほぼミュージックマンかマーシャルへ直にプラグインしていたので、ギター本来の音が出ていたと思う。乾ききった枯れた音だ。
 1987年の武道館公演でレースセンサー仕様の“シグネチャーモデルのブラッキー”で来日したときは、最新のソルダーノのアンプを使い、エフェクターもかなり使用していたので、急にコンテンポラリーな音が武道館に響いた。コンプレッサーを何回もかけたような分厚い音は、枯れた音の代表格だったクラプトンがイメチェンをした瞬間でもあった。フィル・コリンズがプロデューサーをしていた頃の音だ。
 私はこのレースセンサーのストラトキャスターを数回弾いたことがある。
感想は、ストラトキャスターと名乗っているが全然別のギターに思えた。ストラトの形をしていてもレスポールみたいな音も出るし、欲張りというかデリカシーが無いというか。1本でいろいろな音が出るので使い勝手は良いかもしれないが、私の好きなギターでは無いな、と思った。
“ブラッキー”が枯れたペキペキペキという音だとしたら、“シグネチャーモデルのブラッキー”は、“ブォオー・ブゥオー!”という猛獣だ。

 さて、今回の復刻された“ブラッキー” 。ただのアーティストモデルではない。ひとつの美術工芸品と言っても良いだろう。もちろんレプリカだが、そういった美術品が存在する世界もある。しかも全世界275本とあれば、世界中のクラプトンマニアの争奪戦になっているに違いない。
 そして最近、私はこのギターを楽器屋で見た。
ショーケースに飾られていた“ブラッキー”は美術品のようだった。
 私は、プレイヤーなのでこういう美術価値の高いモデルに魅力は感じない。それはもし実際のプレイに使用しようとした場合、弾く音楽が限られてしまう気がしてしまうからだ。クラプトンは好きなミュージシャンだが、マニア的な趣味は持ち合わせていない。
しかし、私がもし楽器屋だったらディスプレイ用に購入するかもしれないが…投資目的と思われるのも嫌なので、やはり敬遠するかな。

2007年11月16日
花形

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?